現実逃避
「てな感じで、もう親父のところには帰らないことにした」
「ほんとにアルトのお父さんって変な人よね。それに、お母さんはどうしたのよ? そんな親バカ全開な行動、
「あぁ、俺の母さんって基本的に家にいないから。俺がパルディウスに入学する前から、しょっちゅう数ヶ月とか年単位で旅してたし」
「そ、そうなの? 言われてみれば確かに、アルトからお母さんの話ってあんまり聞いたことないかも……」
「さすがに自分の息子が六年ぶりに家に戻った時くらいは家にいるかとも思ったけど、普通にいなかったな」
「……ほんと、正真正銘の変人一家ね」
「そうそう。ほんと俺の親って……えっ? その言い方だと俺も変人ってことに――」
「で、昨日家を飛び出したんなら、あんたはどこで寝てたの?」
遠慮というものを全く見せない俺の友人、フランカは、俺が言いかけた言葉を豪快に遮る。
「まさかとは思うけど、こんな固いベンチで寝てたってわけじゃないわよね?」
「……いや、実はそのまさか。金もあんまり持ってないし、ここで寝ちゃってた」
「はぁ……、だからそんなひどい顔色してるのね。 それに、そんなことになってるなら暢気にシャルモーの激励なんてしてる場合じゃないんじゃないの?」
「そうは言っても、シャルモーは俺らの用事に付き合ってくれただろ? それにあいつ、めちゃくちゃ緊張してるだろうし。……俺としてはフランカが来る方が意外だったけど」
「し、失礼ね。私だって友達の大一番を応援したいって気持ちくらいあるわよ」
そう言いながら、フランカは恥ずかしそうに顔を逸らす。
そんな微笑ましい姿を見ていると、心の平穏的な意味で、フランカがここに来てくれて良かったと改めて感じる。
(ほんと、少し前までは悲惨な状況だったからな……)
昨日何の当てもなく家を出た後、なぜか『とりあえず宮廷魔術師試験の会場まで行って、シャルモーの応援をしよう』という友達思いとも能天気とも言える結論を出していた。
さっきフランカに言った理由も嘘ではないが、冒険者になるのが絶望的になってかなり落ち込んでいたので、単純に友達の顔を見たかったのかもしれない。
そんなわけで昨日の夕方には試験会場の前にある広場に着き、そこにあったベンチで夜を越すことにしたのだが、我ながらどうかしていると思う。
もう冬も越えたし大丈夫だろ、なんて考えていた昨日の自分を殴りたい。
実際はまだ普通に寒かったし、時々どっかから悲鳴みたいなのも聞こえてきてめちゃくちゃ怖ったしで、ほとんど寝られていない。
朝になって俺と同じようにシャルモーの応援に来たフランカを見つけた時には、フランカが天使にすら思えた。
「ほんと、感謝感謝」
「ちょっ、なんで私を拝んでるのよ、気持ち悪い……。それに私も暇じゃないし、ここに来るのもそんなに乗り気だったわけじゃないからね」
「……でも、そう言う割に朝早かったよな、フランカがここに来たの。あれ試験が始まる二時間以上は前だろ」
「は、はぁ⁉ そ、そんなのギリギリに行ってシャルモーに会えなかったら意味ないからってだけで……。ていうか、前日から居る奴に言われたくないわよ!」
「はいはい。フランカも、昔から素直じゃないところがあるよな……って痛い! お前は力がバカ強いんだから、人を気軽に殴るなよ!」
そして今はフランカと一緒にベンチに座り、試験会場に近づいていく人の中からシャルモーを探す作業中だ。
その途中で昨日の親父との事を話したり、フランカによる俺への暴行が起きたりもしたが、確認は怠っていないので、まだシャルモーは来ていないはず。
ただ、時間はもう試験開始まであと三十分ほど。そろそろ来てもおかしくない頃合いだ。
そんな具合に時間のことを気にしていると、俺を一通り殴って気が済んだらしいフランカは、自分の膝に頬杖をついて大きく息を吐いた。
「それにしても、アルトって案外本気で冒険者になりたかったのね」
「案外って何だよ。フランカに誘われたからなんとなくで選んだとでも思ってたのか?」
「……いや、単に目立ちたいとか、ちやほやされたいとかの不純な動機かと」
「長い付き合いの上で出した結論がそれかよ⁉」
数少ない友人による辛辣な評価に、突っ込む声も大きくなる。
そんな不純な考えなんて全く……ないわけではないが、あってもほんの少しだけだ。
「だってアルト、学校でも面倒事に自分から首突っ込むところがあったじゃない。あれって自己顕示の為でしょ?」
「そんなこと思ってたのかよ⁉ ……確かに、『これを解決したらヒーローになって、シャルモーとフランカしかいない俺の友達が増えるかも』くらいは思ってたけど……」
「やっぱり本質はそこじゃない! だから成功した試しがないのよ」
「うっ、そう言われると反論ができない……」
卒業後も俺の友達が依然二人だけであることから分かるが、俺の『事件を解決してみんなのヒーローになろう作戦』はフランカの言うとおり失敗の連続だった。
「例えば、授業の為に先生が連れてきたドラゴンを魔法使って吹き飛ばしたり」
「校舎ぐらいデカいドラゴンが空から近づいてきたら誰だってビビるだろ⁉ 事前に説明してなかった先生にも絶対責任がある!」
「それに雪男が裏の森から来たとか言って騒いでた時もあったわよね」
「あんな毛深い人がいるなんて普通思わないって! それに新しい先生ならちゃんと門から入れよな!」
「あとガーゴイルの大群が校舎の中に入ってきた時だって……」
「俺はあの件については未だに納得してないから! ガーゴイルを外に出す時、確かに学校で一番大きいガラスは思いっきり割ったけど、あれはしょうがないだろ⁉」
「他だとアルトが五年に進級した時に――」
「もういいよ! どんだけ人の古傷えぐれば気が済むんだよ!」
こうして人から聞かされると、自分の行動の無意味さをつくづく思い知らされる。
ただ、こんなに失敗続きだと、『だめな奴というキャラで逆に名前が売れそうじゃん』なんて思う人がいるかもしれない。
ところがどっこい、俺の場合はなぜか毎回先生が近くにいて、やらかした後にはすぐに指導室まで連行されていたので、この醜態を知っている生徒はほとんどいない。
だからこそ、俺は本当に救いようがない。
「そんな話はいいからちゃんと前見てようぜ。シャルモーが通り過ぎでもしたら、本当に雑談してただけになるだろ」
「言われなくてもちゃんと見てるわよ。それに会場の入り口がすぐそこにあるんだから、シャルモーが来たら気づかないわけ……。あっ、噂をすればってやつじゃない?」
「おっ、やっと来たな……って、ん?」
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