汚名返上……?
「はじめまして。私はクラリス・ケルガーと申します。ところで、お二人は私とアルトさんがこのダンジョンにいる理由を知りたいんですよね?」
クラリスは挨拶もそこそこに、すぐに本題へと切り込む。
「ま、まあそうね。今はあなたとアルトの関係の方が気になってるけど」
(頼むぞクラリス。バファルッツには今のところ不満しかないけど、それでも俺が魔法を好きに使える貴重な職場であることには変わりはないんだ。ここはうまく切り抜けてくれよ)
でも、『適度に真実を混ぜた嘘』の『真実』って、一体どの部分を……。
「あっ、それは簡単です。アルトさんは私の手下です」
「て、手下⁉」
(あー、真実ってそれを言うんだ)
割と隠しておきたいことを真っ先に暴露され、二人の驚きに満ちた視線に苦笑いを返すことしかできない。
「それで、今日はここに私のペットを探しに来たんですよ。ほら、普通ダンジョンってモンスターの子がいっぱいいるじゃないですか?」
(何だ? こいつは無敵なのか? 今のところ『適度に真実を混ぜた』どころか、本当のことしか言ってないぞ)
「えっ、ペットって……、モンスターを飼おうとしてるの……?」
「はい! だってみんなかわいいじゃないですか!」
「あ、アルトがいかれた少女の手先に……」
俺の転落っぷりに呆然とするフランカ。
シャルモーもそんな怯えた目をするなよ。別に俺は怪しい金儲けとかに勧誘しないから。
「私たちはもう少しここをぶらぶらしたらすぐ帰るので、お二人は気にせず冒険者の任務に専念してください」
「専念とか言われても、今は私それどころじゃないくらいに動揺してるんですけど……」
「フランカ……、その気持ちは分かるけど頑張らないと。『この依頼は初めての指名だから絶対成功させる』って張り切ってたでしょ!」
「そ、そんなに大事な仕事だったんだ……」
(二人とも、まじでごめんな。そんな大一番の真っ最中に、こんな没落した状態で出てきちゃって)
俺は心の中で二人に全力で謝罪し、ぐっと涙をこらえる。
まあでも、この場に団長とハインツがいなかったのは不幸中の幸いだった。
ここにあの奇人とゴブリンがいたら、もっとひどい状況になっていただろう。
「おーいクラリス、アルト! 先の方までざっと見てきたが、特に宝らしい宝はなかったぞー! 本当にしょぼいのしかなかった!」
「バート様、落ち着いてください。足下が滑りやすいので、そんなに走ったりしたら怪我をしてしまいますよ」
(……最悪だ)
「おいなんで二人とも返事をしな……、うわっ、誰だ君らは⁉」
「ば、バート様は危険ですのでお下がりください! おい、お前らはうちの構成員と一体何をしている⁉」
考え得る限り最悪のタイミングで行方不明状態から戻ってきた団長とハインツは、俺の友人たちとの
もちろんその第一印象はというと。
「ふ、フランカ? ゴブリンがこのダンジョンにいるなんて情報なかったよね?」
「ま、まあ、とりあえず斬っとく?」
「おい、それはちょっと待ってやってくれ! こいつらも俺の、俺の……知り合いだから」
「はぁ⁉ さすがにこの変な見た目のおじさんとゴブリンとの関係が全く分からないんだけど! 本当にあんた、たかだか一週間の間にどんな交友関係築いてんのよ⁉」
「まったく、自分でも不思議だよ……」
一瞬フランカが背中にかけた大剣に手をかけて肝を冷やしたが、血なまぐさい展開になるのはどうにか回避できた。
ただ、そろそろ言い訳のしようがなくなってきたのも事実。
「ねえアルト、それならこの人たちは誰なの?」
「うっ……」
俺はシャルモーに至極まっとうな疑問をぶつけられて言葉に詰まる。
するとそこに助け船が……、
「あっ、それはアルトさんの親分である私から説明を」
訂正、するとそこには沈没必至の泥船がやって来た。
(おい。こっそり親指立ててニヤリ、じゃねえんだよ。なんか、『今度も私に任せてください』みたいな顔してるけど、お前に助けてもらったことはまだ一度もないからな)
そんな俺の心の声が届くはずもなく、クラリスは困惑を隠せないでいるシャルモーとフランカの方へと顔を向けた。
「この子たちは、今私が飼ってるペットで、こっちがゴブリンのハイちゃん、その隣がおじさんのバートくんです。今日は天気が良かったのでお散歩に連れてきたんですよ」
「なんなのこの子は⁉ モンスターに飽きたらず、成人男性まで飼育の対象なの⁉ あまりに常軌を逸してる!」
「アルト、僕たちと一緒に逃げよう! こんな子の下にいるのは絶対に間違ってるよ‼」
「あーごめん! 俺ほんとは世界征服を目指してる組織に入ってて、そこのおじさんが団長でゴブリンが副団長のハインツ。それでクラリスが兵長! 今日は入ったばかりの俺がどんな風に戦うのかを確認するためにここに来ただけで、さっきクラリスが言ってた倫理違反なことは全部嘘だから安心して‼」
言っちゃった! ぜーんぶ言っちゃった‼
あのままだと失うものがでかすぎて、洗いざらい話しちゃったよ!
……でも、自分で言いながら思ったけど。
「世界征服を目指すって、それのどこが安心できるのよ……」
ネジの外れた女の子の手下とバファルッツの下っ端、どっちも大差ねぇな!
「あっでも、ネジの外れた女の子の手下ってのも事実か」
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