10ギンガ1の宴会

ここでひとつ今日分かった。


こいつら四天王はキマイラに乗れるが乗れないということに。

何故だかは知らないがおそらくホノウの項目が何もないからだろうな。それにスライム王女と違いギンガを持っていなかった。



キマイラ操る充瞳とスライム王女の失策をカバーする程の奮闘もあり戦闘は無事に終了した。

ほんじつ殲滅した撃墜スコアは、


針鼠4

プテラノドン12

カエル1


破損ダメージは少なくは無かったものの実質1機で立ち向かった割にはマズマズの内容であり。そして案の定、この日ばかりはありがたいスライム女王の計らいで王城にて宴会が行われている。


一度現世へと戻り誰かへと連絡を入れた充瞳はその間にお湯を沸かしたポットを手持ち再びこの超平和を取り戻した地に舞い戻り、王城に設けられた豪華な本日のMVP席に座った。


遅れてやって来たきちんとした制服姿のゲストと、甘いフルーツサンドと持参したコーヒーを分け合って味わいつつも。

やはり充瞳が気になるのは……。気になっていた事をその紅い瞳で……コーヒーカップをゆっくりと傾ける対象をじっと見つめて────



沼津縫栄:

ギンガ1


出力■■■■■■■■

電量■■■■■■■■

クル■■■■■■


ホノウ 針




「げぇ!? 委員長つよっ……て、ギンガ……ギンガもってるうううううおおおお」


「いきなり……なに? ギンガ……タコイカにあった機獣召喚の?」


じっと見つめて来たと思えば赤目の男は突然にこちらを前のめりで見叫び、沼津縫栄はもう少しで噴き出しそうになった白いコーヒーカップを小テーブルへと置いた。


そして何故か身を乗り出し、テーブルに置かれていた縫栄の手を握っていた彼の手は、引いていき。


「おおっとごめん! そそ、それそれ委員長にあったんだよギンガ、が!」


「──ある? 何も感じないけどたしか書かれていたのは煌めけるホシのような?」


「ああー、待って待ってくれとりあえずギンガをぎゅっと、アレ? 委員長」


再度掴もうとした彼の両手はさっと空振り。さっと肘を折る小万歳の様なカタチで、ハンズアップしソレをかわした委員長はクールな表情でテンション高ぶる彼を制した。


「待って、冷静に考えた方がこれ以上ユニットを増やしてもここには乗り手がいないんじゃない?」


直り立ち上がったままぽりぽりと右の頬を掻いた男はやがて、その事か……と問題をひとり脳内でクリアし笑い。


「いやいやその点はだいじょぶだいじょぶ! スライム四天王がいる」


「スライム四天王?」


きゅっとかるく右手を顎の下に握り、彼女がクエスチョンマークを浮かべていると────ぞろぞろと彼は点呼を取り青を集めて賑やかな面子が集まって来ていた。



「ひとつ、しょっとおまかせー」

「ふたつ、まかされたあふ?」

「すッりィィィィ、すすすすひょーーーー」

「ふぉー、ぽちゃっと参上」



未だぽかーんとクエスチョンマークが薄れて消えない彼女に得意気な顔をした彼はここまでの経緯事情を説明。



「────なので結局消防団からスライド案採用させてもらいました委員長!」


「そう……それがハッピースライムヤードを守るにはいいと思う」


それは自分の提案した案であったのもあってか、彼の話した内容全てをすんなりと幾度か頷き一度で納得した委員長であった。



「だよな!!!」

「だしょっと」

「だあふ?」

「だだだだ! 撃ちたーい!」

「ぶぇっぶぇっ──なにこれッあんこくにがぁぁぁいィィィィッ」


頷いた委員長に対して数の多すぎる男に続く青い3人娘の元気な返事と、香る男の飲みかけのコーヒーを気になり手渡され飲んでしまった……ぽっちゃりスライムの断末魔が城内におおきく響いていく。




タコイカ学習帳

スライムたちはコーヒーが苦くて苦手。

香りは好きらしい。




▼▼▼

▽▽▽




「この度はお城をいい感じに守ってくれてありがとねー、でもちょっとちゃんと守ってよねーハピスケくん! でも夕焼け小焼けの宴会ナイスハッピーだよ! さいきんハッピー足りてきたねぇ!」


