12ソコナシにイクゼ!!!

「今回もイーターたちをいい感じにやっつてくれた東のハッピーのハピすけくんとイーンチョちゃんにめちゃでかキマイラちゃんも特大感謝ハッピース!」

「いつもありがとねーー」


斜め掛けたダイヤモンドティアラがお洒落なスライム女王が此度の敵怪獣撃退の感謝の言葉をハキハキと宣っている。

堅苦しくない、

全国の校長先生に見習ってほしい、

女王のいつもの明るい調子に釣られて充瞳も笑っていた。


「はははははは、どもー」


「どどうも」


「ママぁーわたすもだよー!」


「そだったスラちゃんごっめーーんハッピース!」



娘がスラちゃんってシンプルだなー、はははは。


スラちゃんだったのね……。というか王女と女王似すぎてるよね……。

……どうやって生んだんだろう……。




そして、その後に軽い『フルーツサンドいっちゃってぇー』という女王のお言葉をいただき、

もはやハッピースライムヤードの王城にてお馴染みのフルーツサンドパーティーは始まった。







いつものように甘い戦果をいただく学生とスライムたちの至福の時間。

見上げると少し天井が外に抜け夜空のイロ星々の煌めきが目立つボロついた王城で。


「にしても今回は助かった委員長。本当にいなきゃあのーなんだっけはむっ」


「はむっ……ん。タコイカによるとデンデンジュウ」


はむっと角をかじったフルーツサンドを皿におき、

今日のハッピースライムヤードでの出来事を把握するために借りていた赤い表紙のタコイカ学習帳のその怪獣の事が書かれたページを縫栄は彼に向けて開いて見せた。


彼は指差し、そーそー、とゲンキに頷いた。


「そーそーデンデンジュウにはむっ……とやられてたかもしれねぇぜ」


「たしかにアレはアニメみたいな怪獣だったね」


「だろ? なんかやっとちゃんとした怪獣が出てきたって感じだ」


「ちゃんとしたかは分からないけど、ちゃんと強かったね」


「そーそーハリネズミと比較にならないぐらいちゃんと強いんだよなっ。まぁ委員長と王女と俺たち3人のキマイラのパワーなら! 余裕だったな、あ、ちゃんと冷静に戦力を見てなはは」


「そうね、まだ戦いの内容的には余裕はあったけどその前に結構やられてたからカプス電磁装甲のパーセンテージ的に早期決着させるに越したことはなかったね」


【カプス電磁装甲】

キマイラの燃料である電量とは別の装甲値のことを充瞳はカプス電磁装甲のパーセンテージと仮称していた。

カプスはカプセルの略であり……。つまり謎に満ちた技術のキマイラやその他の機獣を守る装甲のことであって、このパーセンテージが減りすぎると危うい事はチワワスナイパーでの初陣で彼の存分に味わっていたところであった。


そのページをいちいち開いて見せるクールな表情の彼女の指摘に、彼はごくりと唾とフルーツサンドを飲み干した。


「んぐっ、それはそれはまぁまぁ俺も王女も苦しみながらもやりくり上手に結構もたせてたってことで! ……ことでしょ?」


「そうね、よくやったと思う」


「お、おおおお!」


それ以上じんわりと責め立てられる様子はなく、くすりと笑った沼津縫栄の表情に同年代女子のとびきりイイモノを貰ったと男充瞳は感嘆の唸り声をあげた。



「ところでこの絵って充くんが描いたんだよね」


「あぁそだけど?」


「……上手だと思って」


彼女はまだタコイカ学習帳の気になるところを開き彼に質問をぶつけている。

ここには彼に起こった彼の見た今日一日のことが確かに書かれている、中でもその怪獣ETデンデンジュウのボールペンで迷わぬ線で描かれた絵はさっき隙間時間に描いたにしてはその尾から角の細部までその怪獣の戦っている姿を想像できる出来のいいものであった。


突如ぶつけられた横道の雑談とお褒めの言葉に、少し驚いた彼は黒髪を照れ掻きながら彼女の目を見て答えた。


「あー、ま昔から調子いい時の目は良いからな。そういやこっちに来ている間は余計……そうだな? 戦ってると自ずと集中できて、かーって焼き付くからさあのぉなんだっけ……そっデンデンジュウの事もハッキリ尻尾先まで覚えていたぜ、まっまぁ褒めてくれてソコナシささんきゅー」


