14イッカク!!!
不法侵入した沼津委員長の姉は未だ帰らず……。
時刻はいつの間にか午後7時を回り、いい具合に腹も空いてくる夕飯時。
「このフルーツサンドめっちゃ美味しいじゃない」
「そりゃどうもギンガハッピース」
でーーん、と見せた左手の甲を表にしたスライム王女直伝お馴染みのギンガハッピース。
お馴染みではなく初見の沼津魅枝は首をかしげて目を若干三角にしている。
「はぁ? ギンガはぴ? イキナリなんのピースしてんのよ……はむっ」
「はははいぇい、っていつまでいんだ」
「あんたの話のハンドルどこいってんのよ。はいはいこれ食ったら帰るわよこんな狭い家」
ローテーブルの上に尻をノセ腰かける作業着のオンナはフルーツサンドを片手にむしゃむしゃとマイペースに食していく。
その行儀の悪い食事スタイルは特に気にせず、一人暮らしのこの家を狭い家と言われたのは少しだけ気になったので。
「最後のいらんだろ……ったく不思議ちゃん」
「はぁ!? 不思ごっほごっほ!? みじゅううう」
▼
▽
急遽運ばれてきた1杯の牛乳を飲み干し、詰まらせた喉は回復。その後フルーツサンドも3つ平らげた。
「じゃ帰るわ」
「オマエ分かっててやってんだろ」
「姉に対してオマエね。バチクソ舐めてるわね斬るわよ」
天井裏へと水色作業着が忍び込んでいく何故かパカパカと開閉できるようになっている天の木ドア。
その木ドアから逆さになったオンナがチラリなにやら鉄色の先端を下に居る男にのぞかせた。
さすがにその好き勝手な光景に家主の男も見上げ苦笑うしかなく──
「俺の姉じゃないやつにマイナスドライバーで斬られたくはないけどどうなってんだよそこのスペース。きっとそんなとこ埃っぽくて汚いだろ?」
「既に念入りに掃除改築済みよ、あんたの部屋より綺麗」
「なんでどうやっていつ掃除したんだよって改築とか冗談だろ……人んちでなにやってくれてんだよ……トータ」
「ヤメロ!」
「ハイ!」
男女上下での珍しい構図での会話劇は、
『てきしゅーーーー。ハピすけテキシューーーーーーーー』
突然ノ脳内で鳴りやまない元気な声で打ち切られた。
「おわっ!!!」
「びっくりした!? なにいきなし大声出して驚いてんのあんた」
「敵襲だテキシューー!」
「だれが敵襲のネズミよ、ごっこ遊びなら時代劇にえいきょ」
「オマエに言ってないから!」
「チョっ!? こらっどんどんつくな!!」
「イキナシなにやってんのよ!!!」
「あぁとりあえずぐぎぎぎ!」
「ぐぎぎなんなのよおおおお!」
天井裏と表の攻防、家主は椅子に乗り上げて天井にガムテープを拝借し、びっ、びっ────────
魔改造された木ドアからの反発を上へ押さえつけながら器用にも封鎖に成功。
大量のガムテープを消費し、一汗手の甲でおデコを拭い椅子から飛び降りた。
「良し! そこから出てこないでねお姉ちゃん!」
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【馬鹿! なにやってんの!!! だれがあんたのお姉ちゃ】
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「悪いけどこんなことやってる場合じゃないって! 遅れたらその分不利だろ!」
「オース!!!」
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【ぐぎぎぎこんなことぉ!? ……おーす???】
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オースの合言葉で黒い盤面から放たれたエメラルドの眩しさは、ドタドタと暴れ騒がしい荒れた部屋ゼンイキを包み込んでいった────────。
▼▼▼
▽▽▽
既にイロイロを持ち前の感性で察知したスライム王女の操縦するキマイラは充瞳のハッピーな気配を嗅ぎつけ迎えに来ていた。
早速男はいつもの臙脂色のパイロット服で赤い光となり乗り込み、スライム四天王の乗るチワワスナイパーから送られてきた3Dマップ状況を手早く確認した。
「敵の配置進路はわかった眼帯ムさんきゅーー、よしやるぞおおおお!」
「なんなのよここ。ゲーム?」
「ってどわっ!? なんで乗ってんだ。────委員長の姉ちゃん……?」
