憧れの

 緋月に想いを伝えられた日の放課後。


 私達オサナ組と緋月は、学校を終えたのちに私の家に集まっていた。

 理由は、バンドの練習の為なんだけど、練習している所を生で見たいと言う緋月の希望もある。


「よし!

皆、荷物は置いたよね!


さて…練習の為に私の家に来た訳だけど……。

演奏の準備しなきゃ。


皆、リビングの整理お願い」


「「「りょーかい」」」


「俺は飲み物の準備します」


 おー……さすが準人、よく見てる。


「全員分の楽器があるのか?」


 あ、そっか、緋月にはまだ見せてなかったっけ。


「うん、あるよ。

案内するね」


 私は緋月と一緒に廊下に出て、勉強部屋の真向かいにある趣味部屋に案内した。


「ここ……一応、趣味部屋」


 趣味部屋には私のギターや皆の担当の楽器が一通りそろっている。

 その他にも本棚があって、音楽に関する雑誌やCDにコンポ、音楽の編集が出来るようにパソコンなどの機材もそろっている。


 ちなみにそろえたのは、二番目の兄……海斗にぃだ。

 私達のバンド活動の事を家族の中で一番応援してくれているから、皆がよくこの家に集まるのを見越した上でそろえてくれた。


「すごいな……この部屋……。

本格的……」


「うん。

この楽器たちをリビングに運んで、そこで練習するんだ。

この部屋でも出来ない事はないけど…。


ちょっとせまいし」


「たしかに……リビングよりはせまい……し」


 ん?

 なんか……部屋をキョロキョロ見てたはずなのに、緋月が私を見てる……。

 なんだろう。


「……そういえば……」


「ん?」


「……その恰好……なに」


「え……何と言われても……。

葵ちゃんの制服で……一応、私の女子姿……」


「……ふーん……」


ふーん……ってなに。

ってなになになに、どういうこと?!

なんで私背中のドアに押し付けられてるの?!


「え、ちょ……」


「……目のやり場に困る……。


……誘ってる?」


「え、そんなつもりじゃ……わ?!」


 足!

 足の間に、緋月の足入れられた!

 展開早すぎ!

 今日付き合ったばっかり!


 ってあれ……そういえば、お互い好きは言ったけど……付き合って……は、言ってない……。


 あ、やばい……なんか……付き合ってると思ってたのは私だけかも……。

 それは……ちょっとショックだ。


「……理央?

どした?」


「……私達……好きは言ったけど……まだ付き合ってないよね?」


「……マジか……付き合ってないのに、これはダメな事だな。


……じゃぁ……仕切り直し……俺と……付き合ってください」


 わ?!

 耳……耳元!

 耳は弱い!

 たぶん!

 なんか……耳をハムハムされてる!


 う……首筋にも軽くだけど、キスされてる……。

 くすぐったい……。

 わー……どうしよう……。

 腕は押さえつけられてるし……。


 う……恥ずかしい……。

 なんか……恥ずかし過ぎて涙出てきた……。


「理央?

返事……」


「は……い……」


 あ、緋月と目が合った……。


「……ひづ……きぃ……」


「……。

……は~……。

ごめん……いたずらし過ぎた……」


 わ……今度はぎゅってされてる。


「そんな格好する理央が悪い。


……思ったより胸あるし……てか、めちゃあるし……。

それなのに、こんなに体のライン出る服着てるし……。


足も……普段はズボンで隠れてるのに……今日は出てるし……。

長くてめちゃキレイな足だし……」


 う……今度は足撫でられてる……。

 緋月ってばこんなに大胆なの?!

 展開早すぎない?!


「ね、ねぇ……。

今日……付き合ったばかりなのに……展開早すぎるよ……。

すごく大胆……」


「……それは……」


「それは?」


「……理央が……俺と陸を間違えたから……。

……仕返し……」


「……あ……あの時の……。」


 生徒会長さんにイベントの話をもらった後、中庭で寝ているのを緋月に起こしてもらった時だ。


「……すごく前の……」


「すごく前だけど……あれはすごいショックだった。


まぁ、あれのおかげで好きだって認識したようなもんだけど……」


「……ごめんなさい……」


「……いいよ。

だから今、こうして仕返ししてる」


 なるほど。

 ってなるほどじゃない!

 ずっとこの状況は恥ずかし過ぎる!


(コンコン)


「ねぇ~、緋ーちゃーん。

そろそろ理央ちゃん、返して~」


 あ、葵ちゃんの声だ。


 うわー……どっちにしても、いろいろ恥ずかしすぎるタイミング……。


 緋月離れてくれた。

 そんでドア開けてくれた。


「もう~、理央ちゃんが可愛いのはわかるけど、独占しすぎ!」


「如月がこんな格好させるのが悪い。

他のやつにジロジロみられてたまったもんじゃない」


「わー…緋ーちゃんも見事に過保護になった。


ちなみに、私の事は葵さんと呼んで。

理央ちゃんをかっさらった緋ーちゃんに拒否権はないよ」


 葵ちゃん……仁王立ち……。

 強気だなぁ……というか、相変わらずの強引。


「……あーさんでいいか?」


「……まぁ……よかろう」


 うわ……緋月……名前呼びに嫌そうな顔した。

 あ、でも、ニックネームで呼ぶんだ。

 ふふっ……葵ちゃんも、不満そうな顔だけど、許した。


「おーい、お前らいつまでイチャついてんだ。


楽器、早く運びて―んだけど」


「あ、そうだった!」


 陸に言われるなんて……不覚。


 皆で協力してリビングに運んで……。

 よし!

 セッティング出来た!


「おー……すげ……本物の胡蝶だ……。


……って……お前ら……俺が胡蝶を好きなの知ってて、何も教えてくれなかったな?!

準人も何も言わなかったし……。

裏では笑ってたろ?!」


「いや……笑うどころか……どういう反応していいかわかんなかった……。

目の前ですっげー演奏褒めるし……。

熱く語るし……」


 うん……悠……その気持ちわかる……。


「笑ってるヒマないくらい語るもんな」


「……悪かったな……。

惚れてんだから……」


「……緋月……お前…すげーいいやつだな」


「陸もな……。

知ってたけど」


「なー……そろそろ始めていいかー?

ドラムだと後ろだから、会話に参加できないのは寂しい。

演奏で紛らわせたい」


「同感です。

俺も、キーボードなので」


「それじゃ、始めよう!

いつもの円陣……。


皆……調べ……任せたよ。

皆の調べを私が歌で届けるから」


「……かっけ……」


 緋月……本当にキラキラした目で見てる……。

 いつものように届ける気持ちで……思いっきり……歌おう。

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