第42話 天界への帰還

「あの……天帝?」

花音に不安そうな声で呼ばれて天帝は現実に引き戻された。瑤迦の名を呼びながらぺちぺちと頬を叩いたりつねったりしてみたが、反応がない。

「おい……天帝?」

様子がおかしい天帝を見て、炎迦が声をかけた。次第に動揺は全員に広がり、喜びの表情は一気に不安の表情になった。

「炎!瑤の体温を上げろ!身体中の水分と血を人肌まで上げるんだ!」

天帝はそう叫び、牀に瑤迦を寝かせた。炎迦はそう言われて瑤迦の手に触れてみると、まるで氷水につけたみたいに冷たく、咄嗟に手を引っ込めた。

「できるな?」

「まかせろ!」

炎迦はすぐさま瑤迦の心の臓あたりに手を置き、気を手のひらに集中させた。

「上げすぎるなよ」

「分かってる」

炎迦は額に汗を滲ませながら瑤迦の体温を調節した。次第に、瑤迦の頬にほんのり赤みが差し、天帝は炎迦に止めるよう合図をした。

「どうだ?」

炎迦は息を切らし、流迦に尋ねた。

「まだ目覚めません……」

「やはり血が足りんか……」

天帝は少しだけ考えを巡らせ、ポツリと呟き、迅迦に振り向き頷いた。

迅迦は分かったと言って頷き、花音から器を受け取り、自身の口に含ませた。そして、瑤迦の頭を持ち上げ、口を無理やり開き、口移しで強引に増血剤を飲ませたのだった。血の気なくぐったりしている美しいお姫サマと、強くてそこそこ容姿も整った武官の口づけ―。状況的にも色っぽく見えて良いはずなのに、なぜか色気のカケラも感じないどころか、なぜか残りの三人の特魔は全員顔を引き攣らせ目を逸らした。雷迦に至ってはうわぁ……と心の声が漏れ出ていた。

「飲んだか?」

そんな三人の様子は気に留めず天帝は迅迦に尋ねた。失礼なことを考えていたのは三人だけだったらしい。

「飲むには飲んだが……どうするんだ?目が覚めるまでここにおいておくか?動かさない方が良いと思うが」

「いや、連れて戻る。どちらにしろここでできることはもうない。そうだな?東王父」

「はい。あとは姫様の生命力次第。たいしてお力になれず、申し訳ございません」

「いや、ここまでよくやってくれた。礼を言う。瑤は迅、お前に頼む。落とすなよ」


そうして彼らは、東王父と仙界に最大限の礼を尽くして、天界に戻ったのだった―。

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