レッツ、ファミレス

 ナンパ野郎を撃退したのはいいけど……葵ちゃんが離れてくれない……。


「あのー……葵ちゃん?

そろそろ……離れて欲しいなー……なんて……」


「ヤダ……理央ちゃんの胸……」


「今の私は胸がない設定なんですけどー。

というか葵ちゃん、ケガはない?」


 あ、顔上げてくれた。


「ないよ……って、理央ちゃん! 口の端切れてる! 絆創膏!!」


 あー……さっき殴られそうな葵ちゃんを庇った時に負った傷だ。


「じっとしててね……」


 いてて……。


 これって……はたから見るとナンパに絡まれている彼女を助けて傷を負った彼氏と、その手当をしている彼女……に見えたりするのかな……はは……まさかね。


「さっきのカッコよかったねぇ」


「私も彼氏にあんな風に守ってもらいたーい」


「あの男の子すげーな……一人で五人も相手したぞ」


「俺は無理そう……あそこまでの度胸はねぇ……」


 ……やっぱり?


「はい、出来た! 守ってくれてありがとうね」


「そんなの今更じゃない。

さ、ファミレス行こう!

運動したらお腹空いちゃった!」


 そう言えば、葵ちゃんが簡易救急セットを持ち始めたのは、私が本格的に武道を習い始めた時だったっけ。

 今では学校の行事の時に持っているけど、小さい頃に私がこんな風に日頃からケガをしていたのもキッカケだっけな。


「それにしても、一条ってケンカ強いんだな」


「あー……小さい頃から人さらいに遭いそうになっていたから、両親の計らいで武術を習っていたんだ。

強いかどうかはなんとも言えないけど…そこそこの実績はあるかな」


「そうか……。

その人さらい……って……やっぱり男……なのか?」


「うん……まぁ……」


 今日の雨宮君……すごいしゃべるな……。

 というより、質問が多い……かな。

 隣の席だけど、普段はこんなにおしゃべりする事ないんだよね。


 準人を間に挟んだり、陸を間に挟んだり……。

 そういえば、雨宮君が女子と話すところあまり見ないな。


 私達、幼馴染組とはよく一緒にいるけど、だいたい準人といる事が多いし、葵ちゃんと話す事もあるけど、おしゃべり……と言う風には見えないし。


「……一条はさ……そんな風に男に絡まれたりして、嫌いになったり、拒絶……したりしないのか?」


「……うーん……一時期はあったけど……幼馴染や家族の皆に助けられて、守られて……一緒に対策を考えてくれたりしたから、案外平気……だったかな。


それに……悪い人ばかりじゃない……って事も教えてもらったから」


 そう、小さい頃からの人さらい……男の人ばかりで、正直怖い事もあったけど、でも、そんな事言っていたら一緒に笑って遊んでくれる陸や悠、準人達の事も否定しているみたいで嫌だったんだ。


 イジメにあった時も、守って助けてくれたのは幼馴染の皆だった。

 だから、私は私の出来る事をするって決めたんだ。

 守れる範囲で守って……皆にもらった物を返せたら……なんて思ったり。


 ファンタジーの世界じゃないから魔法とか特別なすごい力はないし、私に出来る事はちっぽけな事しかないけど……それでも、皆の側にいられたら……なんて。


「……一条は強いな。

その対策って……男装も入ってたりすんの?」


「んー……今となっては、兄のお願い……かな。

男にモテて欲しくないからって泣きつかれた」


「そうか……。

あ、ファミレス着いた」


「ぃよーし!

いっぱい食べるぞーーー!!」


「「えーー……勘弁してくれ……」」


 陸と悠がなんか言ってるけど、スルーしよう。


「ふっ……ほんと、女子っぽくない……」


 雨宮君にまた笑われた。

 最初の頃よりだいぶ印象変わったなぁ。


 そうして私達はファミレスに入って、六人掛けのテーブルに座って各々好きな物を注文した。


「お待たせ致しました」


「お、俺の分~。

……ほい、陸の分。

こっちは準人な。

んー……で、葵の分……こっちは緋月のな。」


 通路側にいる悠が、店員さんからのお料理を見事な速さで皆に手渡していくなか、私のはまだ来ていない。

 ちょっと注文し過ぎたかな。


「お待たせ致しました。

こちら、残りの注文された分です」


「あ、はーい!

ありがとうございます」


「えーっと、ご注文内容は……。

シーフードグラタンのパンセット、和風おろしハンバーグのライスセット、ほうれん草の冷麺に、マカダミアのティラミスパンケーキ、それから……スペシャル超特大級宇宙の果てまでドーン!!なチョコレートパフェ……の以上でよろしかったでしょうか」


「はい!

間違いないです!

ありがとうございます」


「それでは、ごゆっくりどうぞ」


 お姉さん、最初は驚いた顔をしていたけど、最後の方はちょっと顔が赤かったな…。

 風邪かな?

 季節の変わり目だしね、私も気を付けよう。


「よし、では頂きます!」


「ちょーっと待て、理央!」


「おま……いくらスマホで注文と言ってもこんなに頼んでいたとか知らねーぞ?!

どんだけ食うんだよ!」


「そうだぞ!

俺ら手伝わねーかんな!」


 もう~陸も悠も心配性だなぁ。

 お夕飯入らなくなるからダメって怒るお母さんかな?

 もう、子供じゃないんだから大丈夫なのに……。


「これくらい余裕だよ?

あ、もしかして、夕ご飯の心配してくれてる?

大丈夫だよ。

今日のお夕飯は生姜焼きって決まってるし、ちゃんと食べられるよ」


「「そういう事を言ってんじゃねぇ―!!」」


 そんな大声で言わないでよ……耳が痛いじゃないの。

 そんな事より、早く食べちゃおう。

 お料理冷めちゃう。


「理央はほんと、変わりませんね。

そしてほんとに美味しそうに食べるんですから。

こっちまでお腹空きます」


「うんうん、理央ちゃんは食べる姿も可愛くて勇ましいよ」


「ふっ……一条はほんと……見ていて飽きないな……。

ホワイトソース……ついてる……」


 う、わー……どうしよう…目の前に座る雨宮君に口の端拭われた……。

 しかも、ペロッて……ペロッてした。

 これはあれだ!!

 少女漫画とかでみるときめきシーンだ!!

 まさか現実で起こるなんて……。

 というか……これ、完全に男友達とか思われてる。


 今初めて、食べるのが大好きな事を躊躇ちゅうちょしてしまった。


 女の子として見られたい……なんて不覚にも思ってしまった……。


 ……ってあれ……この感情……今まで感じた事ないけど……何かで読んだ事ある……。

 それに、参考にしている歌の歌詞にもよく出てくる……。


 これが……恋……ってやつ?

 私……雨宮君の事……好きに……?

 いや、まさかね……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る