7愛してる

シャキッと美味い回鍋肉をご馳走になった後、沼津委員長は自分の家へと帰っていった。


が、俺はとりあえず夜も遅いのでというありきたりな理由で彼女を送っていった。



時刻は21時過ぎ、街灯ぽつぽつと頼り気に路を照らし出した道中。


カラカラと乗り物は勢いにノリ、風が黒を靡かせ風呂上がりの匂いをはこんでいく──背越しの学生男女の会話が弾んでいく。


「そういや武闘大会って例えばどんな感じのッ」


「チャンバラ」


「ほぉ?」


「インクガン」


「インクガン?」


「薙刀」


「ナギナタぁ!!」


「ようはほぼ何でもあり、らしい」


「え、え? 何でもなにが!? それオオマジィィ?」


「大まじ」







並び立つ家明かりの路地途中で2人乗りの合体を解除。後ろの荷台からひょいと降りた長身の臙脂色ブレザー。


鞄を両手まえに、一礼はせず礼を言葉にし述べた。


「送ってくれてありがとう、道中……暇せず助かったわ」


まさか貰ったちゃんとしたお礼の言葉に充は少し驚き、どうしたものかと頭をかきながら笑った。


「そ、そうか? ははははそれは良かった。……じゃ明日はおくれず学校でな委員長沼津さん!」


そそくさと車輪の方向を転換し、白い自転車に乗ったオレンジジャケットの背が元気な言葉をノコし吹き抜けていった。



「それ……きっと、わたしのセリフ」



小さくなっていく鮮烈なオレンジを見送り────すこし靡くグレーのスカートのかゆく痺れる後ろをほぐしていた。




▼▼▼

▽▽▽




いつものように、少しルンルンとしっかりと歯だけは磨き、


今日こそしっかり寝て明日の学校にちゃんと来ようとしたものの、テキシューがひどい。


『テキシューだよテキシュー』


『ハピスケテキシューテキシューハリネズミィィィィあはははは』


「この毎日ソコヌケにまじかよっ……!」


『テッキシューーーー』


頭をぼさぼさとかいても鳴り止まない脳内に流れる108パターンはある元気なテキシューのアラートに、学生は深夜1時の早起きを。



布団の上で行う一瞬の準備体操──背伸びは欠伸と同時に。


みずいろのパジャマの上ボタンを2つ外して意味の薄い気合いを入れた。





「てことでイインチョウ敵襲だよ敵襲!」


『……きみはナニを言ってるの?』


「だからッ──ハッピースライムヤードに王女からのテキシューだァァ鍵開けてるから大至急たのんまァァァ!!! B組委員長おーーーーっす!!!」


『おーす……』



終始ドタドタと携帯電話ごしの大声、長く太く押忍と叫んで通話は終了した。




▼▼▼

▽▽▽




ミドリ発光石盤の先へと呑まれていったパジャマ姿の戦士充瞳は────



「おらああああああ!!!」


「俺の目覚ましは一生飼う予定もないハリネズミのテキシューじゃねぇ!!!」


寝起きの出力全開ソコナシハッピー左ストレートを浴びた赤針鼠は野を疾走しカラフルに散った。



「げぇ、またプテラノドンそれしかレパートリーはねぇのかよ! ってしまったまた飛び道具のハリネズミを無駄にしちまった」


「ドンマイドンマイこういうときはドンマイハッピース!」


「そうそうドンマイはこの世界でも何故か通用するぜええええドンマイハッピース!」


「あはははドンマイ電磁スライムウィップゥゥゥ」


「よし切り離せ!!!」


「ハッピりあいあい!!!」


鞭から伸びた網を、青線から広がる先だけ切り離すように。


勢いよく飛んだ電磁ネットは隣接して飛んでいた2体のプテラノドンに向かい、宙の網にかける事に成功した。

充瞳とスライム王女とで考え抜き、依然より扱い方が上手くなり芸の増えた電磁スライムウィップ。


「おおおおタコイカ学習帳おおおお」


「タコイカタコイカァァびりびりィィ」


「よしやれええええ」


ビリビリと電量を解放し野に堕ちた2体のトリは鮮やかに遠隔爆散。


電磁スライムウィップの対空応用編は充瞳とスライム王女2人で練り上げたプラン通りにいき──当然飛び出したダブルギンガハッピース!!


