この想い届いたなら

 私は緋月に抱きしめられたまま固まってしまった。


 私を抱きしめたまま、緋月は再び話し始めた。


「……初めは……理央の事も正直、一線置いてた。

準人から……女って聞いてたから。


でも……男装してて、なんか……女に見えなくて。

準人達との接し方を見て、見方が変わって……いつのまにか気になってて。


理央の事を目で追いかけるうちに、ふと、女なんだよなって再認識したら、どう接していいかわかんなくなった。


なのに、準人達と仲いいのを嫉妬している自分もいて……。


俺の事を聞いて欲しいとも思ったり……女子の姿を見てみたいと思ったり……。

いろいろ考えてたら……ますます、どうしていいかわかんなくなった……。


でも……今、再認識した。

やっぱり、好きだ」


「……緋月……」


 緋月がこんなに伝えてくれたのが嬉しくて……私は緋月にしがみつくように腕に力を入れた。

 今まで抱えていた自分の想いを腕の力で伝えるかのように。


「……女の人に……いい印象を持ってない緋月が……。

私の女子の時の姿を見たいって言うのは……すごく勇気がいる事だと思う……。

それに、女子の姿の私に好きって伝える事も……。


私……緋月の事……すごいと思うし、優しいとも思う……。

緋月のお父さんも……緋月を想っての行動だから……間違っていない……。


緋月も……緋月のお父さんも……とても優しい人で……間違ってなんかいない。


……って……何も知らない私が言うセリフじゃないけど……」


「……いや……ありがとう……」


「……緋月が……そっぽを向いていた理由がなんとなくわかったよ……。

私が聞きたかった事……聞けた。


聞かせてくれてありがとう」


 私は抱きしめていた腕の力を緩めて、緋月から少し離れた。

 そして、緋月の顔を見ながら、感謝を伝えた。


 今の私……緋月の思いが嬉しすぎて、ニヤけていないかな……。


「……俺はまだ聞けてない……」


「ん?」


「理央の返事……まだ聞いてない……」


「……えっ……と……」


 緋月が返事を待ってる……。

 想い……伝えても……いいかな……。

 もう……我慢しなくていい?

 もう……常時女子を見せても……いいのかな……。


 緋月が勇気を出して伝えてくれたんだ。

 私も……覚悟を決めなきゃ。


「……この想い届いたなら……男装……やめてもいいですか?」


「……それって……」


「……私も……緋月が好きです……」


「……」


「緋月?」


 え、そっぽを向いた……。

 拒否……のやつ?


「……ダメ」


 やっぱり……。

 ……って……え、また……抱きしめられてる。


「……他のやつに女子の理央を見せたくない……から……ダメ」


「え……それ……兄と同じこと言ってるよ?」


「……女子の理央……可愛すぎ……というか、美人過ぎ……。

これ以上、モテて欲しくない……し、見せたくない……。」


「……それは……難しいと思う……。

ウィッグ取っちゃったから……。

今日はもう男装難しい……」


「……ヤダ」


 ヤダ……って……葵ちゃんみたいだな。

 緋月ってこんなだっけ?

 いや、新しい一面かも……。


「ふふっ……可愛い」


「……だから、可愛いのは理央だって」


「緋月も可愛いよ」


「……」


「……緋月?」


 緋月が優しく両手で頬を包んだ……。

 え……近い……これは……恥ずかしい……。


「……できれば……カッコいいって……言って欲しいんだけど」


「……その笑顔……ズルい。

もともと……カッコいいは、思ってるのに……」


「……ふっ……ならいい」


 あ……キス……目、閉じなきゃ。

 わー……マジか……。

 憧れてたやつ……してしまった……。

 どうしよう……今日、私どんだけ心臓やられるんだろう……。


 叶わないと思っていた恋……。

 思いがけなく、叶ってしまった……。


 あ……離れた……。

 もうちょっと……なんて欲張っちゃダメだね。


「……んー……もっかい」


「へ……」


 わ……また来た……。

 というか、緋月、うっすら目……開けてる……。

 見られてるっ。

 恥ずかしい……けど、緋月のうれいを帯びた目から、目が離せない……。


 あ……離れた。


「理央の唇……クセになりそう……」


「……緋月……変態みたい」


「誰が変態だ」


「イヒャヒャヒャヒャッ。

ほっへ、ほっへ、イヒャイ」


「ふっ……変な顔……」


「緋月の意地悪!


もう知らない!

教室戻る!」


「待って、理央。

俺も戻る」


 私は笑いをこらえてる緋月に、ちょっとだけいたずらっぽく笑って教室へと足を向けた。


 二人して教室に戻っていると、すれ違う人々の視線を感じた。


「……ねぇ……緋月……私……やっぱり変?」


「……いや……理央が美人だから皆見てるんだよ」


 あ、またそっぽを向かれた。

 これは……ヤキモチ……というより、拗ねてる?

 ふふっ……可愛い。


 あ、教室着いた。

 教室……第一声は、皆に謝罪だ。

 よし!


「ただいま!


……あの、さっきはケンカして怖がらせてごめんなさい!」


 私の謝罪……伝わるかな……。

 誠意が伝わるようにと、お辞儀もしてるけど……どうかな。


「理央……その……悪かったよ。

好きで男装してるんじゃないって……わかってたのに……俺。」


 陸の声だ。


 陸の声にお辞儀していた顔を上げると、気恥ずかしそうに……でも、真っ直ぐに視線を合わせようとする陸の姿があった。


「……私もごめん……。

でも……さすがにあれは効いた……。」


「うん……ごめん……。」


「……だから……歯ぁ、食いしばりなよ!」


 私は陸がかわせる範囲で回し蹴りを繰り出した。

 案の定、反射神経のいい陸はかわしたけど、すごく驚いた顔をしていた。


「……お、まえ、なぁ!

いきなり回し蹴りとか正気か?!」


「女の子に失礼な事言うからでしょ!

これでおあいこ!」


「お前のどこが女なんだよ!」


「どっからどう見ても女子でしょ!」


「色気より食い気のくせに!」


「女子いじめっ子のくせに!」


「はいはい、陸も理央もその辺で」


「いつもの二人だなー」


「陸ちゃんは素直じゃないからねー。


というか、理央ちゃん、その格好!

制服とアンマッチだよ!

私の制服貸すから、ちょっとこっちきて!」


葵ちゃん、また強引に腕を引っ張ってる!

どこ連れてくのー?!

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