第一章 理想の自分を目指してみよう!
家族会議
「だから明日フランカとギルドに行くことになって……。ちょっと、聞いてんの?」
「……あぁ、すまん。尊敬する父さんのくだりあたりからぼぉーっとしておった」
「そんなくだりは一つもなかったけどな。……めんどくせぇ」
確かに俺が話してる途中から、親父が口開けたまま固まっていた。
だけどまさか、記憶まで飛んでいたとは。親父は俺の言ったことにかなりの衝撃を受けてしまったらしい。
その証拠に、今も親父の視線は虚空を
正直こんなのは放っておいてすぐに自分の部屋に戻りたいところだが、ここで話をつけておかないと後々面倒なことになるのは明白だ。
だからここはぐっと我慢しなければ。
「さっきも言ったんだけど! 俺は親父の跡は継がずに、冒険者になるから!」
「……冒険者? ぼう、けんしゃ、冒険者……。あっ、そうだった! おい、アルトなんで突然そんなことを言い出すんだ⁉」
突然我に返ったようにはっとした表情を浮かべる親父。どうやら記憶が戻ったようだ。
親父は机に身を乗り出し、俺の方に涙目になった顔を近づけてきたが、俺はそれを片手で押し返して話を続ける。
もちろん、涙やら脂やらで汚れた右手をズボンで拭いた後で。
「理由はさっき言ったけど、親父の下で働いても魔法の上達には役立たないから。それだけ」
「いや、そんなことはないぞ! ワシのところには魔法の最新の知見が集まるし――」
「でも、親父自身が魔法を使うことなんてほとんどないだろ?」
「そ、それはそうだが……」
親父は思わず言葉を詰まらせ、俺から目を逸らす。
その瞬間、俺はここが勝負所だと確信し、声のボリュームを一段上げた。
「俺の夢は、風魔法を極めることなんだよ! 風魔法に関する知識は全て網羅して、それを使いこなす高い練度を併せ持った、最高の魔法使い!」
親ウケが良さそうなそれっぽい理由を、身振り手振りを交えて大げさに伝える。
「パルディウスでの六年間で、本に書かれた知識は学んだ。それは自信を持って言える。だからこれからは、実戦の場でしか得られない魔法の実力を身につけたい! そのためには誰かの指示じゃなく、自分の考えに従って動く冒険者じゃないとだめなんだ!」
「アルト……」
(おっ、結構いい感じだな。これはあと一押しってところか)
あれだけ騒がしかった親父がしゅんとなってきたところで、俺は最後の仕上げにかかる。
「俺、親父には感謝してるんだぜ。親父のおかげで大好きな魔法に出会えたんだからさ」
これを子供から喰らった親は号泣必至という、必殺の大技・『シンプル感謝』!
自分の夢のためとはいえ、いざ面と向かって言うとなるとこれはかなり恥ずかしい。微塵も心がこもっていない真っ赤な嘘だというのに、変な汗が出てくるほどだ。
ただ、本当にガチ泣きし始めた親父を見るに、この大技はやはり効果てきめん。
(この勝負、俺の勝ちだ!)
「だからこそ、親父には俺の夢を応援して欲しいな」
「うっ、うっ…… 分かった。アルト、そこまで言うのならワシから言うことは何も無い。自由に夢を追いなさい」
「よっしゃ……じゃなくて。あ、ありがとな、分かってくれて」
親父は机に顔を押しつけていてその表情は分からないが、ついに俺が冒険者になることを認めた。
これで俺が懸念していた夢への障壁は排除されたことになり、明日のフランカとの約束も守れる。
「じゃあ話したかったことはこれで全部だし、俺はもう寝るから……」
「うわああぁあ! アルトぉ! アルトぉぉおおお‼」
「……お、おやすみ」
俺は今も大泣きし続ける親父を部屋に放置し、高笑いしそうになるのを我慢しながら部屋を出た。
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