第49話 眠り姫
朝の光がキラキラと降り注ぐ中を特魔の正装をした炎迦と流迦は瑤迦の部屋に向かって歩いていた。それぞれの力を表した瞳の色と同じ色の衣装は遠くからでもよく目立つ。気配より先に二人の姿を目で確認した昇龍は軽く会釈をした。今日は武官朝議の日だ。本来であれば四天龍である昇龍も瑤迦とともに出席するはずだが、全くと言って良いほど準備をしている様子がない。
「やっぱり、瑤まだおきねぇか」
「まだ一日しか経ってませんよ、炎」
そんなことを話しながら、瑤迦の部屋の前までやってきて、待っていた昇龍に尋ねた。
「オメーらだけでも出ないのか?」
「私たちは瑤迦様の四天龍ですから」
「そうかよ。……入っても良いか?」
昇龍はどうぞと言って扉を開けた。昏々と眠る瑤迦の傍らには飛龍が寄り添うように座っていた。おそらく一睡もしていないのだろう。少し疲れが見て取れた。炎迦はそんな飛龍の様子を見てさすがに声をかけずにはいられなかった。
「飛龍、お前瑤が起きるまでずっとそうしてるつもりかよ。ちったぁ休め。見張りなら俺たちも変わってやるから」
飛龍は瑤迦から目を逸らすことなく一言で答えた。
「問題ない」
「そんなわけねぇだろ。いつ目覚めるか分かんねぇのに」
「うるさい。問題ないと言っている。頼むにしてもお前らには頼まん」
飛龍はなおも瑤迦から目を離さず答えた。そんなだったから穏やかな流迦の顔がだんだんと険しくなっているのに、飛龍は気が付かなかった。
「飛龍?あなたは当然のように瑤の権利を主張しますが、私たちがいなければ瑤は助かっていないこと、わかっていますね?」
普段優しいヤツほど怒るとコワい。流迦とは長い付き合いの炎迦も流迦のことは絶対に怒らせてはいけないと思っているので、声色が変わったことにビクっとなった。チラッと横目で流迦の顔を盗み見ると比較的穏やかな表情なのに何故か恐怖を感じた。そしてしみじみ思った。
(何故か昔から龍たちには厳しいんだよなぁ……てか、『瑤の権利』ってなんだ?)
しかし、火に油を注いではいけないと思い、胸に留めておくことにした。
せっかく炎迦が黙ったのに、飛龍はそんなことちっとも考えていないようで、見事に油を注ぎまくった。
「お前たちこそ瑤迦様の権利なんか微塵もないだろうが。俺たちは瑤迦様の四天龍だ。瑤迦様は俺たちのだ」
「なんですって?」
これ以上は本当にマズいと思った炎迦と昇龍が二人を止めに入ったところで、眠っていた瑤迦が小さく声を立てた。
「飛龍、ケンカ、だめ……」
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