しばらくの間
緋月の話を、結局聞くことが出来なかったあの日からひと月。
世の季節は夏本番を迎えた。
私達学生は、一学期という学校行事を全て終え、夏休みに入ろうとしていた。
あの日から変わった事と言えば、オサナ組もいたりしたけど、圧倒的に緋月と二人で放課後に寄り道する事が増えた事だ。
もはやデートと言っても過言ではない。
いや……過言か……。
認めるのは寂しいし、悔しいけど……。
それなりにたくさんおしゃべりもして笑い合って、楽しかった。
そんな夏休み前の最後の学校。
今日はホームルームだけとの事で、すぐ終わるって葵ちゃんから聞いた。
城ケ崎学園の終業式の時はお昼前より早く終わるみたい。
そうして午前中の全日程を全部終えて、私達オサナ組と緋月は私の家に来ていた。
何でかというと、お昼ご飯を食べる為に。
「……なんでお昼私の家なの?」
「腹減ったから」
「ねぇ、陸……私はオカンじゃないんだけど……」
しょうがない……。
ちゃっちゃと作りますか!
「緋月~。
緋月の好物ってまだ聞いてなかったよね?
何が好きなの?」
「……好物……か……。
カツ丼……」
「了解」
それじゃ、レッツクッキング!
まずは仕込みからだな。
時間かかるのからして……ご飯は昨日のを使って……。
葵ちゃん用にオムライス、陸用に牛丼の温玉乗せ、悠用のチーズインハンバーグ、準人用に肉じゃが、緋月用にカツ丼……。
皆のおかずに合うように汁物も作って……。
よし、いい感じ!
皆が食べたいものをバラバラにいう事は多々あったから、実家でも練習したっけ。
ほんと、どこの定食屋さんなんだろうってくらい、手際よくいって良かった。
「みんな~、出来たよ~。
運ぶの手伝って」
「わ、理央ちゃん、皆メニュー違う!」
「ふっふっふ、頑張った!」
「「ご苦労」」
「……偉そうな上司だな……」
「陸も悠も素直じゃないですよね」
「俺は素直だぞ!」
「はいはい、悠もこれ持ってって」
「俺の分も……サンキュ、理央」
「くるしゅうない」
「お前こそ、緋月に対して偉そうな殿様かよ」
「陸、うるさい」
よし、皆に行き届いたかな。
あ、ちなみに私は葵ちゃんと同じオムライスにしたんだ。
玉子ふわふわのやつ。
「……うま……。
カツさくさく……玉子とろとろ……。
うま……」
二回も言った。
嬉しい。
皆も美味しそうにほお張っているし。
作ってよかった。
「そういや、理央、夏休みの予定なんかあんのか?」
「できれば俺たちの宿題を見て欲しいなー……なんて……」
「陸も悠も……たまには一人で頑張ってよ。
期末も結局、私と準人でサポートしたんじゃん」
「……ぐぅの音も出ません……」
「それに私、海外に戻る事になったの」
「え……」
あれ?
言ってなかったっけ?
そういや、決まったのは二日前で、急だったんだよね。
この二日間、旅の準備に追われていたから忘れてた。
あと、新曲作りとか…。
うん、忙しかった、ごめん。
皆、食べる手を止めてこっちを見てる……。
説明しないとダメだよね。
「海外って……また向こうに住むの?」
「えぇ~っと……まだその辺は……。
とりあえず、帰ってきてとだけ……」
「……なんだよ……また寂しいじゃんか……」
「そうですね……。
それでこんなに豪華な昼食に?」
「最後の晩餐とか?!」
「葵ちゃん……それはいろいろ違う……。
まぁ、でも、オンライン通話は出来るし、今まで通りだと思うけど」
「それは……そうだけど……。
やっぱり実際に会うのと会わないのとでは、訳が違うよ」
「そうだぞ。
ちなみに出発はいつなんだ?」
「明日」
「「「「明日?!」」」」
「おま、急すぎんだろ!」
「もっと早くに言ってくれ!」
「そうですよ、理央、水臭いですよ」
「明日か……ほんとに急だな……」
「なんか……すみません……」
「じゃぁー……まだいろいろ準備あるだろうから、今日は早々に切り上げるかー」
「うん、そうしよう」
陸に緋月……気遣いありがとう。
「って……あ、ちょっと電話出る」
海斗にぃからだ……なんだろう。
『あ、理央、明日からの事なんだけど』
「うん。
一度戻って来てって、お父さんとお母さんが……」
『うん、その事なんだけど、夏休みの間だけでいいって。
今のまま日本に住んで、長期休みだけ帰って来てって言ってた。
下の子達が寂しがってるからって』
「あ、なるほど。
ただ帰って来てとしか聞いてないから…。
そういう事ならわかった、ありがとう」
『じゃぁ、明日少し早くに迎えに行くから。
また明日』
なんだ……また引っ越しにならなくてよかった。
あ、皆またこっち気にしてる。
「えっと……夏休みの間だけみたい……。
だから、夏休みが終わる頃にはこっちに帰ってくるよ」
「やったーーー!! それなら大丈夫!
一年に比べたら、ひと月ぐらい我慢する!」
「うわ?! 葵ちゃん?!」
ひと月で帰って来ると言うのがそうとう嬉しかったのか、葵ちゃんに思いっきり抱き着かれた。
「うーん……葵ちゃん……これは……また放してくれないやつ?」
「えへへ~、少しだけ~」
「ほんとに少しかな?」
「はぁ……このまま理央ちゃんを彼氏にしたい」
「ん?
私が彼氏なの?」
「うん、だってカッコいいし!
あ、嫁でもいいよ!
可愛いし!
いや、美人か!
しかも料理上手で、家事全般出来るハイスペックだし!」
「……そうなると……葵は何をするんですか?」
「私は……ご飯食べる係」
「うげ……役に立たねー……」
「何のための彼女なんだよ……。
せめて仕事頑張るくらい言えよ。
全部、理央任せじゃねぇか。」
そうそう……陸と悠の言う通りだよ。
せめて何かは頑張って欲しい。
「ふっ……。
ほんと、このオサナ組は……楽しいな……」
そういえば……ひと月も日本にいないって事は……緋月ともひと月会えないんだ。
うわ……それは考えてなかったし、今更ながらに寂しいな。
そうして私達は時間が許す限り、ゆっくりと過ごした。
皆が帰る頃……緋月が玄関先で言った事。
「そういや、理央の連絡先……聞いてなかったよな。
聞いてもいいか?」
「うん」
「……これで、いつでも連絡できるな」
なんでそんなに嬉しそうな顔するの。
連絡先を交換しただけなのに。
約ひと月だけど……家族には申し訳ないけど、行きたくないな……なんて不覚にも思ってしまった。
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