9四天王
テキシューそして悪運続く……こんな日に限って陽はまだ燦々と射し光る。
地獄の500mグラウンド25周は────へろへろゼェゼェと玉の汗を伝い流し膝に手をつき立ち尽くす男子生徒がそこに。
日陰から出てきた眼鏡、いつの間にか日除けの帽を被る先生が一言喝を入れに手土産を持ち近寄って来ていた。
「どうしたそんなだらだらへろへろにゃんにゃんと怠けていたのか、お前はまだ17周だぞ」
「か、勘弁してくれェェ…………こちとらハッピースライムヤードで針鼠5体カエル1とプテラノドン18体料理したあとなんだよ」
「ハッピースラ? 何を意味不明なことばを羅列しているんだまったく理解不能だぞ……とりあえず水を飲め────体力がないぞ基礎体力が充瞳。その証拠に沼津はここまでまったく息を乱している様子はなかった同年代の男として悔しくはないのか」
しれっと差し出され手渡されたそのキャップの開いていた冷たいペットボトルを、暑さにやられ渋い顔をしていた男子生徒は目を見開きチカラ強く受け取り。
天を仰ぐ、ゴクゴクと喉鳴らす水分の補給。
「はぁはぁっさんきゅ────んんっ……ぷはぁっ! って炭酸バチバチのラムネソーダありがてぇ! はぁ……だからサァ委員長は色々とタコイカ学習帳でスペシャルなんだって、俺は至って……委員長をサポートする理論派と頭脳派で、そっ副委員長! 黒野ちゃん先生ははは、だよな!」
「誰に向かって、だよな! だ充瞳! それにだれが、黒野ちゃ」
「──25周」
グラウンドのスタートライン付近で騒いでいる2人に、煌びやかな汗を垂らしやって来た──姿勢よく走る長身女子は止まり先生へと一言告げた。
「おっ、もう終わったのか! 見てみろミツルヒ」
「はい。なので25と17で」
「……25と17ダァ? いきなりどうしたなにがだ?」
「……」
また一言言い放ち、目の前の男子生徒にくらべて比較的真面目な委員長が最後までを言い淀んだソレを先生は不思議がり首を傾げる。
そうして生まれた謎の沈黙に──
「おい黙るな沼津、この陽射しのややきつい500mグラウンドにミステリーをノコすな。──アー、そうだソーダお前も水が足り」
「ははははは、ソーダァァァ!」
ラムネソーダのペットボトルを手渡そうとした優しい先生の右手は止まり、突然音量狂い叫んだ生徒にびくりと眉間の皺を深めて驚く。
「そうかそういうことかよ委員長! 25と17つまり
「そうただしくは
「そっか、断然そっち! が、キュートだよな!」
「ちょっと待ておいナニがだ」
「ってことで黒野ちゃん先生! これ以上は
「うん、先生お疲れ様でした。……
「ちょっと待ておい! 沼津充瞳ィィィィ! 先生を相手に堂々とボケ倒すなァァァ!」
真似したナニかを招く左手のキャットポーズは絶妙な沈黙に恥じ、その手で宙にただただ置かれていたソーダを有難くかっぱらい女子生徒は一足早く先に進んでいた男子生徒を追いかけ駆けていった。
こうして無事ハッピースライムヤードをランチの合間に救いつつ、底無高校の授業もほぼちゃんとフタリ無事に出席を果たした。
▼▼▼
▽▽▽
そしてまた放課後。
このところお疲れの委員長とはいつもより少し遅い時刻の帰り道を途中までともにし別れ、今日は俺は独り石盤からハッピースライムヤードへと出向き。
珍しくテキシューのない合間にそろそろ本格的に調べはじめた……ハッピーなコイツらの事を。
本格的調査開始、そして、ハッピースライム消防団に自ら志願し勝手に所属するその中でも優秀な者はこの四人だと住人への聞き取り調査の末に判明した。
言うとするならばスライム四天王。全員肌粘液の色は青でも造形は違うので人間と同じく判別はつくが。
