言い訳シンキングタイム
「……はい、これでもう動けるんじゃない?」
「おっ、さすがはシャルモー。白魔法はずっと得意だったもんな」
「それはいいんだけどさ、アルトは呪いでも受けたの? 体の中が
「まあ、それに近いことはされたかも……」
俺の体が硬直して全く動けないことを伝えると、優しい友人たちは事情聴取を後回しにして俺の回復を優先してくれた。
ゆっくりと立ち上がりながら首や肩を回して体が元に戻ったかを確認したが、指の先までばっちりだ。
ちなみに例のモンスター寄せは、クラリスが恐る恐る近づいてきた二人から走って逃げていったので、今も俺が確保してポケットの中に隠している。
「あんたが服を着てたのは良かったけど……。体も動くようになったみたいだし、そろそろ説明してくれるわよね。接近禁止令が出てるほどの危険なラダンジョンで、あんたがあんな小さな子を連れて何をやってたのか」
「いやーその、正直その禁止令とかは知らなかったなぁ。で、あいつは……」
(どうしよう。さずがに、世界征服を目指す組織に入って今日は戦闘の演習でここに来た、なんて言えないからな)
とりあえず、良い感じの言い訳を思いつくまで話を逸らそう。
「で、でもそれなら、二人はなんでこんなとこにいるんだよ。そっちこそ何しにここに来たんだよ」
「はぁ、あんた何言ってんの? 私たちは冒険者として、依頼を受けてここに来たのよ。なぜかゴーレムが大量発生したから、一体残らず駆除した後にその理由を探ってくれって言って。まあ、ゴーレムは誰かに全部倒された後だったけど」
「あっ、それやったの俺」
「ちょっと! 私大量のゴーレムと戦うの楽しみにしてたのに何やってんのよ!」
「な、なんだよ、別に悪いことはしてないだろ」
戦闘狂のフランカに理不尽に怒鳴られてしまったが、あの俺の死闘が無駄にならずに済んだみたいで良かった。
二人は冒険者として依頼を受けたと言っていたし、報酬の何割かは俺がもらっても……。
(あれっ? 二人ってことは……?)
「おいシャルモー! お前いつの間に冒険者になったんだよ! お前は宮廷魔術師の試験を受けて……。あっ、そういやお前は落ちたんだったな」
「えっ、僕試験の結果なんてアルトに伝えてないよね? まあ実際落ちたんだけど」
「私が誘ったのよ。シャルモーったら合格発表の後、尋常じゃないくらい落ち込んでたから。私も最強とはいえ、回復要員は仲間にしといて損はないしね」
なるほど。言われてみれば確かに、圧倒的な攻撃力を誇るフランカと、魔法の知識が豊富で白魔法が使えるシャルモーは、冒険者として結構良いコンビなのかもしれない。
「ごめんなシャルモー。俺も最近バタバタしてて、合格発表の日とかすっかり忘れてた。せっかく試験があった日のうちに、励ましの言葉を考えてたってのに……」
「いいよ、そんなの気にしなくて……。えっ、今ちょっと聞き捨てならないことが聞こえたんだけど、なんで試験の日には僕が落ちる前提になって――」
「って、そんなことはどうだっていいのよ!」
突然声を張り上げたフランカは、眉間にしわを寄せながら俺とシャルモーの間に割って入る。
「なんかうまいこと話をはぐらかされたけど、冒険者にはなれないアルトが、とても冒険者には見えないあの子とここにいる理由は何なのよ⁉」
「あー、まあそうなるよね……」
フランカが少し怒り出してきたし、これ以上話を逸らすのは無理そうだ。
(でもまだダンジョンにいてもおかしくない仕事というか立場ってのを思いついていないし、もう正直に言うしか……)
「ひゅ、ひゅー! ひゅひゅひゅー!」
「……アルト? なんかあの子奇声を上げだしたけど、一体どうしちゃったの?」
「まじで何やってんだろ……? ちょっとあいつが正気かどうか確かめてくるから、少し待っててくれない?」
「はぁ……、それが終わったらちゃんと説明してもらうから、覚悟しておきなさいよ」
フランカの脅迫に近い言葉を背に受け、俺は遠くの柱の裏に隠れていたクラリスのもとへと駆け寄った。
「おい、お前大丈夫か? 二人が来たら逃げ出すし、そう思ったら急に変な声出して俺の友達を引かせるし」
「えっ、引いてたんですか⁉ 私はただアルトさんを呼びたかっただけなのに……」
クラリスは少し落ち込んだ表情を見せたが、すぐに切り替えて話を続ける。
「まあ、今はそんなことどうでもいいです。私はずっとここでアルトさんたちの話を聞いてたんですけど、お友達から激しい追及を受けてお困りのようですね」
「そ、そりゃあ困ってるけど、何? なんか良い言い訳でもあんの?」
「もちろんです! この場を切り抜ける完璧なアイデアがあるので、ここは是非、私に話をつけさせてください!」
クラリスはそう言うと、自信ありげに自分の薄い胸を叩いてみせる。
「でもクラリスって人見知りだろ? ちゃんと話せるのか?」
「大丈夫です。人見知りは自分が話せる人の友達相手なら、その話せる人が一緒に居る場だと結構饒舌にしゃべられるんですよ。なので安心してください!」
「うっ、その特殊能力に共感できてしまう自分が悔しい……」
全く自慢にならない人見知りあるあるを、誇るように語るクラリス。
実際俺たちみたいな人種は、その頼みの綱がトイレとかに行ってしまうと、びっくりするぐらいしゃべれなくなって気まずい沈黙に……。いや、これ以上考えるのはやめておこう。
「それじゃあ私に付いてきてください!」
「あっ、ちょっと待てって!」
俺が何度も経験した過去のトラウマに思いを
俺はすぐに追いかけて横に並ぶと、クラリスが言う『完璧なアイデア』とやらについて、足を止めないまま小声で尋ねる。
「おい、一体何を言うつもりなんだよ? ほんとに任せて大丈夫なんだろうな?」
「アルトさんは心配性ですね。いいですか? 『適度に真実を混ぜた嘘』ってのは、簡単には見破れないものなんですよ。だから安心してください」
「安心……はできないかな」
そんなことを言っているうちに。
「近くで見るとめちゃくちゃかわいい……。こんな子がアルトと一緒にいるなんてありえないわ」
「僕が言うことじゃないかもしれないけど、まだアルトは若いんだし、そんな風なお金の使い方はしなくても……」
「おい、お前らが考えてることは丸っきり外れてるからな!」
いきなり失礼極まりない勘違いをしてきた友人たちの前まで戻ってきた。
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