暴露の後始末
「アルトさんアルトさん、それって言っちゃ駄目なやつじゃないんですか?」
「……駄目なやつに決まってるだろ。誰のせいでこんなことになったと思ってんだよ」
「おいアルト。それで結局、この若者たちはどこのどちらさんだ?」
「そ、そうだぞ。早く答えろ! 全く状況が掴めんぞ!」
「分かんねえのは勝手にどっか行ってたからだろ。まじで、なんでこのタイミングで戻ってきちゃうのかな……」
突然目の前に現われたシャルモーとフランカに、最悪の暴露をしてしまった直後。
俺は頭を抱えて、この取り返しのつかない惨状を嘆く。
団長とハインツはけろっと帰ってきたので、この先にもモンスターはいなかったのだろうが、そんな嬉しいニュースに喜ぶ余裕なんて今はない。
「アルト? そこの人たち抜きで、私とシャルモーと三人で話せるかしら?」
「……はい」
長い付き合いだから知っているが、フランカはこういう落ち着いた口調で喋ってる時が一番怖い。
その証拠に、隣にいるだけのシャルモーもフランカにびびって肩を震わせている。
「ちょっと俺あいつらと話してくるからさ、クラリスは団長たちに諸々の事情を説明しといてくれるか?」
「分かりました。ど、どうかご無事で。……じゃあ団長とハイちゃんは私と一緒にあっちの方に行きましょう」
何かを察したらしいクラリスからの祈念に軽く手を挙げて応じてから、俺は重い足取りで二人の方へと歩み寄る。
「ねえ、あんた正気? 自分が何言ってるのか分かってるの?」
「いや、分かってはいるんだけど……」
クラリスが団長とハインツを連れて離れていくなり、フランカの厳しい追及が始まった。
しかも、それは待ったなしで本題へと突入していく。
「それに一体何よ、世界征服って⁉ たかだか一週間ぐらい会わないうちに、なんでそんなことになっちゃうのよ⁉」
「まあフランカも落ち着いて。アルトもなにか考えがあってのことなんでしょ? ね?」
「……ほんとに話すと長くなっちゃうだけど」
それから俺は、宮廷魔術師試験があった日にフランカと別れてからのことを、包み隠さずに全て話した。
親父の妨害があって、何度面接を受けても一つも仕事にありつけなかったこと。
もう一度冒険者になろうとしてギルドで大恥をかいたこと。
そんな八方塞がりの状況の中、
二人は俺の話を聞きながら何度も驚いたような表情を見せたが、バファルッツは世界征服を目指すといってもその手段はあくまで平和的なもので犯罪をおかすような集団ではないことを伝えると、最後は納得まではいかなくとも理解はしてくれたようだった。
「俺がバファルッツにいる限り、あいつらには変なこと……はさせちゃうかもしれないけど、悪事だけは絶対させないから! だから頼む、見逃してくれ! ここは俺の夢を叶えるための最後の砦なんだよ!」
俺は最後にそうまくし立てると、頭を床につけて二人に懇願する。
「あ、アルト……」
友達相手に、余りにみっともない姿。
二人の答えを待つ時間が永遠にも感じられたが、その沈黙は唐突に破られた。
「あぁもう! そんなに必死になるくらいなら好きにすれば? 世間様に迷惑かけなきゃ、私たち冒険者が出張る必要なんてないわけだし」
「……えっ? ま、まじで? ほんとに?」
「ほんとも何も、嘘ついたってしょうがないでしょ」
長期戦を覚悟していた俺は予想外のあっけなさに驚きを隠せず、頭を上げてフランカの顔を見る。
俺と目は合わせてくれず、顔も渋いままだが、不思議とさっきまでの不機嫌さは感じられない。
「あれっ? フランカ意外とあっさり認めちゃうんだね?」
「なによ、あんたはアルトのこと衛兵にでも突き出そうっていうの?」
「いや、僕はもちろんアルトの夢を応援するよ! ただ、フランカはもっと反対すると思ってたから……」
「別に。さっき見た変な人たちが世界征服なんてできるとは到底思えないし、放っておいても大丈夫だって思っただけよ」
