15チンジャオ!

激闘の後は当然フルーツサンドパーティー。


またも修復の間に合っていない夜空星屑の覗く風通りのいい王城にて、青いスライムたちの宴は盛り上がりをみせる。


東のハッピーからやって来た彼らはその賑やかな一席で────



「まったく訳の分からない話ねあんたの言うサボテン置きの先がここだなんて」


「はむっもぐっふむっはむっ」


「フルーツサンド食ってんじゃないわよ!」


円卓の向かいの席で女王の計らいで特大に盛られたフルーツサンドを食していく、今回もイーター撃退の立役者であった腹ペコの赤目の戦士。

口周りを彩った生クリームをぺろっと舐めあげて、


「だって晩飯食ってないんだぜ。それに食わないと電量が回復しないぜ姉ちゃん」


「あんたの姉ちゃんじゃないけど、はぁっ。────

それでこれが私のステータスね」


いつものようにハッピースライムヤードで起こった出来事をまとめたタコイカ学習帳。そこに委員長の姉、魅枝に鋭いマイナスドライバー片手にたのまれて載せた。覗き見を気付かれた詳細ステータスがある。



沼津魅枝:

出力■■■■■■■■■■

出力■■■

電量■■■■■■■■■

クル■■■■■■■■■■


ホノウ 角



「あぁ。唐突に仲間になる木星住みの悪の女幹部パイロットぐらいのステータスしてるぜそれ、はむっ」


「それは当然このわたっ……って誰が唐突に仲間になる木星住みの悪の女幹部パイロットよ! まったく意味不明だし誰が分かんのよそのトンチンカンな例えっどうみても悪じゃないでしょそんで誰が仲間よ、フンっ、ちょっとワタシのチカラをパクって変なの倒したからって調子乗ってんじゃないわよ」


相変わらず水色の作業着一式で帽子を脱がない魅枝は長台詞のちにバチーンと閉じた赤い表紙をテーブルに叩き置いた。


「はむふむはむッ────ごめんなんてった?」


甘い三角にかぶりつき口周りの生クリームを増やした男は魅枝を見つめてそう言った。


「なんでそのタイミングでフルーツサンドイッテ聞いてないのよ! 今のけっこうカロリーあんたの言う電量を使ったんだけど、はぁッ……馬耳東風の不思議ちゃんなあんたとフツウにしゃべるだけ無駄ね……はむっ」


同じく味の悪くない甘い三角をいただく、その味わう味に少しハッピーな顔をした彼女に、


「キマイラは合体機獣だから」


「はむっふむはぁ?」


椅子に斜め横に座るそんな彼女の食する様子を見ていた彼は話し始めた。


「だからあの角の使い方もなんでか一発で分かったぜ、さんきゅーな」


頷きワラい赤目の男は感謝の意をさらりとノセしゃべった。


よく分からないタイミングで突然に感謝された魅枝は大きく齧ったヒトカケラを飲み込み終え、おどろいて見開いた目を疑うようなジト目にし、


「……アタマでも打った?」


「はははいや、アタマ担当だけど大したダメージはないぜ!」



「──フンッ、あんなのワタシのチカラのほんのヒトサシに過ぎないわよ。素人相手に分かりやすくブンカイしてあげただけよ、フッ。────バラされたくないなら引き続き調子には乗らない事ね!」