通信ビジョン越しにソコヌケに明るくニヤリと成果を分かち合う。


だが見えている分にもまだまだ敵は殲滅し切れていない、お互い前に向き直り気合いを入れ直したそのコックピット内の視野広いモニター景色に────青い閃光が2連射、ちいさく映るオオトリを3体撃ち抜いていった。


突然送られてきた敵の配置を記した緑の3Dマップビジョンと夜空に透き通るその女性の声。


『プテラノドン17来てるよ』


「ってうおおおお委員長きてるうううう愛してるうううう」


『……今はおそらく愛よりプテラノドン』


「え……は! ごめんッナニ言ってんだ俺はァ……!」


「ハピスケハピスケッわたすの愛してはァ?」


「はははははとりあえず愛より殴るッハリネズミィィィィ」


「あははははハッリネっずみィィ!!! って殴っちゃモッタイナイだよハピスケェェ」


「そだったァァァハピっと愛してるぜぇスライム王女ォォ」


「すすすすあはははわたすもおおお」


『……』


開きっぱなしの小うるさい通信ビジョンは一度閉じ、

無限を走れる黒と緑の不思議なグリッドコックピットの空間にて突っ立ちライフルの重みを構え極限の集中────


「トリガーシミュレーション……何度も引いたこのタイミングなら命中力100、ッ」



飛膜と腹と顎を3枚抜き。放った青い閃光の結果と残弾を確認しつつ、敵に見つからないようにタコイカ学習帳で暗記していた充瞳おすすめの次の狙撃ポイントへとベージュのパジャマ委員長操るチワワスナイパーは森を移動した。




赤い雷撃が疾る。


キマイラは装甲にぶつかったそれを赤飛沫に変え弾き、肉を撃たせて引き付けたトリを、


「デカブツキマイラは早々オチるかよっ──てなァ!」


ジャンプ&電磁スライムウィップをターゲットへとビッと鋭く。鞭の細かい操作は王女に任せてぐるぐると長いその顎に巻き付けて捕らえた。


重い二脚が森に落ち、背後にぐっと引っ張り堕ちた青線絡まる白いプテラノドンは衝撃で爆散。


マップビジョンに映っていたちょろちょろと飛ぶ最後の1匹を格好良く仕留め終えた。



「……一丁上がり! ってしまったうおお燃えてる」


「ダイジョブダイジョブハッピースライムショーボーダンにおまかせ! 西の森さんもがんばってそのうち治ってる!」


「そだったわ! ありがてぇ! って生きた西の森さんに見捨てられないよう一応手伝うぞ!」


『──生きた西の森……』



王城の大砲からドンドンッと撃ち放たれてきたハッピースライム消防団の粘液水放つ元気な消火活動と、生きた森はその迷宮のミドリの構造位置を変えて早々に延焼を防ぎ、西の森の平和は守られた。




▼▼▼

▽▽▽




ハッピースライムヤードのテキシューを見事殲滅後、3人は懸命に後始末に励み2人はまたまた開かれるという宴会を丁重に断った。程々の激戦で疲れた機体をカプセルドックにキッチリと戻して、例の短いマジナイを長く叫び戻ってきた元の世界────。



