秘密…その①

 球技大会が無事に終わった帰り道。


 制服に着替えた私や、いつもの幼馴染メンバーに雨宮君の六人は、ファミレスに向かっていた。


「しっかし、女子は惜しかったよなー。

学年二位」


 たしかに……陸の言う通り、私達のクラスは学年二位だ。


 伊藤さんは軽い捻挫って事で、結局試合には戻れなかったんだ。


「決勝の相手、運動部ばかりなんだよね~。

理央ちゃんがめちゃくちゃ動いてボール拾ってたのに、あの結果は仕方ないと思う」


「男子は……女子が頑張っている間にやられたんだよな……しかも三回戦でボロ負け……」


 うわー……悠がブルーモードになってる……。

 すっごい落ち込みよう。

 私がバレーに出続けていたから、結局サッカーに出れたのは一回戦だけだったんだよね。


「一条があんなに動けたのはビックリした。

サッカーもバレーも、すごい活躍だったじゃん。

女子って事を忘れるくらい、カッコよかったよ」


「そ、そうかな……ありがとう。」


 女子って忘れるくらい……は、なんだか複雑だけど、なんだろう……。

 雨宮君に褒められて嬉しい……の気持ちの方が勝ってる……。


 って、あれ?葵ちゃん?

 話に夢中になってしばらく歩いていたら、いつの間にか葵ちゃんがいない……。


「ねぇ、葵ちゃんは?」


「んー……っと……あ、あの店の前」


 あー……葵ちゃん、ああいう可愛い系のお店好きなんだよね。

 ショーケースに並んでいるテディベアやコスメをキラキラした目で見てる。


 雑貨屋さんかな。

 こんな所にあったんだ。


 ん?何あの人……葵ちゃんに近づいてる……。


「ねぇ、君一人?

ヒマだったら、今から遊びに行かない?

君可愛いからさぁ。

気に入っちゃった」


 あれナンパ?

 確かに葵ちゃんは身長が低くて目がクリクリしていて可愛い系女子で、学校でも人気があるけど、こんな人通りの多い大通りでナンパ…初めて見た!!


 葵ちゃん、かわすの上手だから大丈夫……だよね。

 現に葵ちゃん、断っているし。


「あれ?何お前、ナンパしてんの?」


「へーすっげ可愛いじゃん」


 うわ……人数増えた。

 五人か……さすがに声掛けよう。


「すみません、この後予定あるので無理です!」


「そんな事言わないでさ、俺たちと遊ぼうよ!

いい所知ってんだ。

きっと楽しめると思うぜ」


 うわ……めんどくさくて、しつこい系男子だ。


「楽しいかどうか決めるのは私です!

あなた達と一緒にいるのが、もうすでに楽しくないのでお断りします!」


 おー葵ちゃん、かっこいい。


「はぁ?

なんだと、てめぇ……下に出てりゃいい気になりやがって!

このクソアマ!!」


 ヤバ!


(バシン)


「……いったぁ……」


 左頬に渇いた音と痛み……てことは……今、この人……。


「あ? 何だお前?」


「この子の連れのもんです。

というより今……この子を殴ろうとしました?」


「あ? それがどうしたよ。

俺に生意気な態度をとるやつには仕置きしなきゃだろ」


 え……この人何言ってんの?

 ナンパを断られたからって、女の子を殴ろうとしたの?

 しかも、自分が生意気と感じたからお仕置きだぁ?


 私が走って葵ちゃんの前に立ちふさがらなかったら、今頃葵ちゃんが殴られてたって言うの?

 そんな理不尽……許さない。


「おい、急に出てきたお前、連れかなんか知らんが、その子に用があんだよ。

そこをどいてこっちに渡せよ」


「女の子を殴ろうとしているやつに易々と渡すわけねぇだろ!

あと、大事な親友に手を出そうとしてんじゃねぇ!」


 おっと、男子に近づこうとしてた時の口調がつい出てしまった。

 しかも、いつもより低い声だし。

 自分で聞こえた感じではドスのきいたように感じた。


 それに……今の私の声と口調で、通行人の足が止まって皆その場をそそくさと離れていったな。


「んだと?! てめぇもまとめてやってやらぁ!!」


 うわー……沸点低いやつだ……。


 殴りかかってきたとこ悪いけど、すっごく遅い。

 こんなのすぐかわせるし……。


 通行人……は、離れてくれたから大丈夫だけど、変に巻き添えになったら嫌だし、みぞおちに一発入れて動きを鈍らせよう。


「葵ちゃん! ここは任せて、皆の所に走って!」


「わかった!」


 さすが葵ちゃん、物分かりがいい。

 すごく助かる。


 あ、どうしてナンパ野郎が殴りかかって来ても余裕の心持ちかというと、実は私、空手と合気道、剣道とかの武術を習っていたんだよね。

 今はもう自主練中心で、時々道場に顔を出す程度だけど。


 それは前に話した人さらい対策の一つで、両親が心配のあまり道場とかに通わせてくれたんだ。

 今は少なくなったけど、よくケガをしていたから、テーピング巻きは慣れているんだ。


 だから、この五人という大人数で殴りかかられてもかわせるし、殴る蹴るの対抗が出来るんだよね。

 もちろん、空手技だよ?


「おーい、りおー。

手伝った方がいいかー?」


 陸の声だ。

 もう少しで終わりそうだし……それに……。


「いらなーい。

変に加わってあんたらにケガしてほしくないしー」


「りょーかーい」


 あと……一人!


「ぐぁっ……」


 よし、全員うずくまってる。

 通行人も巻き添えくらった人はいないな。


 ん? 向こうの人込みが何かかき分けられてる……。


 あ、お巡りさんだ。


「すみません、ここでケンカがあると通報があったのですが……。」


「えーっと……正当防衛……です……」


 この状況でこの理由は苦しいかな?

 明らかに私一人がぴんぴんしているし…。


「お巡りさん、この子の証言は正しいですよ。

こちらに証拠があります」


 おーさすが準人。

 葵ちゃんがナンパされてるところから、私が殴られている所、相手の声までちゃんと全部録画されてる。


「わかりました。

幸い、事件性になるようなケガはないので注意はこの人達だけで、あなた方は帰って頂いて大丈夫ですよ」


「お手数おかけします。

あとはよろしくお願いします」


 私と準人が皆のもとへ戻ると、事を見守っていた葵ちゃんが駆け寄って来た。


「理央ちゃーん!

助けてくれてありがとう!!

カッコよかったよーー!!」


「うっ……」


 あの……葵ちゃん……抱き着くのはいいけど、すごい勢いなんだけど……。

 ちょっとだけ苦しかったんだけど。


 私の胸に顔を埋めながらお礼を言う葵ちゃん。

 私はそんな葵ちゃんの頭を優しく撫でた。

 いくら私が負けないとわかっていても、心配してくれたんだろうか。


 そこでふと顔を上げると、悠や陸はよくやったと言わんばかりに親指を立てていたのに対し、雨宮君はすごく驚いた顔をしていた。


 私は皆に向かって、ちょっとだけ誇らしげに笑顔と勝利のピースサインを向けた。

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