授業中なんですけど

 ねぇ……今授業中なんだよ。

 それなのに、すっごい必死に公私混同してくる教師がいるの……。


 自由過ぎない?

 大丈夫なの?


「時には私情挟むのもいいんじゃね?


数字だけ見てるのも疲れるし、飽きたし」


「たしかにー。

オサナ組の漫才見るの楽しいしね」


 私らは見世物か何かなのかな……。


「……」


「あ、一条さんがジト目だ」


「いろんな一条さん見られるのいいよね。

カッコいいだけじゃないと言うか」


「ていうか、私達も理央君とか、理央ちゃんって呼びたーい」


「呼び名は……何でも……」


「やった!ありがとう、理央君」


 わー……すっかり教室内がおしゃべりムードになっちゃった……。

 どうすんの……これ……。


 原因は翔にぃだ。

 この人の問題を解決しないといけないような雰囲気が出来始めている…。


「はぁ……。

翔先生は何に疲れているんですか?」


「テスト作成」


 おい、教師でしょ。

 そういう仕事も含めて教師じゃないの…。

 授業つぶしてまで悩む事なの??

 そもそも悩みなの?


「もう~そういう悩みは家に置いて来て!

それか、職員室!」


 まったく……聞いて損した。


「あ、そうだ!

今日の晩飯!」


 今度は夕ご飯の話?

 本当にテンションやら表情がコロコロ変わるなぁ。


「俺、唐揚げがいい!」


 …ん?

 私に言ってる?

 教室の皆も何言っているの……という表情だよ。


 何故なぜに?


「え、っと……なんで?」


「だって、お前の飯、すっげぇ上手いから!

疲れも飛ぶ!

それに今日週末だし、れんを呼んで朝まで飲める!

よし!

なんか元気出てきた!」


 ねぇ……もう一回言っていい?

 今授業中……。

 こういう話は普通、休み時間とか、スマホで連絡取るもんじゃない?


 この教師は本当に……はぁ……。


「あ、翔ちゃんが唐揚げなら、私はオムライスー!!」


「あ、なら俺はハンバーグ!

チーズ入ってるやつ!」


「俺は牛丼、温玉乗せ」


「俺は肉じゃががいいです。

お新香付きでお願いします」


 ………。


「ねぇ……。

私は食堂か何かなの?!

好き勝手に好物を言わないでくれる?!」


「あ、理央君が怒った。

というか、ナイスツッコミ!」


「そりゃぁ、ツッコミたくもなるよ?!

これだけボケかまされたら!」


「え……ボケ……本気なのに……」


「……葵ちゃん……マジで……?」


「うん!今日、お泊りの予定!」


「勝手に?!」


「だって……ずっと……寂しかったんだもの……」


 え……何か始まった……。

 両手で顔を覆っているし……。


「私を放置して……貴方ったら……他の女のもとに?」


「んん……なんで疑問形?」


「責任取らないとダメですよ、理央」


「そうだぞー。

ちゃんと責任は取れよなー。

男に二言はねえんだからよ」


 準人に陸は何を言っているんだ。

 ノリが良すぎるにもほどがある……。


「何の責任よ……。

しかも男って……」


 はぁー……ここは……。


「……責任……ね。


なら……これでいい?」


 私は葵ちゃんに近づいて、葵ちゃんの顎をクイッと軽く上に向けた。

 そうして目線を合わせて、これでもかというほど、低い声で囁いた。


「待たせてごめん」


 で、極めつけは微笑みを見せて、葵ちゃんが言っていた「追い打ちやめて」を実行する。


 どうだ!

 これで責任は取れただろう。


 ……うん……なんの?


「……」


 あ……葵ちゃんがフリーズした。


 というか、教室の皆も……。


「「「キャーー!!」」」


「?!」


 わ、びっくりした……。

 なに……? どしたの?

 また女子の赤面続出……。

 男子に至っては慣れたというような表情だし。


「……おい、イケメン……どうすんだ……この教室の雰囲気……」


「……もとはと言えば翔先生のせいでしょ」


 どうすんだはこっちのセリフ。


「ねぇ一条さん、横、横」


 横? って葵ちゃん?

 いつの間に横に移動したんだろう……。


 なんか……顔を抑えてる。


「葵ちゃん? どうしたの?」


「……推しのカッコよさに……悶えているだけ……」


「あー……うん……そうなんだ……」


 もう、放置していいかな?

 いいよね?


「あ、葵ちゃんの分の問題も解いとくね。

それと、他のも……。


……よし、これでいいかな」


 じゃないと、授業が進まない……。

 まったく……なんだったんだろ……。


「あ、忘れてた。

翔先生は、疲れ取れました?」


「お、おう……うん……ありがとな……」


 まぁ、あんだけはしゃいだらもう十分でしょ。


「はぁ~……やっと席に着けた」


「すっごいくつろぎ感だな……ふっ……」


「……緋月……笑い……こぼれてる」


「だっ……て……っ……」


 うーん……珍しいほどにすっごく笑っている。

 でも、笑った顔は見せてくれないんだよね。

 いつも片手で顔半分を覆っているし。


 そんなにおかしい事あったかな?


「理央ってさ、オサナ組にイジられたり、頼りにされたり…カッコよかったり……ほんと、面白いな。

ほんとに女子か?」


「……生物学的には……一応女子の分類……のつもり。

……というか……何で今、その質問?」


「いや……ごめん……。

俺の知っている女子のイメージとあまりにもかけ離れているから……。

見ていて飽きないし、すっごい……楽しい」


 ……え……え……。

 何……今の発言……。

 しかも、すっごい笑顔。

 スマホの向こう側に向けるような……キラキラしてる笑顔……。


 それは……ズルいよ……。

 女子に苦手意識持っているのに……。


 ……どうしたらいいか……わかんなくなる。

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