~Another~緋月のお願い

 時はさかのぼって、文化祭の前の出来事。


 文化祭を目前に控えたオサナ組は、バンドの練習をする為に私の家に集まって、お泊り込みで過ごしていた。

 ちなみに、緋月もバンドの練習を見たいと希望があったので、皆と同じくお泊りする事になっている。


 今は皆、食事もお風呂も終わってリビングで各々ゆっくり過ごしている。


「なー……理央ー……スマホ飽きた……。

ゲームしていい?」


「いいよ。

何するの?」


「んー……何があるんだ?」


「あ、悠!

それなら、対戦できるものにしようぜ!」


 スマホに飽きてゲームをゴソゴソと探している悠に、便乗した陸……。

 本当に自由だな……相変わらず。


「理央はゲームすんのか?」


「うん。

ホラーアクションとか、RPGとか、育成とかいろいろ」


「へー……意外だな」


「あ、緋月……言っとくけど、理央とゲームやらないほうがいいぜ」


「ん? 陸、なんでだ?」


「すっごい負けず嫌いの負け知らず。

理央とゲームやると、最初は燃えるけど、あとはつまらんくなる」


 えー……陸も悠もそこそこ強いじゃん……。

 私だけが強いみたいな言い方……。


 二人が強いから悔しくて練習したんだから……。


「……」


「あ……理央ちゃんがねた。


理央ちゃん……よしよし……。

二人が強いから、理央ちゃん……めっちゃ頑張って練習したのに……」


「……葵ちゃん……分かってくれるのは葵ちゃんだけだよ~」


「理央ちゃんの甘えモード久しぶり! 可愛い! おいで! いや、もう来てた!

 理央ちゃんのお胸、ラッキー。

ふっかふか……」


 うーん……。

 葵ちゃんに抱き着こうとしたけど、結果的に私が抱きしめてしまった。

 まぁ、いいか。

 葵ちゃん……小さくて可愛い……癒し……。


「女子二人はほっといて俺たちは格ゲーで勝負だ!

いくぞ! 陸!」


「ぜってー負けねぇ」


 やる気満々の二人だなぁ。

 こうなると、軽く二時間くらいは熱中するんだよね。


「あ、男子組は寝床このままリビングでいい?

私と葵ちゃんは寝室のベッド使うね」


「おー。

いつものパターンな。

いいぞー。

これ終わったら、このままここで寝るし」


 集中してるのはわかるけど、なんという気のない返事なの……陸。


 うーん……そうなるとテレビは見れないし、ずっとスマホいじっているのもなぁ。

 葵ちゃんは自前のマンガを読むだろうし……準人はゲーム組と交代しながらやるし……。

 たぶん、緋月も……ゲーム組かな。


 陸と悠の勝負に見入っているし。


「葵ちゃん、私、趣味部屋でギターの練習してるね」


「りょーかい」


 葵ちゃんを抱きしめるのを堪能した私は、一声かけてギターを持ち、趣味部屋にきた。


 ふぅ…みんな自由過ぎて、時々一人になる事が寂しく思える事があるんだよね。


 いや、騒がしすぎるのもたまに傷だけど。

 今は一人の時間を楽しもう。


 とりあえず、フローリングの上に座ろ。

 ここでいいか。


 ギター……やっぱりいいな……。

 触ってると落ちつく……。

 時間もついつい忘れちゃうんだよね。


 って……ノック?


「はーい。

カギ開いてるよー」


「……」


 緋月?

 どうしたんだろう……遠慮がちに入ってきて。


「緋月? どうしたの?」


 あ、隣に座った。

 ……え。

 えー!!

 肩……肩に頭乗せられてる!


 これ……甘えられてる?

 落ち着け……とりあえず、落ち着け……。

 落ち着くためには……ギターを置こう。


「あの……緋月?」


「ん?」


「……」


 呼んだはいいけど、何を話せばいいの?!

 話題、何か話題を!


「……理央……明日の学校……女子の恰好でいくのか?」


「え……あー……。

……迷ってる」


「……理央の好きな恰好していいけど……制服は?」


「……一応あるよ。

どっちでも通えるように、準備はしてる」


「……男装して欲しい……って言ったら……」


「え……」


 あ、頭……乗せるのやめた?

 って、……わ、今度は抱きしめられた……。


「……はぁ~……見せたくない」


「それ……昼間も聞いたよ?」


「うん……。

だって……女子と一線を置いていたとはいえ……本命は別だし」


「ん? 別って?」


 ……。

 え……待って、これって…私、抱きしめられたまま押し倒されてる?!

 だって天井見えるし!

 背中にフローリング当たってるし!


 またこの展開?!

 だってまだ付き合って初日だよ?!

 さっきも言ったけど!!


「一応……男で……人並みに性欲はあるし……」


「……」


「……本命には……それなりに欲情だってする……」


「……」


「その本命がキレイな足出したり……学校内をウロウロして、他の奴の視界に入って……。


……すっげーイヤ……。


今日の格好だって、他の奴にエロいとか言われてたし……」


「そ……れは……ひゃっ?!」


 耳……舐められてる?!


「俺以外のやつに……こんな風にされてもいいの?」


 わ……今度は太もも……撫でられてる……。

 それに、腰にも手がきたり……。

 どうしよう……くすぐったい……。

 けど、それよりも……恥ずかしいと、だんだんとくすぐったいとは違う感覚が襲ってくる。


「……ん……ひ……づき……ま……って。

くすぐったい……」


「……理央が……お願い聞くまで辞めない」


「え……そ……んんっ……」


 今度は……キス……されてる。

 しかも、昼間にした触れるだけのキスじゃない。

 口を開けた瞬間に……舌を滑り込ませたんだ。


「ん……ふ……んん……んっ……。


ひ…んぅ……まっ……」


 緋月の舌……角度を変えて口内を犯してくる……。


「……はぁ……理央……」


「……は……っ……あ……む……ね……」


 緋月の手……いつの間に胸に……。

 しかも……ブラの上から……。


「……女子の恰好してると……他の奴にもこんな事されるぞ……。

いいのか?」


「やっ…ん…耳…よわ…い。

…あ…むね…も…」


「……返事……。

男装……して欲しい……」


「ひ……づき……んんぅ……」


 また……キス……深い深い……キス。

 それに、胸もさっきよりも強めに……。


「んん~……。

す……る、からぁ……まっ……」


「……はぁ……」


 やっと……やめてくれた……。

 ずっと……返事できなかったじゃん……。


「……はぁ……ひ……づき……のばかぁ……。

心臓……もたない……はぁ……」


 今、顔見られるの恥ずかしい……隠そう。


「……俺も……もたねぇよ。


ごめん、やり過ぎた。

泣かないで……」


「ん……」


 私……涙なんていつのまに。

 あ、今度は触れるだけのキス。

 しかも……唇だけじゃなくて、おでことか……。

 これはこれで、くすぐったい……。


「はぁ~~」


「わ?!

なに、てか、胸に顔!!」


「ん~……いいだろ、別に……彼氏だし……。

それに、さっき、如月も同じ事してた。


……羨ましかった」


「……。


ふっ……ふふっ……」


「……笑うな」


「だって……ふふっ……葵ちゃんにヤキモチ……」



 いろいろ急展開過ぎて驚きばかりだけど……緋月なら……いいかな。



 緋月のお願いなら、当分、男装辞めれないな……。

 それに、学校で女子の恰好をしようもんなら、私の心臓がもたない……。

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