好きで溢れている
後夜祭に向けて私の家でバンド練習を終えた私達。
演奏を目の前で緋月に見られるのはすごく新鮮で、でも少しだけ恥ずかしさもあった。
それでも……悪くないかな……って少しだけ思った。
だから……生徒会長さんにも相談した事がある。
その内容を皆にも相談しなきゃ。
「理央ー、腹減った」
「……悠……それはお母さんに言うセリフ」
「なんでもいいから、食べるもの」
「ふっ……陸のもそうだな」
緋月に笑われてるよ。
「もう~今から作るから、ちょっと待ってて」
「何つくるんだ?
手伝う」
「ありがとう。
今日は唐揚げ」
緋月が手伝うなら早く済みそう。
すごく助かる。
そういえば……料理の手順をわかっているような……手際がいいんだよね。
家でしてるのかな。
「……なんだ?
人の顔を見て」
「ううん、手際がいいなーって思って」
「あー……まぁ、家でしてるから」
「そっか……。
今度、緋月の手料理食べたい」
「男所帯だから簡単なものしか出来ないぞ?」
「緋月がつくるものならなんでも大丈夫」
「……練習しとく」
いいな……台所に立ちながらこういう会話。
緋月の協力もあって、早くに夕ご飯を作り終えて、ダイニングテーブルを囲んだ私達。
「あ、そうだ。
皆に相談で、後夜祭のイベントの事なんだけど」
私は生徒会長さんに提案した内容をオサナ組にも相談した。
嫌な顔するかな?
やっぱり拒否されるかな。
「いいんじゃね?
せっかくのいい機会だし」
「コメントでいくらでもあったからなー。
今更感ですっげ恥ずかしいけど」
陸も悠も悪い気はしてないみたい。
よかった。
「リスクもありますが……。
でも、翔さんのせいでこんな事になったのですから……結局、バレるのも時間の問題だと思います。
インスタに載せてた理央の写真も消しましたが、今日の初お披露目の女子姿……すでに写真におさめてる人もいるでしょうし……」
「声だってバレちゃってるからねー。
このまま隠し通すのも限界があると思う。
だから、いいんじゃないかな。
私はむしろ気合が入る!
理央ちゃんのライブ衣装!」
「たまには俺たちにもその気を回してくれ」
「……」
「おい、そっぽを向くな!」
皆……意外とノリ気だ。
あ、緋月が話について行けてない表情をしてる。
全部説明しよう。
このライブイベントの事の発端を。
「緋月、あのね――」
全部の説明が終わったら、緋月は合点がいったのか、すごく納得した表情をしていた。
「……なるほどな……。
ごめん……理央……」
「ん?
なにが?」
「いや……。
話せない状況下だったのに……俺……態度悪かった……」
「んー……ちょっと寂しかったりしたけど……平気だよ。
全部話せて今スッキリしてる」
「……そうか」
やっと緋月に全部話す事が出来たな……。
そうして私達はご飯を食べ進め、また少し音合わせをして時間を過ごした。
それから文化祭までは私の家に泊まって練習したり、イベントの最終確認をしたり、衣装合わせをしたり……はしゃいで楽しく過ごした。
その間、緋月もずっといて、オサナ組が私の家に泊まる事はちょくちょくあるけど、そこに緋月が加わっているのが、新鮮であり、嬉しくもあった。
***
いよいよ文化祭当日。
私達の劇の時間はお昼を少し過ぎた頃。
皆はその時間に向けて準備をしながらも自由に過ごしていた。
「おぉ~。
「うるっせー!
男に可愛いとか言うな!
おい、葵!
いくらなんでも化粧に気合入れすぎだろ!」
「悠ちゃんの晴れ舞台だからね!
そりゃ、気合入れるよ!」
「可愛いですよ、悠」
「準人までやめろ!
