秘密…その②

 雨宮君の口から聞いた「女は無理」という言葉。


 私はその言葉に、少なからずショックを受けた。

 でも、聞けずにはいられなかった……。

 深くは聞かずに、そこだけは気をつけよう。


「……雨宮君……って、女子が嫌いなの?

その……年頃的に付き合いたいとか思ったり……」


「あー……女子とは付き合えない……」


「それは……男性が好きって事?」


「いや……恋愛対象は女子だけど……気が乗らないだけ」


「そっかぁ……。

ごめんね……深堀して……」


「いや、いいよ。

一条なら……まぁ、平気」


 ん?

 私なら?

 何か理由があるのかな……。

 でも……これ以上聞くのは、失礼だよね。


「一条は……他と違うから……」


 それは……私が男装しているから……かな。


「それに、このメンバーは……なんか安心する。

だから、如月の事も……まぁ、大丈夫だ」


 葵ちゃんの事も大丈夫。

 だから女子だけど、一緒にいるんだね。

 そっかぁ。


「リアルの女子はダメですが、画面の向こう側の女子には興味ありますよね」


 ん?

 なんか……準人がこっちを見ながらにこやかな笑顔を見せてる。

 何?

 画面の向こう側?


「ばっ……それは言うなって!」


 おぉ……雨宮君がうろたえてる。

 なんだろう……すごく気になる。


「準人……何か知っているの?

めっちゃ気になる」


「うわ、理央まで。

なんでもないから!」


 あ、今……。


「理央って……名前で呼んでくれた?」


「あ……。

悪い……つい……。

準人達がずっとそう呼んでたから……」


「ううん、理央でいいよ。

そのかわり、さっきの画面の向こう側の女の子の話聞きたい。

アイドルか何か?」


「おまっ……それはズルい取引なんだけどっ……」


「えー……教えてくれないなら、ひづきって呼ぶもん」


「お前なら、まぁ……それは別にいいけど……」


「なら、これからよろしくね、緋月!」


 やった!

 名前呼び!

 すごく複雑だけど……。

 何か理由があって、女子は無理って言う緋月。

 だけど、この男装のおかげか、幾分か心を許してくれているみたい。


 だったら……この想いは閉じ込めよう。

 せっかく隣にいてくれて、他には見せない笑顔を見せてくれるから。


「で、結局誰の事?

女子嫌いの緋月が興味を持つ女の子って」


「げ……まだあきらめてなかったのか……。

ズリィ……」


 あ、さすがにしつこかったかな……。

 嫌われちゃう?


「え……と、ごめんね……。

しつこいよね……」


「ふっ……これですよ。

緋月の興味の相手」


 わ……準人がスマホを見せてくれた。

 えっと……これ、インスタ?


 え……これって……。

 だから準人、私の方を見てにこやかな笑顔だったんだ。


「うわ、バカ準人、結局バラしてんじゃん」


「……どうして、この子に興味があるの?」


 おぉ……珍しく顔を赤くしている緋月。

 しかも慌てている。

 こんな一面もあるんだ。


 それなら、なおさら聞きたい……。

 だって……画面の向こう側の女の子。

 それは男装を解いた私だから。


「……はぁー……。

胡蝶って言うバンド……俺がいつも聴いているバンドな……。

RIONNリオンって言って、そのバンドのギター兼ヴォーカルなんだよ。


顔出しNGで動画サイトでしか活動してなくて、歌以外の投稿もプライベートの情報も何もなかったのに、この間急に一枚だけインスタに写真がアップされてな……。


こんな美人があんなに力強く歌っているんだと思うと、他の事も知りたくなった……。

何が好きなんだろうとか、普段はどんな感じなんだろうとか……」


「それはもはや恋なのでは?」


 わ、準人、何言ってるの?

 本人が目の前にいるのにその質問はダメだよ!

 しかも、よくよく見るとこのインスタの写真…去年、一度日本に帰ってきた時に葵ちゃんが撮ったやつだ。


 なんでインスタに?

 後で聞いてみよう。

 あと、消してもらおう。


「恋は……違う……。

俺なんかが恋とか、おこがましい」


 いや、そんな事ないよ。

 現に私はあなたに恋をしているのだから、両想いになるなら万々歳ばんばんざいだよ。

 とは、行かないのが世知辛い……。


 緋月ったら……画面の向こうの私見てすっごいキラキラした目で見てるし……。

 本人目の前なのに……。


 いや、でも、夢を抱いているなら、壊したらダメだね。

 この事はバレないように黙っていよう。


 あ、緋月……ほんと印象変わった……なんか語り出したし。


「RIONNの歌は力強いだけじゃなくて、バラードになると透き通る感じになるし、かと思ったら、ポップな曲もあるし、すごい幅広く歌っていて飽きないんだ。


それに、ギターもすっげぇ上手いんだよ。

動画サイトにはギターの手元がちょっと写っているやつもあるんだけど、それを見て聴いた時は鳥肌がやばかったな。


まぁ、そんくらい推してる……というか、ファンというか……。

バンドの他のメンバーの演奏もめちゃくちゃうめぇんだよ。


ヤベ……思いのほか語っちまった……。

はず……」


「……ごちそうさまです」


「こら、なんだよ理央。

あんなに聞きたがっていたのに、その薄い反応は?!


さては胡蝶を知らないな?!

一度聴いてみ?!

めっちゃはまるから!!」


 うーん……すごい、熱狂的なファンだ……。

 嬉しいのと、照れるのと、恥ずかしい。

 でも、顔に出しちゃいけないから、めっちゃこらえている今、正直つらい。


 それに、本人だから一番知っている。


 そう、緋月がドハマりしていると言うバンド、胡蝶は私達幼馴染メンバーが結成したバンドなんだ。

 中学の時に、初めて私の兄に連れて行ってもらった夏フェスに、感銘を受けた陸が言い出して始めた。


 私の家が広かったから集まるのは私の家か、兄に頼んで貸しスタジオに連れて行ってもらうか、ネットが普及している時代だから、オンラインで練習したりした。


 そうして結成してオリジナルで曲を作って演奏して…それだけじゃ収まりきらなくて、素人同然というのもあって、顔出しNGを絶対条件に動画サイトに歌を投稿する事にした。


 この事は翔にぃ以外、学校では誰も知らない事。


 ちなみに、ギターは私と陸、メインボーカルは私だけど、陸もたまにボーカルするかな。

 準人がキーボードで、悠がドラム、葵ちゃんがベースなんだ。


 顔出しNGなのに葵ちゃんたら、ライブ気分も必要って事で、メンバーの衣装を担当しているんだよね。


 服飾がすっごく上手なんだ。



 はぁ……緋月に隠し事がまた増えてしまったな……。

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