11甲賀流忍縫無限縫鵺

今日も一日の授業が終わり。1年B組に空いたひとつの席が担任の黒野先生には目立って見えていた。

もうクラスの皆が教室からはけていった頃。



「おい、委員長お前の副委員長はきょうはどこだ」


まだ教室に残っていたクラス委員長の沼津縫栄は、腕を組みながらどっしりと立つ黒野先生に問われた。

黒縁眼鏡をむっとギラつかせる佇まいに、その目を見てちゃんと答え。


「仕事かと」


「なわけあるかああああっとお前に怒るのは筋違いだったな。いけないいけない先生であるからにはな」

「仕事ではないだろう私の知らない隠れ芸能人の卵でもあるまいにこの学校にそういう生徒がいるにはいるがアイツではないだろうまったく……まぁこれも委員長と副委員長、何かのよしみだクラスメイトとしてきゃきゃっとヤツを気にかけてやってくれ。それにこのところおかしなヤツに更に磨きがかかった気がするぞ、昨日の今日で私はそこまで一生徒の面倒は見切れん」


そんな他人事を長々と委員長に愚痴っていた先生の話に何度か帰り荷を持ち突っ立つ長身は頷き、


「ええ。あの先生、ひとつ伺いたいのですけど充くんはどうしてこの底無高校に?」


今度は逆に問うていた最近交流があった他人の事を先生に。

比較的真面目な生徒から意外な質問をぶつけられ少し戸惑い驚いた黒野先生は、おどろきながらもしだい顎に手をやり考えながら答えていった。


「おぉ? うんそれはものすごくプライベートなことだが……。底無にいるからにはあいつにも一つ、いやフタツぐらいは秘められた取り柄があるものさ、知っての通りじゃないとここには入れん。といってもまさに底のBクラスだがなおっと失礼本来そんなものはないという前提だぁが、委員長オマエもここに甘んじず頑張れよ(ここでの評価は将来の就職先にもパイプがありなかなかつながる)……からなお前の本来の実力はもっと上と先生は見ているぞ」


「はい。先生……」


そう簡潔に答えて一礼をして帰っていった黒髪の生徒の後姿を腰に手を置きながら、ふん。とひとつ息を吐いて担任は見送った。


「まったくこのクラスのあの二人はどうもイマイチ向上心というモノを感じられんなぁ。しかしそわそわと落ち着かん、真面目が充瞳という異物にアテられてしまったのかぁ? ま、本来ここはそういう場でもあるがな、うん。その組み合わせはあまり想像ができんなぁ……? 掛け算か足し算か引き算か……和差積商に微分積分、想像できないほど想像の余地があるだがたかが高校生理解できず躓きやすくもある、この大砲の弾の行方は……アイザック・ニュートンにも分からない、私は知らないメガネ屋に行き予備のメガネを買っておくべきだ」



おもむろに外した眼鏡をひとり眺める。

しみじみと言い切り浸っているのに感じる視線は……、



「……ふでばこ」


「……ふううううううでばこおおおおお! それは大事だぁさっさとぉ、いやキャッキャと持って帰れ! いやぁたしかに微分積分はつまずきやすいからなぁ……どうしようかなぁ~~あなたのせいでものすごい数の生徒がグレてますよぅアイザック・ニュートン、にゃ~~とん、らいぷにっつ────────」


忘れ物を取りに来た背の高い女生徒はさっさと筆箱を取り帰っていった。







昼飯の時にはテキシューがあった。厄介なテキシュー警報に俺はまた学校を抜け出し自宅へと急ぎ戻りあの黒い盤面の先の世界にダイブしていった。



順調も順調、キマイラと俺とスライム王女のコンビもそこまでヤワじゃなくいつも通りにハリネズミとプテラノドンを屠っていったが……。



ここでちょーっくら思ったのがアイツらどこから来てる……。

なんでこのハッピースライムヤードにテキシューにこんなにも夢中なのかまったくわからねー! ……この世界がハッピーすぎて嫉妬か嫉妬?


そんなことはさておき、ここでちょーっと異常事態だ。



「新手かよ! ぐおおおおまさに怪獣じゃねぇかどうぶつに例えられねぇぞ」


キマイラの頭部パイロット充瞳の特別な紅い瞳はギラリと妖しく輝きその怪獣の正体詳細を見抜いた。


ETデンデンジュウ:

全高33m程

帯電している、帯電拳法が痛い。


ふざけた名前しやがって! って誰がつけてんのこれ、おれ?