普段、褒められ慣れておらず照れながらもさんきゅーと感謝の意を言葉にした。


「ふーん。そうなんだ……でもデンデンジュウの名前はあんまり憶えてなかったね……」


「はははは、名前がポップすぎて敵として呼ぶときにチカラ入らないからさ雷野郎! カミナリトカゲ! ズルイゾォ! とか戦闘中は怒りを込めて言ってたからかな? なんでか忘れちゃってたな、でも安心してくれ俺の脳はプテラノドンじゃないんだもう覚えたぜ委員長! 残念でもないぜ?」



「あの避雷針代わりにした機転さぁ、どうやって思いついたんだ委員長? 幻闘獣シミュレーターのときはやってなかったよな」


意外にもふたりの話はまだ尽きず、今度は3人搭乗のキマイラでのETデンデンジュウとの戦闘内容を振り返る。

委員長は顎に手を当てながらその怒りの電撃をいなした場面を振り返った。


「そうね。アレは機転って程じゃないと思うけど最初に相手に当てた針の手ごたえで吸い寄せることが可能だと思ったわ、そのタコイカ学習帳で私のキマイラヤマアラシ形態の特徴を空いた時間に復習してたから、マキビシみたいにばら撒いた針を電量を割かない空の入れ物にすればその特徴的な針の空洞に」


「いやいやわかったわかったあははなるほど! いやーヤマアラシの針がマキビシで避雷針かまじかすごいなぁタコイカ学習帳ってなんでも載ってんな、はははは」


「そうね、ふ。復習していてよかったわ」


「でも俺感心したぜこれがキマイラの戦い方のひとつかと思ってさ! 思い描いていた以上にさ! もちろんシミュレーター以上だったぜ緊迫感のあるぶっつけの実戦は!」


「たしかにキマイラが持つ複数パイロットの利点が活かされたね、でも噛み合わないとデメリットもありそう?」


「あーそこはそう、ほらっなんていうかさ? キマイラが上手い事なんとか配分してくれるぜ!」


「そうね……」


キマイラを通して充くんのいろいろと考えていることがわかるから……彼の足りないところも補うというより加算する感じに……充くんがそう思うから私がこうすればいいってだけだった。

甲賀流忍縫、ぬい忍の修行でも味わったことのない不思議な感覚ね……。

それに最後のあの忍縫もわたしの……。


「どうした委員長? あっ最後のアレで電量使い過ぎて疲れたか! フルーツサンドもっと食わないと回復しないようだぜって、たしかタコイカに書いたような俺?」


「ふ。たしかに食事で電量は回復するって私も実感してるよ。もうひとついただくわ」


開かれた食事の重要性が書かれているページ、とにかくたくさん食べる! 日々の食事がフルーツサンドが電量になる! と書かれている……。

のちにフルーツサンドの角をかじるイインチョーと元気な王女の絵がそのページに描き足された。




▼▼▼

▽▽▽




夜景とフルーツサンドの特別な宴会を抜け出してハッピースライムヤードから現世へと戻った2人。

その後いつものように委員長を家路の途中まで自転車で送り届け、いつものように別れた。


いつものように充瞳はネムリにつき────────



珍しくテキシューのない目覚めのいい健やかな翌朝。


大きな欠伸とともに派手な寝ぐせをぐしゃぐしゃとほぐし悪化させる。

手に取った携帯電話の時計は9時五分前。

もう一度パカリと開いて見てみる、携帯にはメールが届いている。




7:30

副委員長。きっと昨日の戦いは激しかったから寝すぎているとおもう。

起き上がって。




「起き上がってって……ははは」


もう決して間に合わないがひとついつもと違う目覚めで、ネガティブは星屑になった。

その人の微笑みを短くチカラ強い言葉の残る携帯画面に浮かべて、パチリと閉じた。

もう一度めいっぱい敷布団の上で両腕は天に伸びる。

元気あふれて地に落とす。

パッチリと開いた黒い瞳は赤みを帯びて────




「さぁて、みんなの待つschoolへ。ソコナシにイクゼ!!!」

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