話ちがくない?
「もう最悪……。早く帰りたい」
辺り一面がゴーレムの残骸で埋まった地獄絵図。
その中心で俺は、魔力も体力もすっかり切らして仰向けに横たわっていた。
「お疲れ様ですアルトさん。さすが、すごい活躍でしたね!」
すると、屈託のない無邪気な笑みを浮かべたクラリスが、憔悴しきった俺の顔を上からのぞき込んでくる。
俺がこんな状態になっても放置していたくせに、よくそんな暢気なことが言えるな。
と、心の中で毒づいてしまうが、これが心の中で済むのだから女の子はずるい。
怒りが表に出てくる前に、『笑うとえくぼが出るんだ、かわいいな』とか思ってしまうのだから。
もし今のを団長みたいな顔にしわとシミがある白髪のおっさんから言われていたら、多分手が出ていたと思う。
「アルト、よく頑張ったな! それでこそワタシが認めた戦闘りょ……お、おい! なんで急に掴みかかってくるんだ⁉ ワタシは褒めてるんだぞ⁉」
「何をやってるんだ新入り! バート様に対して失敬だぞ!」
嫌な想像が信じられない速度で現実化し、俺は考えるより先に体が動いていた。
突然クラリスと取って代わって視界に入ってきた団長に対し、溜まりに溜まった鬱憤を思いっきりぶつけたが、すぐに間に入ったハインツによって引き離される。
「どうしたアルト⁉ 初めての実戦で大勝利を飾ったってのに、なんでそんな不機嫌そうな顔をしてる? しかも急に暴れ出すし……。もしかして、まだ戦い足りなかったのか?」
「なるほど、そういうことか。まあ、バート様の労いをあんな乱暴に振り払うのはいただけんが、戦闘員ならそれくらい血の気が多い方がいいとも言えるな」
「そうそう、だからさっさと俺の前に敵を連れてこい……って、んなわけあるかぁ‼」
的外れなことを抜かす二人への怒りのおかげで、気力だけは復活。
勢いよく立ち上がった俺は、さっきのゴーレム戦での不満をぶちまける。
「こんな状態でこれ以上戦えるわけないだろ! もう魔力もすっからかんだわ! ていうか、二人ともしれっと俺んとこに来たけどさ、俺が苦しくなったら助けにくるって話はどこにいったわけ⁉ 最初っから最後まで森のとこに隠れやがって、俺が百体ぐらいのゴーレムに囲まれてたときどう思ってた⁉ 団長!」
「えっ、普通に大変そうだなと」
「他人事かよ! で、ハインツは⁉」
「『ふっ、お手並み拝見とさせてもらおうか、新入り』と、思うどころか声に出して言っていたが?」
「なんで木の後ろに隠れながらそんな偉そうなことが言えんだよ⁉ その台詞は強キャラにしか許されないやつだろ!」
確かに、二人が逃げ出したことが分かった時は、俺も『一人で戦えてラッキー』ぐらいは少し思っていた。そっちの方が自由に魔法を使えるし。
ただ、いくらなんでもゴーレムが正面の入り口だけじゃなく、建物横の壁が崩れたところから異常な数が出てくるようになってからは約束通り助けに来て欲しかった。
それまではウキウキでゴーレムをぶっ壊していた俺も、それ以降は楽しむ余裕なんて全くなくなったし、無数のゴーレムに四方を囲まれたときにはさすがに死を覚悟したものだ。
「アルトさんもそれくらいでいいじゃないですか。結局、みんな無事だったわけですし」
すると、横で話を聞いていたクラリスが、興奮する俺をなだめに入る。
確かに、ずっと安全圏にいた団長とはハインツは当然として、最前線でゴーレムたちとやり合っていた俺もこうして大きな怪我なく済んでいる。
だったらそれでいいじゃないか。
そう言われてしまえば、それも一理あるのかもしれない。
ただ俺がこうして生還できたのは、魔力体力の採算度外視でやった、捨て身の上位魔法連発のおかげだ。
その代償として体の中はずたずたのぼろぼろ。ちっとも無事じゃない。
それにクラリスはこの話に自分は関係ないと言わんばかりの優しい微笑みを浮かべているが、俺もクラリスに言いたいことが無いわけではない。
「あのさ、俺も『団長たちのとこに行ってもいい』とか言った手前、あんまり強くは出られないんだけど。ゴーレムが大量に出てきた時、クラリスも二人と一緒に傍観してたよな。俺がやばくなったら兵長として絶対助けるとか言ってたけど、あれはどうなったの?」
「えっ、あれぐらいならアルトさん一人でも問題ないかと思って……」
「いや厳しいなお前! 俺を殺そうとしてくる岩の塊に何重にも囲まれる状況が、問題ないわけないだろ!」
見た目の柔らかい雰囲気とは違って、本当に軍人みたいな考えを持つクラリス。
ゴブリンであるハインツを自分のペットのように扱ったり、兵長なんていう女の子に人気の職業ランキングがあったら堂々の圏外になりそうな仕事を自ら志願したりと、クラリスはクラリスで結構変わったところがある。
この子は割とまともな方だと今まで思っていたが、案外そうではないのかもしれない。
「……はぁ。じゃあ俺がゴーレムの群れの中に飲み込まれていくのを見殺しにした件については、いったん横に置いておく」
いろいろ考えているうちに毒気を抜かれた俺は、ここで話を変える。
「なんかさっきのこともあって、薄々そうなんじゃないかって思ってきたんだけど」
「ん? どうした、なんでも言ってくれていいぞ」
「バート様の言う通りだ。そういった戦いの中での気付きを得るのが、この遠征の目的なのだから、遠慮せずに話せよ」
俺が話を置いておくと言った途端に饒舌になる二人に軽くイラッときたが、今はそれよりも重要なことがある。
「もしかしてこのバファルッツでちゃんと戦えるのって俺だけ?」
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