緋月の話したかった事
私が屋上に一人だと思って夢中で歌っていたら、いつの間にか後ろには緋月がいた。
まるでRIONNみたいだ……か。
本人なんだけどな……。
でも……きっと、緋月にはもうバレてる。
だって……あれだけ胡蝶の事好きで、熱く語ってくれて、何度も聞いたであろう歌声を聞かれてしまったんだ。
「……RIONN……本人だよ。
今まで隠してて……ごめんね……」
私は緋月にそう告げて、男装の為にしているウィッグ等の一式を外して、肩まである長い髪を
「……理央が……RIONN……」
「……うん……」
知られたけど……。
緋月の言葉が怖い……。
どういう反応……するのかな……。
私は怖くて目をギュッと閉じた。
でも、かえってきた言葉は予想していたものとは違った。
「すごい……本物だ……。
……会いたかった……です。
俺……胡蝶のファンで……RIONNの歌声に惚れてて……。
今……目の前にいる事が……すっごい奇跡で……嬉しい……です」
「……ふっ……ふふっ。
何で……敬語?
中身……理央なのに……」
「だとしても、憧れの人に会えたから……そりゃ、敬語にも……なります……」
なんだ……なんかいつもの雰囲気が戻った気がする。
ちょっとだけ、ぎこちなさはあるけど……。
さっきまで不安で怖かったのに、男装も女子の姿を見せても、もう大丈夫と思える。
「ふふっ……。
じゃぁ……その憧れのRIONNさんと少しお話しする?
……聞きたい事……あるんだ」
「……する……。
俺も……話したい事がある。
理央だから伝えたい。
改めてそう思った。
あと……知って欲しい事が……ある」
「うん……」
私達二人は、屋上の適当な所に座って話をする事にした。
少しの沈黙が続き、先に話し出したのは緋月だった。
この間みたいに静かに話し出したんだ。
でも、この間みたいに振り絞るような声ではなくて……なんていうんだろう……。
ゆっくりだけど……伝えたいって言う気持ちが入ったような……そんな話し方だ。
「前に……話そうとして辞めた話なんだけど……。
俺が女子に一線を置いているのは気づいていたと思う……。
その理由が……母親と……元カノなんだ。
母親は俺が小さい時に外に男つくって出て行って……。
結構長い間、隠してたみたいでさ。
夫婦仲はよかったし、俺にもすごい優しくて、家庭円満なところがあったから子どもながらにショックで……。
その後、父さんは小さい俺の為に新しく再婚したんだけど、上手くいかなくて……。
その人も浮気とか俺に対して暴力とか……酷いところあって。
結局、俺を思ってその人とは別れたんだ。
父さんは……俺と二人きりになってからは必死に気持ちを隠していたけど……でも……一人になると大量の酒を飲んで……泣いてたんだ。
俺が声を掛けると、父さんは悪くないのに、抱きしめながら何度も謝るんだよ。
暴力にならないだけマシな方だと思うけど……でも、酒の大量摂取なんて体に悪いし……。
ご飯もろくに食べないし……それがすごくつらくて……」
「……」
緋月……手……震えてる。
そっと添えても……イヤじゃないかな……。
あ……握ってくれた。
「……無理……しなくていいよ?」
「……大丈夫……全部話したい」
「……わかった」
緋月がそういうなら……最後まで聞こう。
「……小さくても母親は必要ないって、父さんと話し合ってからは、幾分か家庭は落ち着いたんだ。
……元カノは……。
俺が中学に上がった頃……初めて出来たんだけど……。
二股……されてたり……。
俺の前と、他の奴の前で態度が違ったり……。
俺の前ではすごくいい顔してるんだけど……裏では……弱い女子をいじめてたり……してて。
次に出来た彼女も……似たようなもので……俺の顔しか見てなくて……。
中身とか……見てなくて……。
家庭事情とか知ったら……鼻で笑って……あげく、父さんをバカにしたんだ……。
最終的には俺の事も……。
『騙される方が悪い』って……」
「……」
「そういう事が……あって……女はみんなそうなのか……って……思ってしまって……。
如月とか見てたら、全員って訳でもないのは頭ではわかっているんだけど……」
「……」
「……だから……初めは理央の事も……って……何で泣いてるんだ?!」
「へ、あ……なんで……って、緋月が……泣いてないから……」
「……俺?」
「うん……つらい話してるのに……全然……泣いてないから……。
だから……」
緋月の話……想像以上につらい話……。
なのに、当の本人はそう遠くない過去のはずなのに、はるか遠くの過去を思い出すみたいに話すから……。
緋月が泣いてないのに、私が泣くのはおかしいと思う……。
けど、溢れてしまった……。
「……なんか……ごめん……。
……ふっ……」
「……ちょっと……何で笑ってるの……」
「いや……ごめん……今までそんな奴いなかったから……ただ嬉しくて。
あぁ……やっぱり……好きだなぁ……。
理央を好きになってよかった……」
まさか笑われるなんて…。
でも……笑えるくらい、今は大丈夫……という事かな……。
なんて思って、溢れる涙を拭っていたら、緋月の言葉と同時に温かい感触と緋月の匂いに包まれた。
一瞬、何が起きたのかわかんなかったけど、思考を巡らせていると、緋月に抱きしめられている事にすぐに気づいた。
「え、ちょ、緋月?!」
「ごめん……このまま……聞いて欲しい」
わー……緋月の体温……匂い……耳元の声……。
心臓の音が伝わりそう……。
というか、私の心臓持たない……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます