~After~理央の苦手なもの

 葵ちゃんの暴走があった授業も終わり、時はお昼休み。

 私達はいつものように屋上で食べていた。


「いやぁ~しっかし、理央のガチギレは久しぶりに見たな」


「たしかに、あれは葵が悪いです」


「ごめんなさい……。

はしゃぎ過ぎました……」


「私もごめんね、葵ちゃん」


「理央が怒るとあんな感じになるんだな。

覚えとこう……」


「理央ちゃんが怒る時って、ご飯が絡んだ時か、私達オサナ組が絡んだ時だよね」


「他にも、弱い者いじめを見た時とかガチギレしてると思うけどなー」


「理央は王子様気質な所がありますからね」


 そんな……王子とか、そうでもないよ。

 ただ、大事な人達だから……オサナ組が絡んだら周りが見えなくなるだけだよ。

 大したことじゃないよ。


「あの……王子様とか恥ずかしいからヤメテ……」


「ふふっ…はいはい」


「準人、楽しんでるし……」


「そんな事ないですよ」


「まぁ、いいけど……。

そういえば、今日はどうするの?

私の家来る?」


「今日はパスー。

夕方から雨みてーだし」


「俺も!

ドラム練習したい!!」


「私も、新作の衣装作ってるから!!」


「俺も、読みたい本があるので。

あと、練習したい曲があるので」


 陸は雨が苦手なんだよね。

雨の日になると体が重くて辛いから家にこもるって言ってたな。

他のみんなも予定があるみたいだし。


 まぁ、こう見えて、毎日私の家に来る……なんて事、ほぼないのが現実なんだよね。

 来るのはだいたい週末とか、テスト前とか、長期の休みくらいかな。


「わかった。

緋月は?」


「……行ってもいいのか」


「いいけど……なんで遠慮してるの?」


「別に……」


「「「「……」」」」


 え、何この空気……。

 なんで皆、緋月を哀れんだ目で見てるの?

 私、何か変な事言ったかな……。

 まぁ、いいか。


「そういえば、如月。

さっき理央の写真撮ってただろ。

どんな感じだ?」


「んー……と、はい、これ。

と言うか、名前……」


「あーさん……。


って、おー……見事にイケメン……」


「でしょ?!

これはシャッターチャンス逃すまいと思ったのよ!!」


 すごい、葵ちゃんと緋月が意気投合してる……私の写真で……。


「あ、これ、連写の中で一番いいやつ!!

緋ーちゃんにあげる!!

あと、これと……これも、あげる!!」


「ちょ、ちょっと葵ちゃん?!

どんだけ写真あるの?!」


「んー……いっぱい!!

去年の夏祭りの浴衣姿とかー、水着姿とか!!」


「ぎゃー!! やめて!! そんなもの緋月にあげないで!!」


「もう、もらった」


「もう~恥ずかしがることないのに~。

スタイル抜群で、水着もこんなに着こなしてるんだよ?」


「……周りが胸しか見てないという大事件……」


「ぶっちゃけ、顔も相まって見てたよなー」


「視線が上にいったり、下にいったりしてましたからね」


 そうだっけ……。

 よく覚えているなー……。

 ってあ、もうお昼終わる……そろそろ午後の授業に出なきゃ。


***


 そうして午後の授業も無事に終わって、私と緋月はオサナ組と玄関先で別れて私の家を目指して歩いた。


「夕方から雨って言ってたけど、見事に空が真っ暗……」


「だな。

これは……急がないとドシャ降りになりそうだな」


 そう言って私達は駆け足で家に向かった。

私達が家についた頃には外はすごい雨が降り出したんだ。


「緋月の言うように急いで正解!!」


「うん。

ギリギリだな」


 二人してリビングに荷物を置いて、ゲームしたり、ギターを弾いたりしてゆっくり過ごしていた。

 ふと気が付くと、もう夕ご飯の時間だった。


「そろそろ時間だし、俺、帰るよ」


「わかった……って雨は……まだ降ってる……。

というより、これ……さっきより強くなってない?」


「……げ……」


「どうしたの?」


「あー……父さん……電車が止まって帰れないみたいだ……タクシーとか交通機関がマヒしてるっぽい」


「え、そんな状態で歩いて帰るのは危ないよ!!

なんか風も出て来てるし!!」


「……とりあえず、様子見るしかないか……」


「私は全然大丈夫だから、ゆっくりしてって。

そろそろ、ご飯作るね。

あ、緋月、その間お風呂入る?


まだ明けてない下着とかあるし、服もあるし」


「……そうする」


「了解!」


 緋月がお風呂入ってる間にご飯を作って……ってまって。

 今思ったんだけど、緋月と二人きりだ!

 なんで今気づいたの?!

 あまりにも遅すぎない?! 

 と、とりあえず、ご飯!!

 落ち着け、ご飯、落ち着け……。


 ふぅ……ご飯出来た!!

 あとはテーブルに並べて……。


「風呂……サンキュ。

手伝う……」


「うん……ありがと」


 ご飯並べて席に着いて……二人してご飯を食べるのはいいけど……何で無言?

 そういう私も二人きりを意識して会話がないし……。


「ごちそうさまでした。

相変わらず、美味しかった」


「ありがとう。

あ、私もお風呂行ってくる!!」


「ん。

食器は任せろ」


「うん」


 緋月の言葉に甘えて、私も早くお風呂行こ!!

 お風呂で落ち着こう……。


 ふぅ~……お風呂気持ちいい……。

 あ、外で雷なった……ヤダな……。

 雷は昔から苦手。

 音とか稲光とか、あと、停電……。

 早く出よ……。


私がお風呂を出て体を拭いている時、雷が近くで落ちたのか、地割れのような大きい音が響いた。


「わ?! 雷落ちた?!

って……わっ……電気……ウソ……」


 おまけに停電ときた……。

 これは……マズイ……怖い……。


「……り……ー……」


 緋月の声?

 ここに近づいてくれてるのかな。

 

 でも……暗闇と雷が怖くて動けない……。


 と、その時、またも大きく雷が近くで落ちる音がした。


「きゃーーー!!!」


 私は逃げるように思いっきり脱衣所のドアを開けた。

 そして何かにぶつかって倒れ込んだ。


「うわ、理央?! 平気か?!」


「ひ……づき……雷……怖い……」


「……」


 あ、緋月……ぎゅってしてくれた……。

 落ち着く……。

 私のものなのか、緋月のものなのかわからないけれど、鼓動の音が心地良い……。


「理央……」


 あ、体……床に寝かされた……。

 火照った体にフローリングの床が当たっている。


「ん……」


「キスしてたら……雷も気にしなくていいだろ……」


「ひづ……んっ……」


 緋月……触れるだけのキスだったのに、唇で角度を変えて……舌で開けた……。

 舌が入って……口内を……。


「ん……んん……ふっ……んぁ……」


「……はぁ……」


 どれくらいそうしていたんだろう……体……さっきよりも火照って……うずく……。

 あ……緋月、離れた……。


「理央……」


「んっ……緋月……」


 緋月の手が……頬を撫でている……気持ちいい。


 その時、電気が復旧したのか、パッと灯りがともった。


「……」


「……」


 え、あれ……電気……ついた。

 というか、この状況って……私……バスタオル一枚……。

 しかも、緋月、まじまじと見てるし……。


「あ、あの……緋月……」


「……」


「何か言ってよ、バカ!!」


「いてっ」


「もう、私こんな格好で恥ずかしいんだけど!!」


 あ、思わず緋月のおでこを叩いてしまった。

 今のうちだ!!

 緋月が顔面を抑えているうちに逃げて、着替えに行こう!!

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