「はははは、その節はすんません。ははははは夕焼けハッピース!」


「あはははは小焼けハッピーす」


「「あはははははははは」」


手の甲魅せる夕焼けピースに呼応する小焼けハッピースで明るい会話劇をキリよく締めた。



幾度か防ぎ切れなかった敵の攻撃でぽっかりと空いた青い王城に射し込むオレンジ色の下で、随分とたのしんだ宴会も途中に。いつも元気でハッピーな応対をしてくれているスライム女王への恒例の挨拶を済ませて、充瞳と沼津縫栄は城を出て野外へと移動していった。



そして広大な野に受け取った煌めけるホシは投げ放たれた。


巨大なカプセルからバチバチと雷電放出し顔を出し初登場の自動ご挨拶演出────長い耳をピコンといきり立たせて聳え立つのは、


モチットラビットタンク(白):

白いカラーの半球型のウサギ機獣。

その特徴的な長い両耳は砲身約10mまで長さの伸縮可能な可変砲になっている。

底面の蠢き進むモチモチレッグで脚部のカタチを変えつつどんな環境にも適した移動できるため汎用性が高いと言える。

武装

ラビット砲弾

モチット砲弾

吹雪



「これは……餅みたいでウサギみたいで可愛いけどなんなのかな充くん?」


「委員長どうやら聞いて驚かないでくださいね……モチットラビットタンク(白)らしい……! ってほんと可愛いな、ちゃんと動くのか? ははははは」


「モチットラビットタンク…………ふふ」



夕焼け小焼け天に映える白い両耳ともちっとした半球型ボディが可愛らしい。

そのギンガを使い召喚に成功し新たな仲間となった機獣を、臙脂色ブレザー纏う学生フタリは見つめて、各々の濃度で笑い合っていた。




▼▼▼

▽▽▽




今後のハッピースライムヤードを攻略するに当たって新機体の性能テストを兼ねた試乗と、戦力的に使い物になるよう例の青い四天王スライム娘たちの訓練をしないといけない。


時は────沼津縫栄から手に入れたギンガを野に投げ放った巨大白兎現る夕暮れから次の日の午後5時過ぎ、空はまだ明るい。


充瞳とその連れは王城へと出向きスライム女王様に何処かドンパチやっていいスライム住人の居ない場所はあるかと聞き。



「ドンパチ? それならずーっと北の方に遠いハッピーな野原があるよねぇ!」


「りょうかい! 北の方の遠いハッピーな野原か!」


「待って副委員長。そもそもこの世界ハッピースライムヤードってどこまで続いてるの? 一度確認した方がいいんじゃないかな」


意味を成さない豪華な王席から飛び出したスライム女王と充瞳が流れるようにノリを合わせていた中で、ひとり冷静にハッピースライムヤードの地図地形規模に対する極当たり前の質問をぶつけた。

女王と両手を合わせ合い、紅い瞳はきょとんとしながらも。頭上に浮かぶ見えないクエスチョンマークを濃くしていき。


「え? えと? そうだな…………まじで何処までだ……考えてはいたけど後回しにして全然調べて無かったな……」


そんな顎に手を当て首を傾げた彼、のお隣さんの浮かべた青い粘液のクエスチョンマークはビックリに変わり。


「あぁ! それはねー白いモヤモヤまでだよねぇ!」


「「白いモヤモヤ?」」


重なった疑問の言葉に少しはなれた臙脂色のブレザー同士一瞬見合うも、女王は続けて元気良く発言した。


「うんうん、そこから先は行けるけどいけなくてまたモヤモヤのないどこかにもどっちゃうのーーいたずらっこなのーよねぇ!」


疑問に対するまさかのメルヘンチックな返答に、2人どちらも口をポカーンと開けてやがてソレを消火活動に協力する西の森のように……このハッピーな世界ならあり得るという同じ理屈で強引に飲み込んだ。


「ええ!? まじかよ……す、素晴らしいなハッピースライムヤード……」


「……物事をあっちの常識にとらわれて考えていた私、未熟だったみたい」


「ははは……まったく、だよな」



ひとつこの世界の摩訶不思議に納得のいったところで、



充瞳、沼津縫栄、更に城前で合流したスライム王女、スライム四天王の一行は北をずっと進みどこまでも続いていた広大な野へと来ていた。


と、ここで『なんかハイテクな戦闘シミュレーターでもあるといんだけどなぁ』とコックピット内で男が大声呟き……嘘のように偶々発見した3体の機獣の幻闘獣げんとうじゅうシミュレーターと呼ばれる戦闘シミュレーター機能を起動。


