異常に次ぐ異常
「この階には、どこにもいなかったよな?」
「ええ、おそらく。入れる部屋は全部確かめましたし、見落としはないと思います」
「じゃあ下に行ったってことか……。なんで戦えないくせに、勝手に進んで行くんだよ」
「とりあえず、私たちも下りて探しましょう」
「まじで、見つけたら説教してやる。団長とか副団長とか、肩書きは関係ないからな!」
地下一階の捜索を終えた俺たちは、例に漏れずぼろぼろな階段を下り、ダンジョンのさらに奥へと向かった。
ここがどこまで続いているのかは分からないが、そろそろ見つかってくれないと団長たちの無事も怪しくなってくる。
なんといっても、ここはダンジョンの地下深く。
どんな獰猛で恐ろしいモンスターがいてもおかしくない……はずなのだが。
「この階も全くの無音でモンスターの気配もなし。……どうなってんの?」
さっき地下一階で団長たちをくまなく探しても、コボルトの一匹すらいなかった時点でおかしいとは思っていたが、ここまで来てもモンスターが現われないのはちょっと異常だ。
今思い返せば、このダンジョンを囲む森林を歩いていた時も、モンスターどころか鳥の一匹も見た記憶はない。
このダンジョンになんとなく感じていた気持ち悪さが、だんだんと具体的なものになってきた。
「あのゴーレムたちが人間どころかモンスターの侵入まで防いでたとか? でもそれだと、周りの森にも生き物がいない説明にはならないし……」
モンスターがいないに超したことはないが、全くのゼロというのも逆に不気味だ。
ただ、今はそんな謎解きよりも団長たちを探す方が先決。
もっと奥に行けば、超ド級のがいる可能性も否定はできないのだから。
「音が全くしないから団長たちは多分この階にもいないけど、一応部屋の中も見ておくか。じゃあクラリス、ついて来て」
俺はまず一番手前にある部屋に入ろうとしてそこで、
「……あれ、どうした?」
クラリスが俯いたまま、さっき下りてきた階段の前で止まっていることに気づいた。
「…………ょ」
「えっ、何? 今なんて言ったの?」
「ほんっとにふざけてますよ! なんでこんなことになってるんですか⁉」
何を言ったのかを聞き返そうと近づいた瞬間、クラリスが急に大声を出し、俺は思わず後ずさる。
(ふざけてるって、一体何の話?)
俺に怒ってる……わけではなさそうだが。
地団駄を踏んで感情を爆発させているクラリスを見ながら、俺はどう話しかけようかと考えを巡らせた。
「……あぁ、団長たちが全然見つからないからか」
確かに、言いつけを破って勝手に奥へと進んでいったあいつらには、俺も『ふざけるな』と言ってやりたいし、クラリスが怒る気持ちは分かる。
「まあ、俺も団長たちには思うところはあるけど、今はぐっとこらえて探してやろうぜ。なんでかは知らないけど、ここのダンジョンはモンスターが全然いないから、探してる間に俺らが危ない目に遭う確率も少なそうだし。な?」
「……そう、そこなんですよ。私が全くもって納得できないのは」
クラリスは顔を上げると、なぜかその目は半泣きになっていた。
そして、何かを訴えかけるような視線を俺の方に向け、
「なんでこのダンジョンにはモンスターがいないんですか⁉ 期待外れにも程があるでしょう!」
「……はい?」
到底理解できないようなことを、至って真剣な顔で言い放った。
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