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わたしが奏真の彼女だったとき、わたしは毎日ふわふわのお布団に包まれているような心地がしていた。夢心地、っていう言葉が正しいのかな。奏真のことが好きで好きでたまらなくて、毎日奏真と連絡を取り合えるだけで幸せで、連絡にかまけてご飯を食べ忘れたことだってある。一人暮らしの大学生だったから、ご飯を食べなくても誰に文句を言われることもなくって、そのせいか一時的に激痩せしてしまったんだっけ。「幸せ太りじゃなくて、幸せ痩せだな」って友達からからかわれた。わたしがへへへと笑っていると、友達は呆れたように羨ましい、とため息をついた。
わたしにとって、奏真は初めての彼氏だった。同郷で、高校も同じ。わたしは高2の時から気になっていたんだけど、奏真の方はわたしが声をかけるまで、わたしのことを知らなかった。はーあ、って残念に思ったけど、振り向いてくれただけでも良かったんだ。
奏真がスポーツ大会の日にサッカーで大活躍するのを見た時から、わたしはもう彼以外、何も見えなくなった。恋は盲目という言葉が、本当だったんだなって思い知る。母親が教育ママだったからなんとか志望の大学には合格したけど、そうじゃなかったらたぶん、大学受験すらしていなかったと思う。教科書なんかより、奏真が校庭で走る姿を追うことの方が、貴重な青春時代には必要だと思ったから。
在学中に何度か声をかけ、卒業と同時に告白をした。奏真は少し迷った後、「俺でよければ」と快く返事をしてくれた。その日から、わたしの世界は奏真の見る世界と一体化したんだ。
奏真の進学先の大学は、県内にあるわたしの大学とは違って隣の県の公立大学だったから、わたしたちはプチ遠距離恋愛ということになる。わたしも、実家から大学に通うには遠かったので、一人暮らしをすることになった。奏真ももちろん一人暮らし。わたしたちは休日になると街へ出かける感覚でお互いの家を行ったり来たりしていた。
「奏真、好き。大好き。わたしのこともっと好きになって」
「ああ、当たり前だろ。俺だって同じ気持ちだって」
甘い感情をぶつけ合いながら、下宿先の家のベッドで激しく抱き合った。わたしは本当は奏真から「好き」という言葉をちゃんと聞きたかったんだけど、奏真はあんまり「好き」を言わないタイプの人間だった。
少し不満に思っていたけれど、それでもわたしを愛してくれるなら些細な問題に過ぎなかった。奏真は「好き」は言わない人間だったけれど、酔っ払って身体を重ねた後は決まって「菜乃花と結婚する。いやしよう」と全身汗だくのぐちゃぐちゃの状態で迫ってきた。
「うん、絶対する。約束ね」
「ああ。任せろって。絶対幸せにするから」
「絶対ね。わたしも奏真のこと幸せにする」
「俺は絶対幸せになれる」
「絶対って何回言うのよ」
「それはお互い様だろ」
わたしの口を塞ぐように、再び奏真はわたしにキスをしてきた。わたしは負けじと奏真を感じようと奏真に抱きついた。どうしようもないくらい胸が締め付けられて、悲しくないのに涙が溢れてきた。今考えたらなんて贅沢なことをしていたんだろう。幸せの絶頂に泣いているなんて、悲しみのどん底に落ちたわたしからすれば贅沢以外の何ものでもなかった。
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