今は眩しいエメラルドの光さえ心地いい……異常な眠気を放つ充瞳のアタマはその後をはっきりとは覚えていない。


だれかとの言動おぼろげなままに霞むその瞳はネムリへと就いていた。




▼▼▼

▽▽▽




何故か鳴った使っていないはずの目覚まし時計のアラートに目を覚ます。


枕元にあった赤く四角くうるさいソレのドタマを叩き止め────



未だ寝足りない頭で起床した。





寝足りない分はしっかりと洗顔をし、しっかりと今日一日の活力を呼び覚まし。


洗面所からダイニングへと移動すると、パジャマ姿の彼女が目玉焼きを焼いていた。


そのベージュパジャマの背が、既におもむろに席へと着いた男のこちらへと移動。


大皿フルーツサンドの三角の横にそれはフライパンを鮮やかに滑り添えられた。


自分の皿にも器用に添え向かい席へと座ったそのパジャマ姿の沼津委員長。


「これってぇ夢かな?」


「……夢だったらここにいないわ」


「……だよな」


みずいろパジャマは目玉焼きをノールックのフォークで口に運び大口のひとくちにその円を食し、


ベージュパジャマはそれを唖然と見届けて白い三角の端っこをコーヒーで流し込んだ。





早い朝の会話はやはりハッピースライムヤードに関してから。


委員長はスライムたちを戦力にする案を思いつき提案をした。

それは充瞳が女王に提案してつくったハッピースライム消防団の優秀な一部をスライドし機体のパイロットにローテーション起用するという現実的なものであった。


その話を両腕を組みながらうんうんと納得したのか頷いた上ボタンを4つ開けたみずいろパジャマは、熟考の末に口を開いた。


「んーなんかさぁ……委員長のソレも俺の思いつかなかっためちゃくちゃ良い案!!! 理解るソコナシに分かるんだけどさぁ、あんなに無邪気で元気だからこそ一般スライムたちには強制してまではロボットで戦わせたくはないっ、てな!!!」


思いもしなかったまさかの斜め上の発言に──向かい席の委員長は半熟卵の味を口の中で広げながら静かに驚いた。


「……なるほど。思いもしなかったけど……」


何故か少し説得力をかんじ感心してしまった彼女だが────


ここでふと朝食を相席する女子学生に冷静にひとつ疑問が浮かぶ、先ずこの戦いにそれも深夜1時過ぎの放課後に巻き込まれている自分はいいのかと思った……が。


笑うそのみずいろパジャマの表情に浮かんだ疑問はくすりと消えてしまった。





午前7時45分。


会話の弾んだ新鮮で美味しい朝の朝食も済ませて──

そろそろ学校へと出撃の時間がやって来ていた。


みずいろパジャマの家主は、椅子を引いたベージュパジャマの長身を見て冷静にある疑問を浮かべてそのまま浮かべたままの事を口にした。


「委員長沼津さん? 思ったんだが、いや大変ありがたい朝とチワワスナイプの援護だったんだけどさ……制服」


「……? ……ア」





さわやかな青い朝に全力疾走、

みずいろズボンの臙脂色ブレザーの漕ぐ白い自転車はベージュパジャマの彼女をその背に乗せて路地を急ぐ。


「うおおおお委員長ソコヌケだぜええ、ははははは」


「────ふっ……」


彼女の家へと送り届け沼津委員長は1分足らずで可憐な臙脂色のアーマーパーツに換装。くろい鞄を手に持ち、待っていたその後ろ荷台へとへとダイナミックに乗り優雅に座る。


ふたたび発進した白い自転車は底無学校への道筋を全速力で飛ばしていった。


「委員長これ間に合うかァァァ」


「このペースならギリギリ5分遅れのセーフね」


「5分遅れええそれセーフの範囲かァ」


「迷子の猫を一緒に探していたって言えばセーフ、ここには委員長と副委員長がそろっているからきっと疑われないわ」


「まじソレどゆことォォ!? ははははならッ3分でソコナシにイクゾハッハーーーー!!!」



いつもよりぼさぼさ黒髪の2人乗り────あわただしい青春のカゼを切りこれもまた青春の1ページ。めくられていく新たな1ページ。


充瞳、沼津縫栄ぬまづぬえ、全力で3分遅れ予定の底無高校へと出撃。

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