「フランカ? ちょっと、どこ行くの?」
「はぁ? 奥に進む以外に何があるってのよ?」
フランカは足を止めないまま、さらに続ける。
「まだゴーレムが大量発生した理由も、周辺からモンスターがいなくなってる理由も全く分かってないんだから、アルトなんかといつまでも話してる暇なんかないでしょ。さあ調査の続きよ!」
それが言い切られると同時に、フランカの後ろ姿は、奥の暗がりの方へと消えていった。
「……これで一件落着?」
「そういうことでいいんじゃない? ふふっ。それにしても、フランカはやっぱり素直じゃないなぁ」
「えっ?」
俺が立ち上がって膝の汚れを払っていると、なぜかにやけ顔のシャルモーから気になる言葉が聞こえてきた。
シャルモーはなぜかフランカにはついていかず、俺の横に居続けたままだ。
「これを言うとフランカは絶対怒るからこっそり教えるけど、フランカはアルトのことずーっと心配してたんだよ。僕も心配してたけど、それとは比べものにならないくらい」
「まじで……? ちなみに、比べものにならないってどれくらい?」
「それがね、仕事が終わって報酬をもらいにギルドに行くと、アルトがいないかきょろきょろ探すんだよ。ほら、ギルドって色んな仕事の募集があるからね。僕が『アルトを探してるの?』って聞くとはぐらかしちゃうんだけど」
「へぇー、それはなんか微笑ましいな」
「しかも、フランカってば何かと理由をつけて、アルトの家の前を通ろうとするんだよ。アルトが実家に戻ってないかを確認するために。どれも苦しい言い訳だったんだけど、『今からあそこで事件が起こる気がする』とか言ってあの閑静な住宅地に走って行った時は、さすがに僕も笑っちゃいそうだったな」
「あいつ……、まじでツンデレこじらせ過ぎだろ」
心配してくれるのはありがたいんだけど、そこまでされるとさすがに照れる。
(俺も今度なんかあったら、フランカとシャルモーにはちゃんとすぐに伝えないとな……)
「まあでも、なんだかんだ言って僕が一番喜んでるかも。アルトはもしかしたら、冒険者になるためにどっか他の国に行っちゃったんじゃないかって思ってたから」
「ば、ばか言うなよ! 俺が二人に何も言わずに外国になんか行くわけないだろ⁉」
(やっべえな。普通にそれ考えちゃってたわ)
「あっ、それで言うとフランカなんかは昨日……、うぐっ!」
「ちょっと! 全然来ないと思ったら……。余計なこと言うんじゃないわよ!」
突然戻ってきたフランカに頭をひっぱたかれ、シャルモーが
フランカはシャルモーの襟を掴むと、有無を言わさぬ鋭い目つきで俺を見てくる。
「じゃあ、これで本当にお別れだから。アルトもせいぜい行き倒れないようにしなさいよ」
「お、おう……。そっちも頑張れよ」
さっきの話をネタにからかってやろうかとも思っていたが、それをしてしまうと俺の身にも危険が及びそうなのでやめておく。
そうしてフランカがシャルモーを強制連行していく姿をびくびくしながら眺めていると、突然二人の歩みが止まった。
「そういえば、あんたがゴーレムを全部倒したって話だけど、その謝礼が欲しかったら週末にギルドの横にある酒場に来れば? 私たちは依頼された仕事が終わるとだいたいそこにいるから、ゴーレムを倒した分くらいはおごってあげてもいいわよ」
「……あっ、やっぱりフランカもアルトに会いた――」
「話はそれだけ。それじゃあ、また」
フランカはそれだけ言うと、今度こそダンジョンの奥へと進んでいき、やがて二人の姿が完全に見えなくなる。
さっき『ミシミシッ!』という何かが締め上げられるような音がしたが、あれがシャルモーの首から出たものではないことを祈るばかりだ。
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