第43話 龍の通り道

その日は朝から騒がしかった。前回暴走しかけて以来、嘘のように静まった我龍山が再び騒ぎ始めたらしい。様子を確認するため先遣隊として天龍軍が派遣されることになったようだ。だが飛龍はそんなことは自分に関係ないといったふうに一人東の塔で時間が過ぎるのをただ待っていた。―今日も。

あれから27年。飛龍は特魔や他の四天龍の稽古に付き合う以外はいつもこうして過ごしていた。元々あまり口数の多い方ではなかったが、ますます無口になり、周りを遠ざけた。まるで、一人で責めを受けるかのように。そして、いつ戻ってくるか、本当に戻ってくるのかもわからない瑤迦を、飛龍は何も言わず待ち続けた。しかし同時に、同じくらい戻ってこなくても良いとも思っていた。戻ってきても、また戦わなければいけないと分かっていたから。


「瑤……」


 会いたい。会いたくない。戻ってきてほしい。戻ってこなくて良い。複雑な思いでいると、つい名を呼んでしまった。愛しい女の名を。

一度呼ぶと、繋がっている左腕が熱くなった。少し嬉しくなり、飛龍は右手でギュッと左腕を掴んだ。その時気づいた。


 違う。これは―。


そう思った瞬間、ドクンと心臓が脈打った。


(呼ばれている……!?瑤……!)


そして一目散にあるところへ向かった。


 重い扉を開けると、他の四天龍はすでに集まっていた。しかし、飛龍は脇目もふらず目の前の男に詰め寄った。

「人界に行く。行き方を教えてくれ。知ってるんだろ、天帝」

 瑤迦を転生させて以来、天帝とは目を合わせることすら避け続けてきた緋色の瞳が、今はしっかりと目線を捉えていることに天帝も少し驚いたが、ニヤリと口角をあげ、答えた。


「知っているぞ。お前にはきついかもしれんがな。唯一の脈だ」


どこだ!と激しく迫る飛龍に天帝は静かに告げた。

「お前たちしか通れん道だ。この鳳凰山はある道で天界中と繋がっているが、そのうちの一本は天門とも繋がっている」

そこまで聞いた飛龍はチッと舌打ちをしてつぶやいた。

「水脈か」

その呟きに天帝はそうだ、と言い、続けた。

「龍族の通り道として使われていた水脈だが、火龍族であるそなたにはきつかろう。だがこれしか道はない。行くか?」

「行くに決まっているだろう!」

「そうか。では頼んだ」


そうして、四天龍は近くの水脈から人界に向かったのだった。

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