葛藤

 緋月の事をいろいろ知る事が出来たあの日から数日。

 私が転校してきてから、もうひと月以上は経っているかな。


 ひと月以上も経てばだいぶ学校生活にも慣れてきたし、相変わらず呼び出されて告白も多いそんな日常。


「……男装やめたい……」


 いつだったか、そんな弱音をあろう事か、陸の前で呟いてしまった事もあった。


 だって……さ、いろいろ知ってしまったら……決心……揺らぐじゃん。

 いや、でも……夢は壊さないって決めたし……ってアイドルか、私は!

 それよりも、男装解いたら今の関係が崩れるかもしれないのに……。


 最近こんな風に葛藤する事多いな……。

 ヤメよ……。

 ネガティブ退散! ポジティブシンキング!


 そういえば最近知った事なんだけど、緋月をはじめとする幼馴染メンバーも時々呼び出されては告白されているのを見たり聞いたり……。

 うーん……わからんでもない。


 ひいき目だとしても、うちのオサナ組は可愛かったり、イケメンだったりする。


 まぁ、そんな平々凡々な学校生活を今日も送るわけだ。

 あ、ちなみに今はホームルームで、翔にぃ待ちね。


 にしても……ホームルームのチャイム鳴ったのに、翔にぃ遅いな……。


「……おーす……」


 あ、来た。

 って……なんか……テンション低い?

 何かあったのかな……。


「ホームルームは……そうだなぁ……来週テストあるのわかってるよな。

まぁ……頑張れ。

そんなわけで、ホームルームはテスト勉強していいぞ。

俺は……ちょっと……出る。


委員長……あとは頼んだ」


「え……あ、はい……」


 いつもより適当過ぎだし、委員長を困らせたし……。

 って……教室を出て行っちゃった……。


「翔にぃ、どした?」


 あ、悠も気にしてる……。

 まぁ、皆そこそこ付き合いあるし、私の家に集まったり、オンラインで話したりしてるから、それなりに気にするか……。


「藤堂先生……どうした?」


 あ、緋月まで……。


 準人に視線を送ってみよう。

 あ、首を横に振った……。

 って事は、さすがの準人も知らないのか……。


「うーん……わかんない……。

私はあの状態の翔にぃ初めて見たよ」


「だなー……。

お前んちに行って朝までお酒を飲んでても、すっげー元気なのにな」


 あ、陸が緋月に語り出した。

 そのまま陸に任せよう。


「家……って……?」


 あ、あれ?

 緋月は陸に任せたつもりなのに、私に質問してくる。

 まぁ、おしゃべり出来るから嬉しいけど。


「んー……まぁ、私の兄経由で知り合ったから、付き合い長いし……。

たまに準人達と私の家に来るんだ……」


「……そう……か……。

だから、理央の作るご飯が旨いってこの間言っていたのか」


「うん……。

よかったら……今度来る?」


 って何言ってんだ、私は!

 女子と一線を置いている人が女子の家に来るわけないじゃん!

 もう、バカバカ!


「……理央が……いいなら……。」


 え、いいけど……いいんだ……。

 嬉しいけど……これは……あれかな……男子友達の家に遊びに行く感覚で……みたいな。

 まぁ……結果的にいいか。


***


 そんなこんなで午前の授業もあっという間に過ぎ、時刻はもう四時限目の数学。

 翔にぃの授業だ。


 まだなんかテンション低いし……。

 あれから復活しなかったのか……。


「~で、この公式を使って解く……。

ちゃんとメモしとけよ~。

テスト出すかんな~」


 言い方は……うん、いつもよりちょぉっと適当だけど、説明は相変わらずわかりやすい。

 そこはさすが。

 でも、私情挟むのは……アウト。


「よし、問題をいくつか作ったから…常時赤点で成績ワースト三位組の~。

下から三番目の葵~これ解いて」


「え……。

葵ちゃん……マジで?」


「うわ……理央ちゃん……。

イケメンな顔でドン引いた顔しないで……。

体も若干後ろに下がってるし……」


 葵ちゃん……マジかー……。

 勉強苦手なのは知っていて、よく勉強を見ていたけど……私がいない間にどんだけ下がったの……。

 準人達は何をやっていたの……。


 いや、待って……ワースト三位……もしかして……。


「……ちなみに……葵ちゃんの下って……。」


「悠ちゃんと陸ちゃん」


「だよねー……。

準人…?」


 オサナ組が見事にワースト三位……はは……。

 一応、準人に聞いてみよう。

 どうしてこうなったかを……。


「あ、俺は学年トップですよ。

理央がいるから、もうトップではないですが」


「ちがう、そういう事を聞きたいんじゃない!

どうして準人がいながら、この三人が常時赤点ワースト三位になったの?!」


「……すみません……俺の手に負えませんでした……。

あまりにもバ……いえ、出来が……いえ……」


「あぁ……うん……」


 もういいよ、その辺で……。

 と、言いたい。

 なんか……聞いてるこっちがつらい……。


「じゃぁー…葵の隣の問題は理央が解いてー」


「え……マジか……」


「やった!

理央ちゃんが隣なら解ける気がする!」


 えー……そうかなぁ?


 で、いざ黒板の前に立った私はスラスラ解けるけど、葵ちゃんは……予想通り手が止まってる。

 私は問題解けたし、席に戻ろう。


「……なー……理央ー」


 え、何……。


「なんでそんなにイケメンなんだ?

そつなく問題解くとか…カッコよ」


 おい、翔にぃ…今授業中…。

 なんてことを聞いているの。

 そんなのはいくらでも後で聞くから。


「……知りません。

今授業中なので」


「そんな冷たい事言うなよ?!

俺たちの中だろ?!」


「何が俺たちの中なの?!

今は授業中で、教師と生徒じゃん!」


「あー……翔ちゃん……何かに疲れているんだね、きっと。

ついに立場を無視し始めた」


 立場無視は前からだよ、葵ちゃん。

 それに、疲れているってなんでわかるの?


「センセー、今日変ですよー」


 ほら、他の子にも言われてるよ。


「俺は……いま!

猛烈に疲れている!」


 うわー……。

 疲れている人の発言かなぁ?

 こんな教師いていいのかな……。

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