8school
黒髪は八二に分け。
強気の白いおデコが露わに、
黒縁眼鏡をカチリと右端のフレームを持ち正し──遅れて教室へと息を乱しながら駆け込んできた男女2人を、1時限目を担当する数学女教師は教壇に堂々と立ち睨む。
「迷子の猫をフタリで探してたダァ?」
「いやー、それはそれはクロネコでぇ」
「それはそれはナニネコかはどうでもいいっ、おまえら髪ボサボサだぞ? そんなに必死で草っ葉を御大層につけてまで。──はぁ、キャッキャと座れ」
生徒2人の髪についた葉っぱの緑を指差し、身だしなみを整え席へと座るように訝しみながらも最後はため息にて促した。
それを今気づいたかのように男子学生は取り払い臙脂ブレザーのポッケにゴミを収めながら──
「……キャッキャト? あ、猫だけに! 先生ってぇはは、メガネなのにおもしろいっすね!」
「……」
「ッちょっと言っただけだくすり軽く流すものをそんなに真面目に拾うナァ! あと3秒で遅刻にするぞ充瞳座れええええ! しかもメガネなのにってかるく失礼な言葉を慎めええええ!」
「は、ハイッ!!! って3秒!? うおおおお」
先生の怒号にくすりと巻き起こるB組の騒めき。
何はともあれ作戦成功……左右に分かれて急ぎ席へと着く──男女はお互い一度目を合わせる。
向けられた熱い視線に軽く頷いた委員長、沼津縫栄。
葉っぱを散らし急ぎながらも笑った副委員長、充瞳。
1時限目の授業に5分遅れで間に合った。
▼
▽
時刻は実りある授業を4つ消化し早くも昼休憩。
ギリギリ滑り込みセーフでスタートした底無高校1年B組に属する2人の似たような1日。
消化しきれていない山々を話すため、充瞳は委員長の席後ろを借り、これまでのお礼も兼ねて購買部でパパッと人数分買ってきた大人気売り切れ御免のクリームパン4つその他の惣菜パンを手持ちランチをシェアし、机を合体させ共にする。
「────先生は猫好きだから」
「そりゃぁ……キャッキャト許すな! 猫好きってネコ様に逆らえないらしいしな」
「そうね」
「にしてもなんか久々にまともに学校に来れたぜ! 最近ずっとハッピーな方のセカイにいたから……むしろこっちがハッピーでクリームパン? はむっと、うまっ!」
「……これがフツウだとおもう。うん、美味しいクリームパン」
「だよなぁ、うまいっ!」
品数限定クリームパンは美味い。
男子学生はぺろっと平らげ二つ目に手を掛けようとしたその時。
『テキシューーーー』
脳内にソコナシの元気が響き渡る。
口内にのこる甘みが何故かフルーツサンドの味を想起させていく。
「……なぁテキシューと午後の授業どっちにする?」
「きみは何を言っているの?」
委員長は口元べたつく副委員長に青いハンカチをそっと手渡した。
▼▼▼
▽▽▽
「うおおおお」
いつもの様に青網に捕らえて引き寄せ殴りつけた赤ハリネズミは、遠方に逃げていた緑ハリネズミにぶつかって爆散。
「っし、2枚焼きィィィ」
「ダブルハッピーラッキー!」
「充瞳にラッキーはないぜ狙ったんだよ王女さん!」
鬱蒼の森から伸びた青い閃光はプテラノドンを撃つ。
彼女にはこのチワワの操作はもはや小慣れたもの。シンプルに空と陸の敵の役割分担をし、見慣れた敵を危なげなく殲滅していく。
見事な連携とまではいかないがこの2機で安定した連携をすれば針鼠とプテラノドンの編隊相手には容易いものであり、
「ってなんだこのカエル! とりあえず王女ヤルゾ!」
「ハピスケおっけーぇ【電磁スライムウィップ】」
キマイラは紫のターゲットへと接近。伸びて捕らえようとした青鞭を──逞しい後脚で紫カエルは跳躍。
反応素早く青鞭は避けられてしまった。
「はやい!?」
「ぐおおおお」
手持ち担ぐ四角いお玉杓子ロケットランチャーパックを地に乱れ撃ち、慌てて防御姿勢に移ったキマイラを黒いミサイルの雨で染め上げていく。
爆炎明けて、更に舞い降りて伸びる紫蛙の左ストレートの追撃がキマイラの顔面へと突き刺さった。
赤い猿顔に貰った直撃に揺れ動くコックピットグリッドで踏ん張りながら充瞳は堪えた。
「チクショーカエルがロケランに接近戦もヤル気かよ!」
「痛たたたたもうっハピスケしっかりィィィ」
「初対面だから死んでないだけ許せよっ! よし、ナラしっかり気合を入れ直してもう一度だ王女!」