作業着のどこかから取り出したピンク柄のマイナスドライバーを鋭く向ける。

鉄色の切っ先は彼女の黒目と同じく────ワラっている。


「…………」


「な、ナニヨ! 何か答えなさいよこのワタシをおちょくって」


黙してそんな彼女のキメたポーズ、キメた顔をまじまじと見つめる充瞳。

顎に手をやり見つめる真っ赤な圧に、視線に、合わせて離れない視線でたじろいだ魅枝。

そして彼は左手銃をぱんっと弾ませ指し納得したように一言。



「いやぁ……やっぱ姉妹って似るんだな」


「どこがよ!!!」



フルーツサンドと電量のページ、黒髪長身のとなり、マイナスドライバーを二重のフルーツサンドにぶっ刺すあおい作業着の女の絵が足し描かれた。




▼▼▼

▽▽▽




いつものようにお疲れのキマイラは例の湖に隠したカプセルドックへとキッチリと戻し────────帰ってきた。


現世。充瞳の家。


んーーっと、同じようなお疲れの背伸び呼吸をしたのは、ふたり。

再び戻って来れた少しなつかしい部屋の空気を存分に取り入れてリアルというものを、あの盤面先の世界との差異を実感する。



「────あんた縫栄に何食べさせてもらったの?」


「んーーっ────え? あぁ、一回……キャベツがシャキっとしたホイコーローをごちそうになったな? それがなんか?」


「あはははは、一発目がホイコーローなんて!!!」


何故かホイコーローで狂い笑う女がいる、今度は充瞳がやはりまだまだ不思議な女に訝しむ目でたじろいた。







「青椒肉絲よ」


「うまっ」


安物のダイニングテーブルに出てきたのは、チンジャオロース。

ササッと手早く炒められ出てきた、ご飯は冷凍ご飯を温めたもの、スープの類はない。

何故か冷蔵庫にあったピーマンと牛肉の代わりの安い豚肉と一人暮らしの男子学生の家の冷蔵庫に当然あるはずのないタケノコの代わりの当然にあるモヤシ。

を使ったシンプルな具材を細切りにした王道中華の炒め料理だ。


その異常に手早く出てきた彼女の料理を食した家主の味の評価は【うまっ】である。


「当然よ。世の中、姉の方が妹より旨いのよ、中華のセカイでもそうできてんのよ!」


「んー、それは置いといてうまいな! はふはぶんんはふるはふる────」


「ふんっ」


エプロン要らず水色の作業着のお姉ちゃんが異常に手早く作るチンジャオロースは、

うまい。







「まったくこのワタシの青椒肉絲の味のヒミツが知りたいですって?」


「あー、なんであんなに異常に早く出てきたんだ?」


「ふんっ、そんなの簡単よ」


❶豚肉は異常に速く斬る。


❷ピーマンはこうやってマイドラをブッ刺してブンカイすれば0.1秒もかからず種もヘタクソも根こそぎ取れる。


❸ごま油は既にギトギト全開待機よ火力MAXの中華鍋にちゃんと事前に馴染ませるのが秘伝よ。


❹具材はゼンブブチ込みなさい。そしてこの火薬をMAXの火に投げ入れて家庭用のしょっぼい火力の限界を突破するのよ! さぁあとは


「おいちょっと待て」


「はぁ?」


「火めっちゃ天まで伸びてんじゃねぇか! 家庭用の限界を突破しちゃソレすなわち家ごと料理してんぞおまえ!」


「ふんっ、イチイチびびりね。ちゃんと長年の研究で火薬量は調節できてんのよもう5年は失敗したことはないわ」


「5年ってなぁ……はぁ。天井焼けてないよな?」


「焼けてないからびびってないでゼンブそこの調味料を入れなさい」


「これって? オイスターとか醤油か?」


「正解。酒とガラスープと胡椒とショウガとオレンジピールよ」


「んーそんなにいっぱい、ってオレンジピール? そんなの入れて大丈夫なのか? みかんの皮ってことだよな?」


「ふっ、これは調理用にワタシが開発したヤツだから大丈夫よ。オレンジを入れるのはピーマンの余分な青臭さを消すフランス料理の手法と一緒よ」


「ええマジか!? フランス料理? 中華なのにフランスに行っちゃったのかよこのチンジャオロース!」


「ふっ、まさにフランスで一皮剥けた青椒肉絲ね!」


「…………」


「しばくわよ、とっととぶち込みなさい」

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