WE WANT YOU

 ギルドの建物から慌てて飛び出した俺は、その勢いのままに、ギルドから離れることだけを目的に足を動かし続けた。

 そうしてしばらくがむしゃらに走っていると、気づけば周りは知らない景色に。辺りに人は少なく、建物の明かりもまばら。


 俺はそこでようやく落ち着きを取り戻し、すっかり用なしになった変装グッズ一式を、すぐ近くにあったゴミ箱に無言でたたき込んだ。

 上着や帽子は残してもいいかとも思ったが、嫌な思い出がついてしまったし、そして何よりダサい。


 これで俺のもとに残ったのは、空っぽになった財布だけだ。


「いよいよ、万策尽きた感があるな……」


 今日こそ絶対に冒険者になる。そんな意気込みを数分前まで持っていたことが嘘のように、俺は全身を無力感に包まれていた。


「冒険者にはなれなかったし、金も尽きた。それで金を稼ごうと思っても、親父の圧力のせいでどこも俺を雇わない」


 暗い気持ちがそうさせるのだろうか。そのまま何のあてもなく彷徨っていると、普段は避けて絶対に入らないような薄暗い裏路地に自然と足が向いてしまう。


「もう親父の言う通りになって、宮廷魔術師になるしかないのかな……」


 そうすれば金の心配はなくなるどころか、余裕のある生活ができるだろう。

 本当は宮廷魔術師なんて、全魔法使いが憧れる職業と言ってもいい花形の仕事だ。

 それだけを目指して努力を続ける魔法使いだって腐るほどいる。


 そんな中、親が宮廷魔術師の親玉で、自分が望めばいつでもその仕事に就ける俺の立場は、余りにも恵まれすぎているんだろう。

 ただ俺が目指す夢は、王城での書類仕事ではないのも事実だ。


 いよいよ、夢を追うか、あきらめるかを決めなければならない時が来てしまった。


「でも夢を追うなんて言っても、これ以上やることなんて……」


 そう言った瞬間、俺は足下に地面とは違う感触を得た。

 視線を落としてそれが何かを確認すると、チラシのようなものが靴の下にあった。どうやらそれを踏んでしまったらしい。


「こんなところに落ちてるぐらいだから、どうせしょうもないもんだろうな」


 そんなことを言いつつ、なんとなくそのチラシを拾い上げてみると、今の俺に最も刺さる言葉が目に飛び込んできた。


「『魔法使い募集、戦闘を含む危険な任務もあるため高スキルの者を求む』、か」


 これはまさしく俺が求めていたような内容だが、全体を見てみると、それが霞んでしまうような文言を見つけてしまった。


「『秘密結社バファルッツ。我々は平和的な世界征服を目指しており……』って、めちゃめちゃやばいところだった!」


 思わず二度見してしまったが、そんな一発でアウトな内容が堂々と書かれている。


「こんなことチラシに書いて配ってるってこと? 秘密結社ってそれでいいの⁉」


 秘密結社のメンバー集めの相場は知らないが、多分こんな方法ではないと思う。

 そもそも、こんなふざけた内容だと誰かのいたずらという可能性が極めて高い。


「……これは、違うかな」


 俺は手に持った薄汚れたチラシをもとあった場所に戻そうとしたが、途中でその動きが止まった。


「でもこれが本当に秘密結社だったら、親父の圧力が行き届いてない可能性があるな……」


 そう思ってもう一度チラシをよく見てみると、下の方には秘密結社の住所らしきものも載っていた。

 ますます秘密感が行方不明だが、ここに行きさえすれば、これがいたずらかどうかははっきりする。


「最後に、このバファルッツに賭けてみるか」


 チラシに書かれた『平和的な世界征服』の内容も直接聞いて確かめよう。

 ここが空振りだったら夢はあきらめざるを得ない状況になるだろうが、足掻けるうちは思いっきり足掻いてやる。


「……でも秘密結社か。うさんくさいなー」


 俺は一抹の不安を抱えながらも、とりあえず書かれた住所まで行ってみることにした。


 この変な組織の詳しいことは、着いてからのお楽しみだ。

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