いきなり両肩に背に重みがのしかかる、聞いたことのある声が非常に近く耳元にきこえる。
左を振り向いたら、水色帽を被った茶髪のポニーテールスタイルの横顔がある。
「知らないわよ、寝床からいきなりここだったんだから」
「寝床ってナニ!? ってなんで乗っている俺に乗ってんだよマトリョーシカかッ」
「うるさいわねぇ(マトリョーシカは微妙に違うでしょ)、ん、なんか来てるわよ」
たんっとグリッド空間の平面に降りた水色作業着は、よく見えている広々とした周囲モニターの景色に近付いて来ているトリとトゲトゲした謎の物体を訝しみ指差した。
「あぁハリネズミとプテラノドンだ」
「ふーんハリネズミとプテラノドン──」
「意味わからないわね」
「でしょうね!」
「ハピすけ誰と話してんの!」
「だれでもないよ!」
「は、なにこれ、青いの?」
いきなり割り込みビジョンで現れた……まじまじと興味あり気に自分を見つめてくる青くて元気で可愛らしい生物に、口をぽかんと開けながら水色作業着のオンナは訝しみを深めた。
「そりゃご存じハッピースライムヤードのスライム王女でしょ!」
「ごぞんじスライム王女おおおお! だよスラぽにー!」
「スライム王女? すらぽにー?」
「たぶんスラぽにー」
「誰がよ! 冗談じゃないわね!」
全身水色作業着コーディネートの彼女がスライム王女にはハッピースライムヤードのゆかいなスライム仲間の子に見えていたようだ。
▼
▽
予想外の口うるさいゲストをキマイラに乗せながらも敵イーターの殲滅は、チワワスナイパーとモチットラビットタンクに乗る眼帯ムとポチャイムの荒いありがたい援護射撃もあり順調であった。
しかし────────
「これなんなの負けそうだけど、はぁ? あんた弱くない」
「おい黙ってろ、まじかよっデンデンジュウが2体じゃあ!!!」
青と赤のデンデンジュウが2体、昨日の昨日でさっそく今日も現れたあの強敵角の生えた雷竜デンデンジュウ。今度は2体になってよりハードな状況にキマイラ充達は陥っている。
2体の中距離雷電アタックは捌くのも困難を極める、スライムウィップの迎撃と腕の防御態勢だけでの対処では限界がありじりじりとカプス装甲値も電量も減っていく。
こうも早くイーター側の最強戦力を2体も投入してくるとは予期していなかった、まさに昨日よりも今日はピンチ。
「黙ってられないわよこんなダサい戦い方」
「ダサいもなにも────」
トツゼン、沼津魅枝は真っ赤な瞳に食い入るように見つめられている。
若干イラだっていた会話の途中でのトツゼンに、思わずのけぞるほどオンナはその離してくれないアツイ視線にたじろいだ。
「が、ガンつけてなによ!?」
「おいたのむッッッ至急俺の左腕になってくれえええええ!!!」
「は、はぁああああああああん!?!?」
▼
▽
至急キマイラの左腕になった────通信ビジョンに映る作業着のオンナは。
「なるほどねちょっとは理解したわ。それで、あんたの説明によると、私は、これってユニコーンってヤツじゃないのっ、フン! 私のシャドウにしたらマァマァじゃない」
「ユニコーンではなくないか……え、ほんとにユニコーン? なんか微妙に魚っぽいぞ……!」
「この私よ訳わかんないあんたたちと違って選ばれしユニコーンでしょ。だれが市場の魚ですか」
魅枝の乗り込んだキマイラの左腕は淡い灰色と白に染まりそれに長い一角が生えている。
ユニコーンというには少し疑問の残る幻想のような魚のようなもしかすれば現実にもいるような……一角獣であった。
「じゃあ思いっきり真正面からアイツラをネジふせなさい、ソレ以外のやり方は認めないわ」
「おうっ!!! え、どゆこと?」
「すっとぼけてんじゃないわよ。当然でしょ私は妹と違って弱いヤツにタダで貸すチカラなんてないわよ」
通信ビジョンには目を見開き口を大きく開き、ガンつける作業着の女が映る。
挑発的な眼だ。
挑発的な表情だ。
それはワラっている。
「まッじか、姉ちゃん……そういうのッ! アァ、実力で示せってことなら!」
すぅ……。
深い呼吸音とバッチリと開かれた────
「ソコナシにイクゼ!!!」
紅い瞳。その輝きを増しワラった。
こっちは鞭と……ユニコーン……っぽいナゾのドライバー獣!
なら戦い方は! ────キメたぜ、よし今なら!