青いティラノザウルスのようなフォルムが二本足で立ち、地まで下がり伸びる尾はそこそこに長い。

特徴的なのは黄色く鋭い眼に、人間でいうこめかみの辺りから巻くように真横に伸びた立派な黒い角が左右対称に二本あり、ビリビリと帯電している。

その巨大な容姿まさに大怪獣。



「来るってなら! 王女さんイケルか!」


「イケますともお! ハピすけ!」


通信ビジョンでやり取りした王女と頷き合いキマイラは大怪獣に走り向かっていった。


格闘戦でこたえるつもりだ。


もう少しでぶつかり合うその時、

帯電していた角は妖しくビカっと光った。


一瞬にて着弾したイエローサンダーがなんとか腕をクロスしガードを間に合わせたキマイラを押しのけるようにいつまでも雷撃を出力しつづける。



「こんにゃろおおおおお充瞳さんはそうだと思ったああああああ」

「ぐぎぎいいいこのこのこのこの」



ぶち当たる膨大な電量に堪えている間にも大怪獣は走り雷撃を垂れ流しながら接近する。

やがて体を回転させ勢いよくキマイラの左脇腹を打った長く太い尾が────


ズガガガガガガ────



キマイラを尻餅つかせ、弾き飛ばしていった。

重鈍な音と並々ならぬ衝撃がグリッドパイロット空間に響き渡る。


「────痛てててて……やべっ、まじやべ……んだこのパワーの雷怪獣野郎は……!!!」


「ふべべべべ……」


「おいしっかりしろ王女しぬぞおおおお」


目が渦巻きに頭にヒヨコが飛んでいたスライム王女を通信ビジョンごしに叩き起こし、キマイラは重い腰を上げ立ち上がった。







新たな怪獣ETデンデンジュウのキマイラをも凌ぐパワーと万能な電撃攻撃にパイロット充瞳が苦戦も苦戦していると、


青い閃光が乱れ飛び、2、3発と怪獣の胴体首辺りを撃ち抜いていった。

硬い皮膚装甲に少しは効き仰け反ったETデンデンジュウ。


いきなり通信ビジョンに割り込んで来たのはスライム四天王の眼帯ムが乗っているはずのチワワスナイパーから、当たらない援護射撃を辞めさせていたハズだが急に命中精度が別人になっていた。


『副委員長、ちゃんと学校に戻って来ないと黒野先生がかなり心配していたわ』


そこに移る姿はピンクの眼帯をつけた眼帯ムではなく臙脂色の同じ制服を纏う黒髪クール女子。


「委員長きたああああ」

「イーンチョきたきたなのお」


心の叫びは既に充瞳がさけんでいた。


「それはホントごめんだけどっ! ハッピースライムヤードに敵襲だからさ委員長!」


こっちに来る前に携帯に連絡を入れたのを見て早速放課後に来てくれたようだ。


「そうと来たならっハッピースライムヤードを荒らしてんじゃねえええええずっこい雷野郎おおおおお」


なおも接近してきたデンデンジュウに対していつもより気合を補充し伸びた青い鞭の連打。連打。


鞭打つ鞭に打たれ怪獣は大きくノックバック。



「離せ王女!」


「おわぁーーおけおけ!?」



導火線に火が付いたように鞭を伝ってきた雷電に、武器をさっと手放しやがて宙に暴走した熱いエネルギーを纏った青鞭は爆発していった。

やられている間にも赤目のパイロットはよく観察していた、手痛い雷電の防衛システムを貰わずに済んだ。


「やっぱり気合を入れてもやり方を変えないと相性が悪いな!」

「チワワよりこっちに乗ってくれ委員長! 王女と2人じゃマジ怪獣相手には限界だ!」


「いーんちょはやくううううマジかいじゅーしんじゃううう」


『マジ怪獣しんじゃうって……わかったわ』



充瞳は加勢に来た沼津縫栄にチワワスナイパーからキマイラに機体を乗り換えるように指示を出した。


隙を見て近づいてきたチワワスナイパーから委員長はベージュの光となりキマイラへと乗り込んだ。貴重なユニットであるチワワスナイパーは眼帯ムに任せて即座に退かせて王城の防衛に当たらせた。


