舞台は整った
「まったく、あの人に魔法の実力が無ければ真っ先にクビなんですけどね……」
親父の姿が見えなった後、俺を窮地から救ってくれた救世主は疲れた表情でため息混じりの愚痴をこぼした。
その言葉を聞くと、どうやら親父は普段から周りに迷惑をかけているようで。
そんな問題児の息子としては、王城中を謝って回るぐらいした方がいいのかもしれない。
「では私はこれで……、といきたいのですが。そこのお二方は、アルトさんのお仲間でしょうか? あの冒険者たちからの報告書には仲間の記述なんて一切なかったのですが」
俺が親父のことに考えを巡らせていると、叩けば埃しか出てこない二人にいきなり話の矛先を向けられた。
ここは俺がどうにかしなければ。
「……はい! ゴーレムの時は一緒じゃなかったんですけど、こいつらはちゃんと俺の仲間です!」
「そ、その通りです! わ、わ私たちは衛兵にさらわれたアルトさんを助けに――」
「ああああぁぁ! ちょっとハインツ、こいつを一回黙らせてくれ!」
あがり症のクラリスが不法侵入を自供し始め、俺は慌ててハインツに口封じを依頼。
一応すぐにハインツがひっぱたいて止めてくれたけど、今のは完全に……。
「なるほど。お二人はシルヴェスターさんによって
「……あれ? 怒らないんですか?」
「王城に忍び込むことは完全にアウトですが、アルトさんのお仲間でしたら何も言うことはありません。こんなひどい状況になったのは、シルヴェスター長官の暴走を止められなかった我々にも責任がありますから」
「よ、良かったぁ……」
俺はその言葉を聞いてほっと一息。二人も安心したように深く息を吐いた。
「では皆さんはここでお待ちを。もうすぐ私の部下がここに来るので、出口への案内は彼に任せます。ですので、ご安心を」
「あっ、あの! さっきは本当にありがとうございました。俺なんかのために、わざわざ
「いえ、私はただのメッセンジャーですから。そのお言葉はレーナ様に伝えておきます」
どうしてもお礼が言いたかったので無理やり呼び止めるような形になってしまったが、彼女はそんなことを気にとめる様子はなく、謙遜するような言葉だけを並べる。
俺はこの人にも少なくない恩を感じているが、それを返すのも遠慮されてしまいそうだ。
「まあ、レーナ様は法律の書き換えやシルヴェスター長官へのお説教に大忙しですので、すぐには伝えられないと思いますが」
すると、どうやって恩返しするべきかと考えていた時、俺がさんざん待ち望んでいた朗報が不意に聞こえてきた。
「……えっ? あの俺の名前が載った冒険者登録法も変えてくれるんですか?」
「えぇ、それはもちろん。そうしなければアルトさんに本当の自由はきませんから」
「じゃ、じゃあ親父が街中に配った俺を雇うなっていう脅迫状も……?」
「あ、あの人はそんなことまでしてたんですか……? それは私の方で対応しておきます。ですので、アルトさんは心配しなくても冒険者でも何でもなれますよ」
「……お、俺、ほんとに自由の身になるんだ……」
俺の名前が書かれたあの法律が変わり、街中に溢れかえった手配書が回収され、親父も俺を宮廷魔術師にすることを諦めたとなれば……。
「あっ、来ましたね。彼がさっき言った私の部下です。……じゃあ投獄じゃなくて、お見送りの方でよろしく!」
俺が感慨に浸っている間にも時間は過ぎていき、この王城を後にする時が来たようだ。
入り口の方には確かに執事服を着た男の人がいて、サンドラは彼に向かって指示を……、と、投獄?
クラリスとハインツは俺の仲間じゃなかったら牢屋行きだったってこと?
(…………怖っ!)
「あ、アルトさん? 行きましょうか……」
「お、おう……。そうだな」
クラリスに声をかけられて意識が現実へと引き戻される。
二人も投獄というワードを聞いて怖くなったのか、一刻も早くここから離れたいといった様子で、もうすでに出口に向けて歩き出していた。
「じゃあ俺も行きますけど、これだけ最後に聞かせてください。レーナ……様が、親父がいじった法律をすぐに戻さなかった理由は何ですか? それだけはずっと分からなくて」
「あぁ、そのことですか」
そう、この疑問だけは今この瞬間まで分からずじまいだった。
俺がゴーレム退治の功労者だからその恩を返す、という因果関係はまだ分かる。
だが、王女様が一度は親父の馬鹿げた方策に乗っかた理由なんて見当もつかない。
「うーん、その理由も
「これだけ……というと?」
「『ごめんね』と、レーナ様はそう最後に仰っていました。知らない仲ではないアルトさんなら、今はこれで十分ですよね?」
「じゅ、十分かな……? ……まあ、でも」
(レーナがごめんって言ってるなら、それでいっか)
「おーい、お前も早く来い! ただでさえ予定より遅れてるんだから、早く帰らないと団長が心配してしまうだろ!」
すると、もうすでに入り口のところにいたハインツから急かすような声が聞こえた。
ちょうど俺の中のモヤモヤが全部晴れたのと同時に。グッドタイミングだ。
「じゃあ俺はこれで。いろいろとありがとうございました」
「いえいえ。ではアルトさんもお達者で」
最後まで謙虚なサンドラさんの声を受け、俺は二人がいる方に歩き出した。
これで俺は正真正銘の自由の身で、この王城を後にすることができる。
だからこの先は、俺が本当にやりたいことをしよう。
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