「王女アレだたのむ!」
「おっけはーーい」
「「【ぐるっとウィップシルド】」」
構えた右腕、ぐるぐるとその大きさを面積を増していく。
蚊取り線香のような渦巻状に青鞭がぐるぐると巻き付き電量全開の特別な青盾を成す。
赤青デンデンジュウ2体から垂れ流される電撃をバチバチと弾き防ぎながら、キマイラはちょうどいい距離とちょうどいい怪獣2体の間隔を目指して位置取り近接戦を誘うように前進していく。
「このシルドの電量は惜しまないッ耐えて耐えて引き付けて──今だっ!」
「びゅびゅっとおーうっ!」
青盾は王女と秘かに考えた射撃攻撃対策のとっておき。
そして投げる青盾その円盤は────
「ナイスだ天才王女!」
「おっけー天才ハピすけ!」
敵を捕縛するための射撃攻撃へと用途を変えた。
ブーメランのように投げつけて描いた軌道に密になっていた渦巻が一本の線へと解かれながら展開した。
展開したのはちょうどいい間隔で引き付けた怪獣2体を囲んだ青い紐の円。
手早くチカラ強くぎゅっと2体の獲物を抱き縛る蛇のように、────2体まとめて胴からきつく捕縛に成功。
鮮やかな盾鞭縄自由自在のホノウの操作に通信ビジョンで褒めたたえ合うふたり。
「フッふたりで天才空間作ってんじゃないわよ。トドメはこれでいきなさい」
「あぁ、俺と同じだ!」
「ふふふ真似してんじゃないわよ!」
キマイラの電量MAXに割いたスライム王女の特別なお縄はなかなか拘束を解けず、
1セットにされてしまい暴れ回る怪獣2体尻尾で味方同士叩き合う程に錯乱。
その間にもキマイラは迫る、なんのために捕縛したのかは、このターンのために。
暴れる雷電荒ぶる雷電、その嵐の中でもキマイラはお構いなし。
真正面からアイツラをネジふせる、その注文通りにキマイラはマッスグ、ハッピースライムヤードののどかな野を突き進む!
その地をガリガリと削りながら引きずりながら長い左腕を、その溜めたイッカクを今!
暴れる怪獣兄弟を串刺し! 突き刺さった、黒い一角。
「「「【ブンカイ】!!!」」」
キマイラに乗れば分かる、相手のヤリたい事。
串刺したイッカクは【ブンカイ】する、赤青デンデンジュウを構成する全てのパーツを、尾を、角を、腕を脚を、何もかもを、電量はもちろんMAX大怪獣2体分の体内迷路を駆け巡る鋭いブラックサンダーが切り刻んでいく荒く細かく激しく何もかもを────────
「あはははは分解よ! ブンカイィィィ!!!」
「うおおおおおおおブンカイィィィ!!!」
「ハピすけ、スラぽにー、ブンカイやったれええええ!!!」
金毛なびかす赤猿の紅い瞳はそのイチゲキに呼応し燃えるようにギラギラ────メラメラギラつき叫ぶように燃え盛った。
赤青デンデンジュウ2体、完全分解!
まとめて串刺した何もかもを電量極大のブラックサンダーは黒く焼き払った。
「ハァハァ……まじかこの強さデンデンジュウ2体をあっさりブンカイ……!!!」
「ハァハァハァ……ん……アネが、はぁ……姉が妹より弱いわけないでしょ、あっははは!!!」
「世の中そうできてんのよ! この沼津魅枝は天才じゃなくて【天】よ。覚えてなさい!!!」
「あははははすすすすすすらっとすっごーいブンカーーイっ!!!!!」
グリッドコックピット内、息切らしながら響き合う勝利の会話劇、通信ビジョンごしにハイテンションを消化する。
真っ赤な瞳とテンション余って帽子を床に叩き落とした汗でべたつく茶色のポニーテールといつまでも『ブンカイブンカイ』とはしゃぐ元気なハッピースライムと。
かつてない大ピンチのハッピースライムヤードに大勝利をもたらした全くキャラの違うキマイラの三人。
そして天に居合わせた思わぬ助っ人、その写しであるイッカクの左腕はあまりにも強烈過ぎたキマイラ史上最高のイチゲキ!
息切れしたのは高くそびえるキマイラも同じく、手にした左の長い得物で精一杯遊び暴れて満足したのか電量は底を突いていた。
沼津魅枝:
出力■■■■■■■■■■
出力■■■
電量■■■■■■■■■
クル■■■■■■■■■■
ホノウ 角
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