「またまた? おけおけハピハピ!」
またも繰り出したウィップを避けた蛙。
さっきと同じように跳躍しながら攻撃後のキマイラへと可笑しな軌道を描くお玉杓子ロケットランチャーを飛ばそうと────
その時、青い閃光の連射がその四角い発射口を撃ち抜く。
お玉杓子の狭い棲家は爆散し予期せぬ遠距離射撃を貰ったカエルは宙では反応出来ず姿勢を崩した。
「チワワァァァ絶妙に欲しいヤツゥゥゥ」
チャンス到来、再度放ったうねる青鞭は堕ちていく紫蛙の太脚をしっかりと捕らえた。
ぐるぐると青く縛りそのまま背負い投げるように引っ張り蛙の居た逆側の地へと強烈に叩きつける。
手痛いダウンを奪ったキマイラは大地を揺らし疾る。
そこから跳躍し繰り出す大地粉砕の【ソコナシニーハッピージャンピングニープレス】。
強烈な右膝の重みは白い腹にめり込み、キマイラはさっとバックステップ。
紅い瞳の見つめる先、ETケロットランチャーはあえなく広大な野に爆散した。
「跳躍力とお洒落なミサイルに機動力だけだな、蛙の腹はやわいぜ!」
「カエルのはっらはぁやっわっい~」
「ははははなんだその歌」
「「カエルのはっらはぁや」」
『カエルの歌より午後の授業、急いで』
勝利後のゆるい時間に流れた可笑しな歌は歌わせず、割り込んだ通信ビジョンの臙脂色ブレザーの女性パイロットは次の行動を彼に指示した。
そのクールな応対をした女性の整った顔を見て、新敵を討ち取ったハイテンションから目覚めた男子学生は──目を何度か擦りパッと紅く見開いた。
「そうだったァァ学生パイロットなんて……めだかの学校かよ!」
「めだかのガッコー? なにそれなにそれ?」
「そういや……しらねぇ! なんでめだかが学校なんだよははははは!」
『……schoolは群れよ、急ぎましょう』
「うおお? ──なァる! ソコナシに理解ったぜェェ!!!」
「すすすすす? すくる? え、どゆことどゆことイーンチョウハピスケェェ────」
▼▼▼
▽▽▽
群れからはぐれた2匹がたどり着いたのはschool、つまり彼らの属する底無高校……の広いグラウンド。
本日の6限目体育の授業はシンプルな持久走。もうクラスの皆が汗を輝かせ走り終えて撤収していた頃に。
白ジャージ黒眼鏡のふたつのレンズの前に映る、白基調臙脂色袖のお揃い体操着を着ているフタリ。
いつ見ても髪乱れる男子学生は、膝付く息を荒げてそのギラリとレンズとデコ光る女の顔を見上げた。
「委員長副委員長またお前らか大遅刻だぞ、なにをやっていた」
「ええ、またネコメガネぇ!?」
「誰がデコメガネだ!!! お前の担任だぞおお!」
「ええええデコ言ってない断じてデコじゃないネコネコネコ!!! えっとえっとおおそうだ黒野ら」
「デコデコうるさァァァい黙れ! 今更何しに来た!」
「「走りに」」
「ッ──はぁ……また猫でも探していたなんて言わないだろうな」
「「ァ」」
「ッ……よし、よぉしいいだろう。グラウンド30周だ!」
「ええ!? それ何キロ!?」
「たしか一周500だから15キロね」
「15キロ!? それ長くねぇ委員長!? てかそもそも一周500って嘘だろ設計ミスダロ? 黒野先生こんなのソコナシにきついっすよ!」
「……しらん。25周だ」
「いやいや! 知ってて! ってあんま減ってねぇ! ──あ、
「ッ──いちいち私の小ボケを読み上げるナァ! きっかり25行ってこーーい!」
黒野先生は持っていた長い竹刀をバチンといい音を立ててグラウンドを打つ。その音と怒声を合図に同じ方向へとフタリはその場から散っていった。
「ははははは、無茶苦茶だろォォ!」
「無茶でも25周やるしかないわ充瞳くん、昼に現れるプテラノドンの編隊より無茶とは言えないわ」
「……だよなぁ! プテラノドンうおおおお────」
ハッピースライムヤードの敵を殲滅した後は黒い石盤のある充瞳宅から学校へと再出撃──。
そんな事情など他人は知らない、説明するわけにもいかない。
一周500mのグラウンドを25周、大忙しの底無高校1年生B組充瞳と沼津縫栄は数多の足跡の残る土色を蹴り並走していく。
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