レッツゴーダンジョン!

 ダンジョン。


 それは荒廃した古城や遺跡の地下深く。モンスターやアンデッドの住処となった大迷宮。

 その奥には、かつての主が残していった財宝が隠されていることも多くあり、ダンジョンはトレジャーハンターの仕事場でもある。


 しかし、そこに活躍の場を求めるのは、なにも彼らに限った話ではない。

 冒険者も、ダンジョンに挑んでは華々しく活躍し、華々しく散っていくを繰り返す職業の一つだ。

 一攫千金を求め、トレジャーハンターと組んで活動する者もいるが、自らの冒険者としての技量を磨くことを目的とする者も多いと聞く。


 なにしろダンジョンに巣くうモンスターは、山や森に生息するものとは強さのレベルが桁違いだ。

 雨風をしのげることや、湿度が高い地下の環境がモンスターにとっては良いらしく、下層に行けば行くほど、生存競争に勝ち残った強いモンスターが現われるようになる。


 

 ――なので、ダンジョンに行けばそうした強敵との戦いは避けられないわけだが。


「ハインツ、こんなちゃんとした仕事が久しぶりすぎてなんだか楽しくなってきたぞ! アルトが入ってくれたおかげで、うちもようやくメビフラダンジョンに潜りにいける段階にまで来たし。あぁ、弁当でも持ってくれば良かったな!」

「バート様、今日はあくまで、新たな構成員との連携を確認し、強化することが目的ですので、そのことはお忘れなく。あと、弁当ならこちらに」

「おぉ! 気が利くな」


 この遠足気分丸出しの連中と一緒っていうのは、かなりまずい気がする。


 俺たちは今、団長が初心者パーティーにおすすめだと言っていた、メビフラダンジョンに向けての道中だ。

 王都を囲む城壁をくぐり、西に向かって歩き続けて三時間ほど。

 ぽつぽつとあった建物も今ではすっかり見なくなり、遠くに見えていた北の山脈も生い茂る木々によってその存在が隠されている。


 そう、俺たちは深い森の中へと入っていた。


「どうだ、アルト? 初めての組織での活動、そろそろ慣れてきた頃合いか?」

「まだ歩いてるだけですけど、だいぶ慣れてはきましたよ。王都の人たちが、ハインツのことをちょっと体調の悪い子供として認識してるのはかなり驚きましたけど」

「ははっ、驚くのも無理はない。ハインツは変装の名人だからな。背格好の似た子供くらいになら、帽子をかぶって仕草を少し幼くすれば、簡単に周りをだませるぞ」

「あぁ、だから周りに人がいるときは我をハイちゃんと呼べ。誰かみたいにアジトの中でまでは呼ばなくていいがな」


 俺にはハインツの変装後の姿なんて、今の変装を解いた状態とほぼ一緒に見えるのだが、それが普通に通用していたのだから本当に不思議でならない。


 街中では帽子被っていたとはいえ、肌が露出している部分は全て緑色。


 体調が悪いとかいう次元じゃないだろ!

 と思わずにはいられなかったが、実際その状態で街を歩いても何の騒ぎにもならなかったし、検問所ですら一切怪しまれなかったのだから、その変装スキルは認めるしかない。


 渾身の変装をあっさりと看破された経験を持つ俺としては、コツみたいなものを教えてもらいたいものだ。

 

「で、クラリスは大丈夫か? さっきから全然しゃべらないが」

「……はぁ。だんちょぉ、まだ着かないんですか? ちょっとここで休みましょうよ……」


 現在、ダンジョンの場所を知っている団長がハインツと並んで先導し、俺とクラリスがそれに続く形で森の中の道を進んでいる。


 ただ、少し前からクラリスの息が上がり始め、だんだんと団長たちとの距離が開いてきた。

 

「何言ってるんだ、ついさっき休憩したばかりだぞ。……あとちょっとで着くから、もう少し頑張ってくれー!」

「まったく。ただ歩いているだけだというのに。お前は貧弱すぎる!」

「えぇーー。私ほんとに限界寸前ですよ、もお……」


 休憩の提案を前を行く二人に却下され、クラリスが露骨にうなだれる。


「おい、大丈夫か? やっぱその荷物、俺が持とうか?」

「え? あっ、それは気持ちだけで十分というか……。実際、これ軽いんで!」

「そ、そう。……まあ、なんかあったら、すぐ言ってくれればいいから」

「あっ、ありがとうございます。じゃあちょっと私、気合い入れて頑張りますね!」


 クラリスはそう言って笑顔を見せると、さっきまでの様子が嘘のように、しっかりとした足取りで団長の方へと走っていった。

 なんか、俺にリュックを触られたくない感じだったけど、何が入っているんだろう?


 今までの道中でも、何度か疲れた様子を見せていたクラリスに、『そのリュック、代わりに持とうか?』と聞いてはみた。


 しかし、そのたびになんだかんだ理由をつけて断られている。

 クラリスは本当に疲れ切っていたし、会ったばかりの俺には任せられない貴重品か、他人には見せられないようなものでも入っているのだろうか。


「おーい、アルト! こっち来てみろ!」


 すると、遠くの方から団長の俺を呼ぶ声が聞こえてきた。


 俺が考え事をしているうちに、団長たちは結構先まで進んでいたらしい。

 こっちに向かって手を振る団長とクラリスの姿が小さく見える。

 それで、その横でもぞもぞ動いている点みたいなのが多分ハインツだろう。


 クラリスのリュックのことはいったん忘れ、俺は少し上り坂になっている道を急いで駆け上った。


「ふぅ……、遅れてすみません。それで、何かあったんですか?」

「いいから、とりあえずあれを見てみろ」

「えっ……、うわぁ、デカっ!」


 団長の指さす方を見てみると、その先には目を見張るほど大きな石造りの建物があった。


「あれが、悪魔メビフラが太古に建てたとされる忌まわしき霊殿の成り果て、メビフラダンジョンだ!」

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