〜After〜緋月のヤキモチ

 文化祭後の初の登校日。 


 私は物思いにふけながら通学路を歩いていた。


 文化祭……無事に終わってよかった。

 後夜祭のライブも楽しかったし……。


 そういえば緋月と付き合ったあの日以来、キス以外、何もないな……。

 あの日は、イタズラや仕返しだって言って大胆にもいっぱい触れて来たのに、それがパタリとなくなった。


 私が何度も待って……って言ったから、待ってくれてるのかな。


 私が学校に着き、いつものように玄関先で靴を履き替えていると、何人かの女の子達に声を掛けられた。


「あの……一条先輩……後夜祭のライブ、すごくカッコよかったです。


これ……よかったら、受け取ってください!!

中身はお菓子です。

……手作りです!!」


「え、いいの?! お菓子、大好きなの!! 大事に頂きます!!

ありがとう!」


「受け取ってくれて、ありがとうございます!!」


「あの! 私のも受け取ってください!」


「私のもお菓子です!!」


「私のもです!!」


 わ、すごい……朝からいっぱいプレゼントもらっちゃった。

 これは……職員室で袋もらってこなきゃ……。


**


「おはよう~」


「おはよう……って何そのプレゼントの数?!

福袋が二つ分……ってところだね。

しかも、袋パツパツ……」


「あ、葵ちゃん、おはよう

ここに来るまでの道中でもらっちゃった」


「すげー……。

バレンタイン並みだな……」


「どれも中身はお菓子だって言ってたから、悠ももらう?」


「いや……いい……」


「そう?」


 まぁ、こんなにいっぱいのお菓子でも、私にかかれば余裕の理央ちゃんよ。


「おはよう……って……なんだ、それ……」


「あ、緋月、おはよう」


「理央への差し入れなんですって」


「へー……。

まぁ、後夜祭、カッコよかったもんな……。


すっごく」


「う、うん、ありがとう」


 あれ……緋月……なんか怒ってる?


「なぁ、理央、ホームルームまで少し時間あるだろ。

荷物置いて、俺に付き合ってくれない?」


「ん?

いいけど……どこいくの?」


「いってらー」


 私と緋月は荷物を置いて、葵ちゃん達の声を背に教室を抜け出した。

 緋月の後を追って来た場所は、授業前の空き教室だった。


「緋月? こんな所にどうしたの?」


「……」


 わ……これ……壁ドン?

 あ、後ろ引き戸だから、ドアドン?

 って、そんな呑気な事言ってる場合じゃない!

 両腕で壁…もとい、ドアドンされて進路ふさがれてる!

 しかも近いし……あ、緋月……近づいてくる……。


「理央……」


 あ、触れるだけのキス。

 すぐに離れた……。


「……ダメだ……足りない」


「え……んんっ……ん……んぁ……」


 わ、急に来た……しかも、この間みたいに……深いキスだ。

 でも、前みたいな手探りじゃなくて、少し激しい……。


 どうしよう……緋月の手で頭と腰を固定されて、逃げられない。

 なんか……掴まらないと、変な感覚が……。

 制服……掴ませてもらおう……。



「ふ……んん……あっ……んぅ……」


 緋月の舌……全然止まらない。

 何度も口内を撫でられて……どんどん恥ずかしい音、出てくる……。

 このキス……おかしくなりそう。

 

 しばらくすると満足したのか、緋月の口が離れていって抱きしめられた。


「はぁ……はぁ……理央……。


ごめん……嫉妬深くて……」


「ひづ……き……ヤキモチ……妬いたの?」


「……うん。

いっぱい何かもらってたし……いろんな奴が理央を見てて、理央を取られないかって……不安になる。


ごめん……理央を疑うみたいな言い方……」


「ううん……大丈夫」


 きっと……緋月の過去が関係しているんだな……。

 どうにかして、緋月を安心させたい。

 でも……どうすれば……。

 

 今の私は、緋月を強く抱きしめる事しか……。


「ごめん……そろそろ戻ろう」


「……うん」


 私と緋月は少し空気が重い中、自分達の教室に戻った。

 

 教室に戻った私達は、まだホームルーム前だったため、自由に過ごしていた生徒達に質問攻めにあった。

 主に、付き合ってるのかどうかという質問。


 この質問に、私は頬を熱く感じるのがわかったんだけど、緋月の顔を見ると、他の女の子達の前で見せるような無表情を浮かべていた。


 緋月がそのまま席に戻ってしまったため、その場に残された私が答える羽目になったんだ。

 私が応えている最中にホームルームのチャイムが鳴って、翔にぃが教室に入ってきた。

 それを見た皆は、自然と解散になり各々自分の席に戻っていった。


 「文化祭お疲れ!

今日のホームルームは特にないが、何かある人いるかー?」


「はーい!

そろそろ席替えしたいでーす!」


「あー……そういや、そうだなー。

なら、一限目に間に合うようにするならいいぞー」


「ありがとう、先生!」


「やったーー!!」


 席替えかー。

 今の席も悪くないけど、たまには場所移動も新鮮なんだよね。


 あ、席替えは効率を考えてくじ引きにするんだ。

 委員長が黒板にランダムで番号を書いてる。

 くじで引いたあの番号の所に座るんだな。


 なんか楽しみ。


「理央、何か嬉しそう……」


「ん?

んー……今の席もいいんだけど、移動するのも新鮮で楽しみだなーって。

あ、でも、そうなると緋月と離れてしまうのか……」


「まぁ……でも、クラスが離れる訳じゃないから……ガマンできる。」


「ふふっ……緋月がガマン……」


「こら。

これでもガマンしてる方だぞ」


「うん……ありがとう」


 席替えで緋月と席が離れるかもしれない……。

 出来れば、また近くの席がいいな……なんて願ってみた。

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