第2話 誘惑

 いやな教師をいたぶる前に、玲にはやりたいことがあった。

 入学した時から気になっている理科の先生。

 丸眼鏡が可愛くて、入学式で見たときから、ひとりで熱をあげている。


 先生が好きすぎて、必修クラブは科学部を選んだくらいだ。ちなみに普通の部活はテレビの影響で、バレーボール部だ。

 ついでに言うと、薫もテレビの影響で剣道部、といいたかったが二人の中学には剣道部はなくて、ブラスバンド部に入っている。

 それでも剣道がやりたかったらしく、警察の道場に通っている。

 昭和四十年代の中学生の平均像だ。


 先生の名前は轟直樹とどろきなおき、名前だけ聞いたら特撮ヒーローものの主人公みたいだが、のんびりおっとりとした人だ。

 大学を出てまだ二年目、当然奥さんはいない、たぶん彼女もいないと思う。

 まあ、いても構わない、奪い取るだけだ。


 先生は、土曜の放課後に理科室にいることが多い。一か月かけて調べた結果だ。

 バレー部の練習がなければもっと早く行動に移せたのだけれど、そうもいかない。普通の生徒としての方は真面目な優等生なのだ。

 まあ一学年六百人もいる大きな中学だから、普通に生活していれば悪目立ちすることはない。

 玲と薫はそこそこの顔立ちをしている、しかも二卵性双生児ということもあって、何かをすれば人目を引くということはほんの十数年の人生でもわかっていた。


 なのに教師を誘惑しようというのだから、玲は自分のことながらあきれている。

 でも先生としたい、そう思ったのだから仕方がない。

 薫とセックスをしたのも、処女だと先生にいらぬ重圧をかけると思ったからだ。

 本当は先生に開通してほしかったけれど、まあ薫だからいいとしよう。一人でいやらしいことをするのと、あまり変わりはないからだ。

 まあ妊娠だけはまずいだろうとは思っている。


「先生、いらっしゃいますか」

 玲は理科室に入ると、扉に鍵をかけた。

 普通の教室は築数十年の木造校舎だけれど、理科室や視聴覚教室、家庭科の調理室、音楽室といった特別教室だけは鉄筋三階建ての新しい建物にある。

 これらの教室は基本的に防音で、鍵をかけることができる。


 玲は轟に好かれていると思っている、多分勘違いではないはずだ。

 部では早々に玲と呼ばれているのもその証拠だと思っている。

 幸か不幸か、先生は女子生徒から嫌われはしないけれど、あこがれられるというタイプではない。

 だから玲が付き合ったとしても、誰もやっかんだりはしないはずだ。


「お、玲じゃないか、どうした」

「先生がここにいるかなと思って」

 言葉遣いを少しフランクにしてみた。

「私もう十三になりました」

 そういうと、ほんの少しスカートのすそをつまみ上げた。


 中学生は迂闊だ、授業中なんかでもつい見せてしまうことがある。そんな時に先生は目ざとく目を動かすのを玲は知っていた。

 先生は『むっつりスケベだ』玲は自分と同じ匂いを彼にかぎ取っていた。

 たぶん先生が好きになった理由は、そこにあるのだろうと思っている。


「先生にこの中身見てほしくて、私処女じゃありません」

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