さっそく委員長はキマイラの空いていた左腕のグリッドパイロット空間へと移り、

キマイラはその新たに加わった操縦者の能力を得る。


「いくぞキマイラ本領発揮ぃぃぃ!!!」

「イッチャええええ」

「……!」


赤いイカツイ猿顔、ハッピーに青い右スライム腕、そして黒と白のまだら模様の針を持つ暗褐色の刺々しく力強いヤマアラシの左腕。

パイロット3人分のキマイラの本領が解放された。


「さっそくあの雷野郎に針を飛ばしちゃってくれよ!」


「わかった」


あからさまに左肩を向け、肩アーマーのように装飾されていた鋭い逆立ち針が青い怪獣目掛けて飛んで行った。


お飾りではない山のような針が刺さりビリビリと割いた電量を発して焼き焦がして追加ダメージを与える。

これにはたまらず今日一番悶えて見せたETデンデンジュウ。




「たとえどんな新手の怪獣だってよおおおお! 今度はハリセンボンのキマイラだぞ!」


「すすすすヤマアラシィィィ」


「そだったわ!」


「そうね」


「よーしよしよし。バルカンがあると戦いの幅が違うぜキマイラ!」


「針は万能じゃないわ冷静にね」


「わかってるって! 今が攻め時いくぞ電量全開で走るぞソコナシショルダータックル!」



首を振り針の痛みに悶える怪獣にすかさず追撃のショルダータックル、キレのいい動きで一気に突っ込んできたキマイラの左肩が怪獣の腹に勢いよくぶつかり数多の針がまた抜けて深く突き刺さる。

吹っ飛び今度尻餅をついたのは敵の方であった。お返しとばかりにドギツイイチゲキをお見舞いした。



すぐさま尻尾の筋力で華麗に起き上がったデンデンジュウは今日一番怒りまた二本角にバチバチとエネルギーを溜め解き放った。


キマイラもすぐさまこれに対応。右に走り、一味違う3人になった機動力で避ける避ける翻弄。

地を奔る雷電に対してばら撒き地に突き刺さった黒白斑模様の委員長の機転が避雷針の代わりとなり、ETデンデンジュウの必死の雷電アタックを忍びのような身のこなしで翻弄。




「それ最高だ委員長ううううキマイラは風と嵐になるぜ!」


「ありがとうでもこっちのダメージが多いし練習通りアレをやりましょう」


「あぁもちろん! そろそろアレしようと俺も思ってたぜ委員長!」


「あれあれぇあれかあれあれー!」


「アレだああああ」


なら本番にてスライムのムチに更なるチカラを掛け合わせればどうなる!


「準備いいよな、王女、委員長!」


「すっすすすすごーくオーケー!」


「ええ、もちろん!」




「こうだろこいつは鞭より鋭いぞ電磁ヴァリアブルニードル!」

「すらっとザクっとおおおおお」

甲賀流忍縫無限縫鵺こうかりゅうにんぽうむげんぬいきまいら


数多を集わせ左肩に生成された虹色の一本、スライムの右手に抜き取り青い糸を通して繋げる。

それスナワチ新たな武器。

溜めに溜めた右腕は針糸を放つ、



「悪を貫け!」

「やったれええええい」

「……!」



放たれた針糸は迎撃する雷電をも貫く、貫き裂いて貫く!

その青く硬い皮膚をも通す虹色のヤマアラシの針はするりするりしゅるりしゅるり、無限に自由に縫い描くスライムの青い糸で通り抜けた体内迷路を縫い付け縛り上げて最後には、

頭頂に突き刺さる虹色で────────


「ぬおおおおお」

「ぬっちゃえええ」

「ハッ……!」



ギラリと光る赤猿の瞳、雷電放出のちに大爆発。



ETデンデンジュウは跡形も無くスライムハッピーヤードの野を燃やし散った。




あまりの威力必殺の一刺しの余韻に、通信ビジョンで肩で息し目を大きくし見つめ合うキマイラの中に居る各々。




「うおおおおおおお」


「すすすすすらっとすっごーーーいい」


「はぁはぁ。ふ。やれたみたい」



「特大ギンガハッピースだよおイーンチョハピすけええええ」


「あぁ。こいつぁ特大ギンガハッピーーーース!!!」


「そうとしかいえない特大ギンガハッピースね……」




高まったテンションで見せあった手の甲のVサインが重なり合う、それだけまた大きな笑いが起きたコックピット内。


新手ETデンデンジュウを打ち倒し手にした気持ちよすぎる大勝利、こうしてまたハッピースライムヤードの超平和はキマイラを操る3人の活躍で守られた。




キマイラ:

出力□□□□□□□■■■

出力■■■■■■■■■■

電量□□□□□□□■■■

電量■■■■■■■■■■

クル□□□□□□□■■■

クル■■■■■■■■■■

クル■■■■■■■■■■

クル■■■■■■■■


頭 充瞳

右腕 スライム王女

左腕 沼津縫栄


ホノウ 瞳 ハッピースライム 針




「ところで委員長さっきのナニ、こーかりゅなんたらかん」


「……気合」


「はははは、委員長ってクールな感じで気合入れるんだかわいいなそれ、ははははは」


「……そう」

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