どこからそんな情報

 私が夏休みの間、海外の実家に帰る事が決まって、日本を離れてから数日。


 この数日間、学校から出された宿題をしたり、下の姉弟たちと遊んだり、それなりに楽しく過ごしていた。

 そんな中でも、オサナ組とオンラインで連絡を取り合っておしゃべりしたり、バンドの音合わせしたり、新曲を作っていたり…時々緋月と通話したり…すごく有意義な時間を送っていると自分でも思うくらい、快適に過ごしていた。


 この間の音合わせの時、陸と悠にどうして私が緋月の事が好きなのを知っているか聞いてみたんだ。


 その返事が……。


『だってお前……最近の新曲恋愛ものばかりだし』


『そうそう、スランプ中の理央って、恋愛ソングばっかりだよな』


 と、陸のみならず、悠にまで言われてしまった。


 私ってば……そんなに恋愛ソングばかりかな……。


 作詞したやつ……。


『この想い……届くといいな』

『あなたが好き……』

『時よとまって……』


 んー……何この歌詞……。

 見事に恋愛ソングばっかり……。

 すごく恥ずかしい……。

 これは封印しよう。


 はぁ……皆に会いたいな……。

 ここも快適な暮らしだけど……日本の生活……楽しかったな。


 そうして夏休み中家族と海外で過ごし、学校生活が始まる一週間前には日本に戻ってきたのだった。


 日本に戻って来てからは、オサナ組と緋月と買い物に行ったり、テーマパークに行ったり、学生らしい休みを過ごした。


 そして夏休み最終日は、例の三人組が宿題がまだという事で、私の家で慌ただしくもどうにか終える事が出来たんだ。


***


 夏休みも平穏無事に過ごしていよいよ二学期が始まった。


 その登校早々に、私は生徒会長に呼び出されてしまって、お昼休憩中に生徒会室に足を運ぶことになった。


「生徒会長に呼び出されるなんて、理央、何したんだ?」


「学食のメニューを全部食い漁ったとか?」


「ねぇ……悠……それはさすがに失礼すぎじゃない?

私もそこまで食い意地張ってない」


「じゃぁ……他に何があるんだ?」


「わかんないから悩んでるんじゃん……。

とりあえず、行ってくる。


先にご飯食べてて。

お弁当は生徒会室の後に中庭で食べて戻る。

教室だと、一人でご飯を食べるには目立つし……なんか恥ずかしい」


 私は教室にオサナ組と緋月を残して一人お弁当を持って生徒会室に向かった。


 生徒会長さんが直々に朝から教室に来て、声を掛けられたんだよね。

 何の用だろう……。


 あ、ここだ。

扉をノックして……。


「失礼しま~す」


「いらっしゃい、一条さん。

貴重なお昼時間だから、さっそく本題に入りますね」


 生徒会室……初めてくる場所。

 今は私と生徒会長さんの二人きりだ。

 生徒会長さんは書類整理をしていた顔を上げて、さっそく本題に入り始めた。


「実は……あなたにお願いがあります」


「お願い……ですか?」


 私に出来る事……そんなにないのに。

 そもそも、生徒会の仕事をした事ないから、手伝えるかどうか……。


「この秋に……文化祭があるのは知っているはず……。

もし、知らなかったとしても、そろそろ担任の先生から連絡が行くと思うのだけど……」


「文化祭がある事は一応、クラスの方から聞いています」


「その文化祭の後にある後夜祭で、生徒会からの出し物でサプライズゲストとして、あなたに……RIONNに歌を披露して欲しいのです」


 ん?

 この方……今何て言った?

 RIONNって……言った?

 たしかに私は理央だけど……RIONNと語呂は似ているけど……。


 この学校に、私がバンドをしているのを知っているのは限られた人だけ……。

 なのに、どうしてこの生徒会長さんは知っているの?


「え……と……。

なんの……事でしょうか……。

RIONN……って?」


「最近、すごい勢いで動画サイトの視聴回数が伸びている人気バンド……胡蝶。


隠している所申し訳ないけど……。

こちらには、あなたがRIONNという事を証明するものが揃っています。


それに……出る条件として、いろいろあるけど……。

その中の一つは、ひと月限定で全メニューいくらでも学食タダ券……と言う物があるのだけど……。

引き受けてくれますか?」


 う……ズルい……。

 この生徒会長さん……すごくズルい駆け引きを持ち出してきた。

 いくら私が食べる事が大好きでも、その条件は……。


「引き受けさせて頂きます」


 たまには欲望に忠実にならなきゃね。


「でも……私、私情でこの男装を解くのはちょっと……。


それを省いたうえでの出演という事なら、引き受けます。」


「その辺は考えがあります。


バンド、胡蝶のメンバーがNGという事は承知の上…なので、別室でシルエットで出演して欲しいの。


中継と、別室はこちらに任せて。

貴方達がバレないように最善を尽くします」


 そういう事なら……いいかな。

 あーでも……。


「すみません……別室は……私達に任せて頂けませんか……。

学校だと、やはり限度がありますので……」


 この姿を解くのは……やはり、まだ抵抗がある。

 あんなに男装辞めたいとかウジウジしていたのに、いざとなると臆病になる……。


「わかりました……。

無理を承知でお願いしているのはこちらです。



貸しスタジオか何かでしょうか。

予算はこちらで処理するので、申請書と領収書の記入を後日お願いします」


「はい、ご配慮ありがとうございます。


ところで…どうして、私が胡蝶のバンドとして活動しているのを知っていたのですか?」


「それは……一条さんのクラス担任の藤堂とうどう先生に聞きました」


 ……へ?


「もともとは、学生に人気のある藤堂とうどう先生に歌って欲しいと頼んだのですが、一条さん達の事を推薦されまして……。


それじゃ、詳しい事は後日詰めて話しましょう。

改めて……出演……引き受けてくれてありがとうございます」


 なるほど……翔にぃか。

 翔にぃなら……しょうがない……ってなるかーー!!

 まったく、後で説教よ!

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