男に可愛いって言っても何も出ねぇぞ!」
「理央は男装にカッコイイって言っても文句言わないですよ」
「え……私?」
たしかに、男装を続けてるけど…急に話を振るのはやめて欲しい。
結局、緋月の頼みで学校では男装を続ける事になったんだよね。
蓮にぃ程ではないけど……頼まれて。
私の心臓がもたない事が起きかけたから……そこは想像にお任せします。
「理央は別だろー。
……ちぇーこんなにしやがって……。
こうなったら、やってやるーー!!」
「その意気ですよ、悠。
フリとはいえ、その姿の悠にキスシーンを演じる俺の身にもなってください」
「……すみません。
準人……笑顔が怖い。
これ以上、文句を言うなという圧を感じる」
「気のせいです」
ふふっ……皆、自由だなぁ……。
私達は残りの準備も済ませ、時間に間に合うように体育館に道具を運び入れたりした。
そうして刻々と時間が来て私達のクラスの出番が始まり、劇は何事もなく無事、好評に終わったんだ。
劇の後に悠や準人、陸の写真を求める生徒で一時期、賑わったのは言うまでもなく、それくらい、好評だったみたい。
クラスの出し物が終わり、後夜祭に向けて生徒の皆が一層ソワソワする頃。
私達もライブに向けて準備をしていた。
サプライズという事もあって、クラスの皆には校内を見て回ると伝えている。
体育館の全部の演目が終わり、人がいなくなったタイミングで舞台上に機材や道具を生徒会の皆と協力して運び込んだ。
そして、幕が上がった時に機材が見えないように白い布で、パーテーションみたいに仕切った。
そこは機材だけでなく、人が立てるようにスペースが設けられている。
舞台上の全てのセッティングが終わった次は、私達の番だ。
ライブ用に軽くメイクを施して、衣装を身にまとい、後夜祭が始まるまで舞台裏の小部屋で待機…と言う流れ。
そうして全部の準備が終わった頃には、後夜祭の時間が近づき、体育館に人が集まり始めた。
はぁ……緊張する……。
今まで顔出しNGでしてたから、人前で歌うのはやはり緊張する。
後夜祭が始まり、各シナリオが進んでいき、いよいよ生徒会長さんの言葉で出し物の紹介が始まった。
時間だ。
「皆……円陣……いくよ。
……ふぅ……皆……調べ……任せたよ。
皆の調べを……私が歌で届けるから。」
「いつもより力強いな」
「頼もしいです」
「盛り上げようぜ!」
「理央ちゃんのカッコよさで打ちのめす!」
ふふっ……皆……気合十分だ。
「よし!
行こう!」
私達は掛け声とともに舞台上の白いパーテーションの後ろにスタンバイした。
幕はまだ上がってない。
音のチューニングを終えて、生徒会の人達に合図を送ると、幕が上がり始めた。
それと同時に歓声や拍手が聞こえる。
幕が上がり切った所で、まずは一曲目。
悠がバチで音頭を取り、それに続いて陸のギター、私のギターと葵ちゃんのベース、そして準人のキーボードで演奏が始まり、私が歌い出す。
歓声が更に盛り上がるのを感じる。
心地良い歓声。
すごい……気持ちがいつもより高鳴る……。
楽しい。
皆の演奏もいつにも増してノリノリだ。
音が走っている訳ではないけど……みんなはしゃいでるような……そんな奏で方。
そうしてラストの曲まで披露した私達は、生徒会長さんの言葉でサプライズのさらにサプライズとして、顔出しをする事になった。
そう、生徒会長さんとオサナ組に相談した内容とは、顔出しの事だ。
当初は貸しスタジオの予定だったけど、もう男装を解いたから、このまま皆の前での演奏もいいかなって思えた。
だから、舞台上の演奏と今回の顔出しの相談を生徒会長さんに相談した。
そうしたら驚いていたけど、二つ返事をすぐにくれたんだ。
パーテーションにしていた白い布が取り払われると、体育館中がどよめきと歓声で揺れた。
「えー……皆さん、改めまして、胡蝶です。
今まで顔出しNGで活動してましたが、この度、恥ずかしながら、顔出しさせて頂きました。
これからも、出来るとこまで活動しますので、応援、よろしくお願いします!!」
私の言葉に続くように、会場は盛大な歓声に包まれた。
あ、緋月……一番前にいたんだ……。
相変わらず、胡蝶が好きなんだなぁ……ありがとう……。
私は、これ以上ない満面の笑顔とピースサインを緋月に向けた。
結局、男装は辞めれなかったけど……やってよかった。
今は……好きでやらせてもらおう。
好きな人の為なら。
~完~
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