第37話 絶望

執務室に静寂が立ち込めた。鈴以外の全員が瞠目し、天帝を見た。天帝の言葉に一番早く反応したのは流迦だった。

「どういうことです?瑤は天道に乗り、身体は修復しているのですよね?」

「そうだな」

「だったらどうして?」

雷迦も泣きそうな顔で尋ねた。

「天道にも乗せ、身体も修復している。だが、ただそれだけとも言える。転生するにしてもいつかはわからんし、身体の方は時を止めている以上、生体としての働きも停止しているからな。体内で血を作ることはできん。たとえ、全てがうまくいき、魂魄を本来の身体に戻せても、生きていくための血が足りねば消滅する。そもそも、無限に時を止められる訳でもない。身体が保たんことはないとは言い切れぬ」

天帝の言葉を聞き、腹を貫かれいくつもの臓器に損傷を負っていた瑤迦の状態を思い出した鈴は頷き同意した。

「そんな……!」

流迦と雷迦は悲痛の声を漏らした。炎迦は天帝の言葉を聞いてからピクリとも動けず、迅迦は口元を手で覆っていた。龍たちはというと、何も聞こえていないかのように全く反応しなかった。

 その場の重たくやり場のない不安に包まれた雰囲気を変えたのは鈴だった。

「それでも、できることはやりました。あとは、待ちましょう。瑤迦は強い子です。大丈夫です。それに転生したことが分かればいつまでに戻ってくるかはわかりますよ」

鈴の思いがけない言葉に雷迦はぱぁっと顔を明るくし、驚いたように尋ねた。

「そうなの?なんで!?」

「あの子の魂魄は天界のものです。人界で魂魄の記録の更新はできません。今天界で記録のあるところまでしか人界にいられません。それより先の魂魄の記録は天界で更新していくしかないので、長くても、転生してから30年ほどで還ってくると思います。人間の成長が早くてよかったわね」

そう言ってにっこり微笑む鈴を見て、全員少し安堵の表情を浮かべ、瑤迦の帰還を待つ覚悟をしたのだった。

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