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奏真とわたしは、友達に話をするとその友達が本当にため息をつくくらい馬鹿みたいにラブラブだった。まさに、恋は盲目状態。二人とも人生で初めてできた恋人で有頂天になっていたらしい。友達には「もうあんたの話はいいよ。お腹いっぱい」と途中で惚気話を遮られるほどだった。

奏真は、わたしから告白をしたにもかかわらず、思ったよりもわたしのことを好きになってくれていた。嬉しい誤算だった。交際を進めるにつれて二人の間では、炎が酸素を取り込んでどんどん燃え上がっていくみたいに愛が膨らんで、もはや結婚する以外にこの膨らんだ気持ちの置き所を見つけられなくなってしまっていた。

それなのに、どうしてあんなことになったんだろう。


奏真と付き合って2年が経とうとしていた。わたしはいつものように奏真とデートの約束をしていたので待ち合わせの駅で待っていたのだけれど、奏真はいつまで経っても現れない。待ち合わせの時間を間違えたかな、って奏真に送ったメッセージを確認してみたんだけど、ちゃんとこの時間だった。

寝坊でもしてるのかと電話をしてみたけど奏真は電話にも出なかった。やがて日が暮れて、もう待っているのも限界になってその場から立ち去ろうとしたところでメッセージが一通。


「別れよう」


ただそれだけの無機質な言葉がスマホの画面の中に浮かび上がった。


「え……?」


腹の底からぞわぞわと這い上がってくる拒絶感、絶望感、焦燥感……とにかくいろんな負の感情がわたしの胸を押しつぶして半狂乱状態になりながら奏真にメッセージを打った。でも、一度も返信が来ることもなく、一日が経ち、一週間が経ち、一ヶ月が経ち、一年が経った。その間に奏真の下宿先に行くというストーカーじみた行為をしたこともあったが、奏真はこうなることを見越してか引っ越してしまっていた。



その後のことは記憶がぼんやりとしていたあまり覚えていない。

気がつけばわたしは普通に就活をして東京で働くことが決まった。わたしが奏真との惚気話を聞かせていた友達は就活中に仲良くなった他大学の男の子と恋に落ち、付き合い始めた。


わたしは友達に呼ばれてそういう場に行っても、恋をする気にはなれなかった。奏真のことが好きだった。編集中の動画を好き勝手にカットするかのように突然千切られてしまったわたしの恋心が、都合よくなくなってくれることなんてなかったのだ。

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