猪突猛進
その質問が出た瞬間、戦闘力に自信があると豪語していた団長とハインツは、二人して俺から目を逸らす。
そして、戦う気概だけは持っていたクラリスはというと。
「はい、多分そうですよ。私が入団する前に団長、『うちは戦闘力が皆無だ』とか言ってましたから。その後入った私も、魔法は支援系のものしか使えませんし」
あっさりと自分は戦闘要員ではないことを白状した。
「じゃあ、なんでそのこと先に俺に教えてくれなかったんだよ? 団長たちがワタシらは戦えるぞーみたいなこと言ってた時、クラリスも聞いてたろ」
「あぁ。多分私その時、どうやって兵長の座を手に入れようかとずっと考えてたので、あんまり話を聞いてませんでした」
「……まあ、クラリスはそんなことだろうと思ってたけど、問題はそっちの二人だよ」
俺は一呼吸置いてから、実力者を自称していた嘘つき二人の方に目をやる。
「もう嘘はこりごりだから、本当のことだけ話してくれよ」
「えっと、そうだな……」
俺の言葉を受け、団長とハインツは互いに顔を見合わせる。
するとすぐに、二人は観念したようにため息をついた。
「確かに、さっきは見栄を張って腕が立つなどと、少し話を盛ってしまったな。本来のワタシの役割は作戦立案と指示出しだけだ……」
「我もバート様の話に合わせる為に、偽計を図ったことは認めよう。我のバファルッツでの仕事は戦闘ではなく、経理が主だからな」
「まったく、見栄って子供じゃねえんだから……。えっ、ハインツって経理なの⁉」
「そうだが、そんなに驚くようなことか?」
「いや驚くだろ! 自分がゴブリンだってこと忘れてんのか⁉」
二人に対してさらなる追及をしようとしたが、それは新たに出てきたハインツの意外な一面によって邪魔された。
来客に茶を出し、金庫番を任されるゴブリンなんて俺は聞いたことがない。
恐らくだが、俺はこのゴブリンに社会性で負けていると思う。
「まあ、このことはワタシも水に流したことだし、これでひとまず解決だな」
「そうですね。気持ちを切り替えて、今からのダンジョン探索を全員で成功させましょう」
「よし! さっきはゴーレムに邪魔されたが、今度こそ中に乗り込むぞ!」
「参りましょう! バファルッツの輝かしい未来の為に!」
「いや、ちょっと待たんかい!」
勝手に話しを終わらせてダンジョンに突っ込もうとする二人に、俺は待ったをかける。
しかも、今度はかなり切実な理由で。
「俺がまだ許してないことを、権限の無いやつが勝手に水に流すなよ! それに、俺がどんな風に戦うかはもうみんな見たんだし、もうダンジョンに入る意味なんてないだろ。この遠征の目的は連携確認って話だったろ? まあ、連携もくそもなかったけど」
「おいおい、せっかくバファルッツが新たな一歩を踏み出そうとしてるのに、そんな冷めたこと言ってくれるなよ」
「まったく、これだから最近の若者は……」
「ほんと、団長たちの言う通りですよ。うだうだ言ってないで、さっさと中に入りますよ」
「えっ、なんで俺が悪いみたいな雰囲気になってるの? あとクラリスはいつのまにそっち側に行ったんだよ⁉」
突然嘘つき側に寝返ったクラリスは、一緒になって俺を空気が読めない奴扱いしてくる。
女子のそういうのは本当に効くから、勘弁して欲しい。
「だって、この奥にはモ……、財宝があるかもしれないんですよ。アルトさんも臨時収入は欲しいですよね?」
「そ、そりゃあ欲しいと言えば欲しいけど、俺もう戦えないんだって!」
「さっき言いましたよね、私は支援魔法の使い手だと。アルトさんの魔力も、私がちゃちゃっと回復できるので、安心してください」
「えぇ……、なんかさっきのことで、その言葉をどこまで信じていいのか分から――」
「万事解決! それではバファルッツ一同突入!」
「「おお!」」
「あっ、ちょっ! ……行っちゃったよ」
今度は俺が止める前に、三人揃ってダンジョン入り口に向けて走って行ってしまった。
結局、クラリスがどれくらい魔法を使えるのか分からないままに。
「ゴーレムは全部始末したとはいえ、中にモンスターはいるよなあ。俺がこのまま見捨てた場合、あの三人が生き残れる確率は……。あぁもう!」
三人揃ってモンスターの餌食という最悪の結末が頭に浮かんだ瞬間、俺は先にダンジョンに入っていった三人の後を追って走り出していた。
クラリスの魔法の実力次第で、モンスターの餌が増えるだけになってしまうが。
「こんな変な組織に入ったのは絶対失敗だったわ! ちくしょう‼」
ゴーレムの残骸が残る階段を駆け上がりながら、俺は魂の叫びを上げる。
――秘密結社バファルッツ、メビフラダンジョンに潜入開始。
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