外はねショートカットはスラショー。
アフロはスラァフ。
何故かピンクの眼帯をしている彼女は眼帯ム。
周りより少しぽっちゃりはポチャイム。
と、ちゃんと本人たちに許可を取りあだ名を付けさせてもらった。どうやらコイツらは日ごとに呼び名が変わってしまいそれをハッピーにも気にせずにいたようだ……。
とにかく先ずは点呼しやすいあだ名をつけることに成功した。
▽タコイカ学習帳
スラショー:
出力■■
電量■
クル■■■■
スラァフ:
出力■
電量■
クル■■■■■
眼帯ム:
出力■■
電量■■
クル■■■■
ポチャイム:
出力■
電量■■
クル■■■■
▽
ついでに俺の超能力を使い調べたコイツら4人の能力はこの通りであり、これ以上の詳しい事は追ってまた記載するとする。
ボールペンを走らせたタコイカ学習帳は閉じられ、物欲しそうにしていたスライム王女へとなんとなく手渡した。
充瞳は湖に隠したカプセルドックからキマイラへと乗り込み現在ハッピースライムヤードを調査中に訪れた突然のテキシューに対して戦闘区域へと向かう途中。
そして今日はいつもと一味も二味も状況が違っている────頭部コックピットにはぞろぞろと1人と4粘液体。わちゃわちゃと騒がしい青に囲まれたリーダーは彼女らへと早速それ以上のボリュームでハッキリと聞き取りやすい指示を下した。
「よしじゃあ王女はいつも通り右腕、スラショーは左腕、スラァフは右脚、ポチャイムはボディにとりあえず移動だ!!!」
「いつも通りハピスケはーーい」
返事をした王女はそそくさと右腕コックピットへと瞬間移動し消えた。
……だが、ちょんちょんと前を向いていた充の頬をつつくその青いひんやりに。
「ひゃっ!? ど、どうした移動だぞパパッと! ほらほらもうすぐ鉢合うぞッ遊んでないでいったいった!」
払い除けるようなその男の仕草にスライムたちは黙り各々可愛らしいポーズできょとんと────。
「──移動ってしょっとどうやるの?」
「わかんないあふあふ」
「ふぬぬぬぬ──ふんばりぽちゃってる」
「どうや……ええっ!?」
移動するために踏ん張り頑張り始めたスライム娘たちだがなかなか叶わず……。
そうこう噛み合っていないやり取りをしている間にも事態は進み────
天に舞う1匹のトリへと滅茶苦茶に青い閃光が咲き乱れる。
その乱射行為を目撃してしまい、唖然とおおきく開いていった充瞳の口は。
「ちょっと待てええ無駄弾を撃つなァァァ」
『すすすすひょーーーー! ん? だってだってよーく狙ってぇ──あんま見えなァァい? すすすすひょーーーー!』
通信ビジョンでチワワスナイパーに乗る眼帯ムを叱責したが、その無邪気な表情の射撃は鳴り止まず。
「があああとにかく弾の無駄だ撃つな撃つな一旦落ち着いて止まれええええ! ちきしょー眼帯キャラを老練なスナイパーと決めつけた思考停止の俺が馬鹿だったァァァそりゃ片目じゃアンマ見えないんだソーダァァ」
思慮の足りなかった大きな失策に、思わずデコをパチンと鳴るほどに抑えてしまう。
「──ひゃっ!? いてててひゃっやめろお前ら寄るな全身筋肉痛なっななにゃソコはにゃひゃーーーー」
踏ん張り飽きたスライム3人娘は纏わりつきハッピーな悪戯を学生パイロットへと仕掛けた。
ひんやり冷たい……イケナイゾーンへのまさぐりにあまり出したことのない高い声で絶叫。
皆で笑い声を上げふざけていても状況は終わらない────テキシューはまだ終わっていない。
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