3体繋がり誘われたのは機獣のコックピットと似た広大な黒いグリッド空間。

このシンプルな空間では今までに戦った敵機を想定した仮想訓練が可能である。


驚きつつも青いビジョンウインドウに書いてあった説明書きを委員長が正しく読み取りこの場の皆に噛み砕き説明し、物は試しとリーダーの男は言いさっそく訓練は開始された。


幻闘獣シミュレーターの機能を理解しハッピースライムヤードの地形をスキャンし真似た訓練フィールドで。


3体と敵機が地鳴らす足音と、既に何発も轟音が響き渡っている。


高い丘を挟み曲射した一対の砲弾は地に設定された動く的にドンピシャで命中し白く爆発した。


「これもチワワスナイパーと同じくトリガーシミュレーション出来るみたいね」


【トリガーシミュレーション】

パイロットの意志を読み取りそのタイミングでトリガーを引いた場合に敵に当たったかどうかを0から100の命中力で示してくれるアシスト機能、命中率ではなくそれが絶対ではない。

使いこなすのは簡単ではないが人間の感覚を数値化し補助してくれるシステムといえる。


軽く的を破壊出来た達成感に喜んでいると、同じ臙脂色ブレザーの格好をした男の割り込み通信ビジョンが左視界隅に表示された。


『委員長どうでしたか?』


「良い、と思うけどっこのもちっとしたキャタピラでの移動方法に未だ慣れるまでに時間がかかりそう。私は……チワワの方が3枚抜きがあるから今のところはそっちが好感触だけどこれも障害物越しには目は良いし威力もあって悪くないと思う」


『そすかッ、だよなぁ俺も幻闘獣シミュレーター? で試射した感じは針鼠に効きそうな破壊力はあるけどプテラノドンキラーの委員長がタンクはもったいないよなぁ』


「プテラノドンキラー……そんな言葉初めて聞いたわ……あの充くん私を当てにしてくれているのは嬉しいけど放課」


『あ、そだーーだうだッキマイラ! 委員長たのむキマイラに乗ってみてくれ!』


「あの、きいて」


委員長沼津縫栄は高い白耳の長い砲門を前に下げた試乗途中のモチットラビットタンクから、ずいずいと近寄って来た巨体キマイラへとリーダーに促されるままに……ベージュの光となり乗り込んだ。







キマイラの新しい可能性がさっそく見れるとあって内心はワクワクドキドキ、委員長にはとりあえず左腕をと頼んでみたものの────。


染め上げられた黒と白の新しい左腕を得たキマイラの一通りの動きとワザを仮想ハリネズミとプテラノドンを相手に試し……。


針千本で蜂の巣にされた赤針鼠の新鮮な姿がそこに────ダメージ限界を迎え爆散し消えていった。


その光を見届けた後に3つの通信ビジョンは入り乱れ。


「一通りこんな感じ、かな?」


映る──歯は見せず、口角をきゅっと上げた少し汗ばむ黒艶髪の女生徒。


「イインチョウすすすすすらっとすっごーーいつっよーーいトゲトゲハリネズミが仲間になっちゃった!」


「沼津委員長まじこれもうスベテがグレードアップしててやばいっすよ、これが本当のキマイラ! うおおお念願の……ハリネズミ? とはちょっと微妙にちがうような、なんだ?」


「■■■■■だとおもう」


「あぁアイツかぁ! いやまじはははは猿にスライムにこれはただのロボットというよりモンキーでもなくファンキー! でもまさか委員長が■■■■■だったなんて!」


「うん。私もびっくり」


「ねぇねぇ! ハリネズミなのに■■■■■って何ィィ! ハピスケェェイインチョーー!!!」



3人目にしてまたしても珍しい動物……新たなパーツ刺々しい黒白の左腕を手に入れたキマイラ。青と黒白の両腕を見比べてぐっと握り締め赤い猿顔は満足気に目を光らせその巨体に気合いを入れた。



一方で──────



「だだだだ、うーーつ!!! 褒美はワタシだァァすすすすひょーーーー!!!」


「ふふぽちゃっともちっとかわいい、どどーーん!」


乱射されていく青い閃光と明後日へと着弾する白い爆発光。


スコアの良いものには褒美を授けると男に言い渡された……四天王スライム娘たちの的当ての射撃訓練は続く。


────こうしてラッキーにも見つけ機能開放した幻闘獣シミュレーターの中で、放課後の充実過ぎる機獣の戦闘試乗訓練を終えた。

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