サッカーでは

 いよいよ球技大会当日が来た。

 荷物は教室に置いて、みんな体操着やジャージに着替えて体育館に集まっている。


 私はジャージ姿で、動きやすいようにズボンのすそを少しだけ上げて七分丈にして、安全ピンで固定している。


 全学年がスポーツをするのだから当然だけど、通常の授業の代わりにスポーツで一日が埋まると言うのはすごく楽しみ。


 今日はいつもよりウィッグを頑丈に固定しているし、男装メイクも汗で崩れないようにしっかり施してきた。


 この開会式のあと、すぐに球技大会が始まるんだよね。


 日程的には、私のクラスは男子のサッカーの次に女子のバレーがある。

 しかもサッカーに関しては第一試合だから、開会式の後すぐに運動場に移動しなきゃいけない。


「理央ちゃん、ケガしないようにファイト!」


「ありがとう、葵ちゃん!

任せて」


 開会式が終わって葵ちゃんと運動場に移動しながら話していると、クラスの男子の何人かが声を掛けてきた。


「期待しているぞ!」


「よろしくな!」


 私が声を掛けてきた男子に軽く手を振ると、所々で女子の声が聞こえた。

 なんだかキャーキャー聞こえるけど……まぁ、気のせいかな。


「そういえば、理央ちゃん、ウィッグとかメイクはバッチリしているだろうけど……」


「うん?」


 葵ちゃん、何か気になる事あるのかな。

 言いにくそうにしている……。


「なに?

何か気になる事あるの?」


「んー……っと……その……理央ちゃんってお胸大きいじゃない?

衣装とか、結構サイズ大きめにしているんだけど……正直、どうやって固定しているの?」


「お胸はスポーツブラとサラシで、苦しくないように、でも、しっかりと固定しているよ」


「あ、固定の仕方は前と変わってないんだね」


 そう、男装の時の胸はずっと同じ固定の仕方をしている。

 って……何の話をしているんだ……私達は……。

 いや、でも、女子ってだいたいこんなもんよ……たぶん。


 それより試合!

 もう男子のほとんどが運動場に集合している。

 私も急ごう!


「おーい、りお、おせーぞ!」


「ごめん!」


 陸に遅いとか言われた……不覚。

 あ、準人や雨宮君も軽くストレッチしてる。

 気合十分って感じだ。


「一条はサッカーできんの?」


「うん、任せて! みんなー! どんどんパス回すからねー!」


『おい、あれって噂の転校生だろ? 男装女子……だっけ?』


『そっちのチーム大丈夫かよ? 女子を入れるなんてナメてんのか?』


「お前ら……理央をナメてかかると痛い目見んぞ」


 おー悠がすごくかっこいい事言った。

 そうだそうだ言ってやれ。


「それじゃ、理央、今日も頼みます」


「うん! 準人もよろしく」


『キャー!! いちじょーうセンパーイ!!』


 ん?

 一条センパイ?

 私の事?

 女の子達の声だ。

 これが黄色い声ってやつ?

 すごい人数だなぁ。

 さっきキャーキャー聞こえてたのって、あの子達かな?


 まぁ、でも、やる事は一つ。

 ただ目の前の試合に勝つ事だけよ。


 気合いを引き締めて……と、ホイッスル鳴った!

 ボールは相手か……先回りして、パスカット狙おう……。


 よし、上手くいった!

 ドリブルで運んで……今パス回せそうなのは……。


「女かなんか知らんが……調子乗んなよっ……?!」


 おっと……なんか足狙われた気がするけど、これはかわせる範囲だな。

 余裕!

 これくらいじゃ私は止まらないよ。


「ゆー!! そのまま走って!! 足先にボールもってく!!」


 ゴールに向かって走っている中で、フリーで距離的にも悠が一番シュート出来そう。

 あの辺に狙って……パス!!


「ナイスパス、りお! …うりゃ!!」


(ピーー!!)


「……っしゃぁーー!! 一点目ーー!」


やった! さすが悠!


「りおナーイス!」


「いーぃぇーい!! ナイッシュー! 悠!!」


『な、なんだよ、あいつ……。』


『つーか、速攻狙ってたのに、普通にパスカットしたぞ?!』


『ハーフラインより後ろにいたはずだろ?!

なんでパスカットできる範囲にいんだよ?!

どんだけ足はえーんだよ!』


 ふっふっふ私を甘く見たからよ。

 試合は始まったばかり……まだまだ序の口よ。


「一条……すげぇな……」


 お、雨宮君の驚いた顔。

 初めてみた。


 ちょっと嬉しいかも。


「ありがと。

次は雨宮君に持ってくから、ちゃんと見てて」


 私はニカッと笑顔で雨宮君に宣言した。


「あぁ、頼む」


 う、わー……真正面からの笑顔だ……。

 この間みたいに、また鼓動が早く感じる。


 はっ……私ったら、試合中に何を考えているんだろう……。

 バカバカ……集中しなきゃ。


「お前、どんだけカッケーんだよ! ちくしょー!! いくぜ野郎どもー! 理央に負けてらんねー!!」


「「「うぉーーーー!!!」」」


 わぁ……陸もクラスの男子もすっごい気迫……。

 私も負けない!


 振り切るようにコート上を駆け巡って……皆にパス回しをしながら……。

 あ、今、雨宮君いい位置にいる……宣言通り……パス!


「あまみやくんっ!!」


「……っし」


(ピーーー!)


「「っしゃぁーー!!」」


 ナイス、雨宮君。


 親指をたてて笑顔を向けたら、小さくピースサインを返してくれた。

 ふふっ……今のちょっと可愛い。

 照れてるのかな?


 あ、次のホイッスル鳴った……。

 狙われる事もあるけど、上手くかわして……パス回しでディフェンスを分散させて……。

 オフェンスの時には自分でもシュートに切り込んで。


 気付けば残り時間、五分を切ってる。


 今ボールを持っているのは……準人だ……。

 コート上の敵……味方……全員の位置を確認して、ディフェンスが薄い所……はあそこだ。


 シュートする位置的にはちょっと厳しいけど……でも、出来ない事じゃない。


 よし、一気に駆け抜ける!!


「はやと!!!」


 相手の間をうようにかわして……手を挙げれば気付くかな。


「りお!! たのみます!!」


 ボール来た!

 この距離からなら……こんな感じで、どうだ!!


(ピーーー!!)


「ぃやったーー!!」


「ナイッシュー! いちじょー!

やっぱお前、すげーな! それでほんとに女子かよ?! 中学の時よりバケモンじゃねぇか。」


「ちょっと! 誰がバケモンよ! 失礼な!」


「いやいや、マジで運動量とか技術とかすげぇよ……」


「正直、俺たちなんも役立ってねぇよ……」


 わ、男子たち私の周りに集まってきた。

 にしても、何を言ってるんだこの人達は。


「何言ってんの。

皆がいてのチームでしょ。

私一人がパスカットしたりダッシュで切り込んだ所で、シュートのチャンスにつながらないんだよ。


皆がディフェンス引き付けたり、ドリブルでかわしてくれたり、オフェンスで体当たりして体制崩してくれるから勝ちに行けるチャンスが出来るんじゃん。


皆で勝ち取った勝利だよ。

次の試合も任せたよ!!」


「「「……カッケー……」」」


 男子が何か言ってる。

 当たり前のことを言って笑っただけなのに……変なの。


 あ! サッカーの次はバレーだ!

 早く移動しなきゃ!!

 よし、次も頑張ろ!!

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