16ドリーム
青椒肉絲をごちそうになり、晩の腹も満たしたところで────
「人間ならちゃんとドアから帰って」
「はいはい帰るわよ、まったくフザケタ夢のなかでも時間は経つのね」
「……ごめんなんて?」
「女子の小声はきかなくていいのよ!」
バーン
玄関先のドアは勢いよく閉まった。沼津魅枝は充瞳の住むアパート3階の家から出ていった。
そんな慌ただしい様と音を見届けながら家主はおもむろに黒い携帯を取り出した。
「おーもしもし委員長。なんか作業着着た姉ちゃんが天井裏から来たんだけど、アレって本当に委員長の姉ちゃん?」
『え』
『そうね……そうだとおもう。──ごめんなさい、何か変なことをされてしまった?』
「いやちょっとアレコレあったんだけど最終的には助かってさ。晩飯のチンジャオロースまでごちそうになったしな」
『チンジャオロース……そう……』
「ま、じゃな。遅くにごめんなまたあした学校でな!」
『うん。また、遅れずに。──ちょっと待って明日は土曜日学校の授業はないわ』
「そだったぜ……完全に頭がハッピースライムヤードとフルーツサンドと学校でいっぱいだった!」
『それは……すこしぐっすり休んだ方がいいんじゃない……?』
こうしてまたハッピースライムヤードと現世を行き来する一日は終わり。
その後のテキシューはなく、ぐっすりと眠りに就いた男は朝に目覚める。
天気は快晴、いい穏やかな土曜日を迎えた、戦いの果てにあった久々の休日だ。
何をしようか?
というのはもう決めてて、まず行くのは気になっていたここだ。
超能力
「せっかくの休日だ、ここに行けば何かきっと分かるはずだぜ! しかも近場にこんな研究所があったとはラッキーだ!」
時刻は午前11時、フルーツサンドを食らい気合を入れた充瞳は適当に手に取ったカジュアルな服装に着替えて目的地へと出撃した。
▽超能力明晰夢研究所▽
研究所という割にこじんまりしていた古びた建物の中へと誘われ、
そこにはベッドが1つ、パソコンやら見たことのない機器がある。
保健室のような雰囲気であるが、違う。よく分からない興味のそそられる研究所内であった。
「あーさっき電話をくれた君ね」
「で、君はなんの超能力が発現したというのかな?」
ノートパソコンに何やら打ち込みながら時々ちらちらと目を合わす。
金髪に白衣、白衣のナカに季節違いと思われる緑のタートルネックのセーターを着ている。
冷房が効きすぎているこの部屋で、さっそく充瞳は所長と話し合う時間をもらえたのである。
椅子に腰掛け机越しの向かい合わせで問われた彼は答える。
「えっと俺は
「…………んーー。どんな事が出来るというのかね」
「えっとそれは?」
「そう! ステータスが見れます! 出力とか電量とかクルってのが!」
「ははーんそれはゲームのやりすぎだな、はい」
「なんですこれ?」
とつぜん、ひょいと投げられた青い小瓶。充瞳はそれに反応し受け取ったがそれが何なのかわからず。
「目薬。これでたぶん治るよその超能力。今日は来てくれてありがとうね。さて仕事だ仕事────」
「って何ほんとにさしてるんだ!」
「──ん? だって効くって?」
どう考えてもその女研究者の行動は厄介払いの意であったが、青年はその場で受け取った怪しい目薬をさしてしまった。
これには女研究者もノートパソコンを閉じ呆れ、
「はぁ分からないかなぁ」
「おぉ分かったぞ!!! 本当に、え!!! おおおおお!!!」
青年は急にはしゃぎ立ち上がり前のめりに女研究者をじろじろと覗き込んだ。
「っはぁ!? ちょっと研究所で大きな声出すなもう帰れ! ここは遊び場じゃなく大人の仕事場だぞ! 遊ぶなら帰れ!」
急に大声を出されるのは苦手、イラついた女研究者も立ち上がりおかしな青年に即刻神聖な仕事場からお帰りいただくために彼の身体を出口の方へと押していく。
「え、ちょちょちょ! じゃじゃじゃ最後に握手して!」
「握手だとぉ!」
「超能力出るから!」
「チッ! はいはい握手な。はい出ませんでしたー帰れ!」
「うおおおおおギンガああああ!」
「こらっ! 本当にここでコドモがふざけんなぁーー」
仕方なく握手──そして依然大はしゃぎのコドモに最後に女研究者のキツイ蹴りが入り、退散。
小さな研究所から逃げるように街路まで飛び出してきた。
大人に怒鳴られてしまった充瞳は、
「ふぅぃ。わざわざ電話入れて『あぁいいよ来て』っていうから来たってのにとんでもない目に合ったな……。だが、ギンガゲットおおおお!」
「ん? これってさよく考えればヌス……まいっか! いやギンガをゲットしただけで何も盗んではいないぜ、うん! だよね? はははは」
「ギンガハッピース! ────」
思わぬところ、出会いで希少なギンガを手に入れて上機嫌。
わざわざ離れた町にやって来たかいがあったものだと、ひとり頷き、自転車へと跨った。
▽
▽
「チッ、なんだあの冷やかしの元気なガキは……はぁどっと疲れたな。仮眠して仮眠時の脳波データでも取るか」
金髪の女研究者は不機嫌、この不機嫌からくるストレスを軽減するために仮眠を取ることにした。緑のカーテンをしゃっっと開き、白衣のまま布団へと寝転ぶ。
「ったく礼儀知らずというかこのところ訳のわからない若者が増えたな。ジェネレーションギャップか?」
「他人と違う自分になり顕示欲を満たし優位性をもちたいのはわかるが。────いやいやいよいよ日本の未来が心配だな」
ながながと愚痴っては長い溜息と共に黙った────仰向けになりながら正しい姿勢で目を閉じいつものような感覚とルーティンで眠っていく。
ネムリ────精神の夢庭と名付けた彼女だけが知る場へ彼女という存在は降り立つ。
研究に励み睡眠訓練を積んだ彼女は今や明晰夢の一端を味わうことが可能なまでになっていた。
そんな研究成果の狭いジブンセカイを彼女は己の意思で歩き、
「ん?」
「ない、私の中の夢庭のゲンカンに煌めけるホシカガミがない?」
「なぜだ!」
「ないっ……」
「なあああああああいいいいいいいいいい────────」
夢の中であったはずのさがしものが見つからず、叫んだ。
千虎洛市に自力で設けた明晰夢研究所の所長。30歳。
彼女のまだ幼い頃はもっと自由に明晰夢を見れ歩き回れたものであった。
大人になった彼女明智明深にはそのときの想像力溢れる自分を取り戻したいという願いがある。
たとえ叶わない取り戻せない願いであっても彼女はわすれたくない夢に挑み続ける……。
出力■
電量■■■■
クル■■■■
ホノウ 明
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