第33話 水の左魔

雨のおかげで勢いは弱まったとはいえ、自分の腰のあたりまである火の壁を前にして、流迦は眉根を寄せた。そして、腰に差してある二本の刀のうち長い方を抜き、行かせてください、私を、と祈りを込め、刀を振るった。すると火が割れ、道ができた。一気に駆け抜け、すぐさま火よりも高い位置に陣取った。そして短い方の刀も抜いたその時、現れたのは刀身……ではなかった。現れたのは、柔らかい表情の武装をした男。さすがの流迦もこれには驚いたのか、声が出せなかった。

「流迦様……」

「お前……左魔か?」

「はい」

左魔と呼ばれた男はそう言って火の壁を見た。

「この火には意思がある。おそらく雨では消えません。私が水に変化します。流迦様はその右魔で私を操ってください」

「わかった」

左魔はその言葉を聞き、にっこり微笑み頷いて、次の瞬間、水の壁に変化した。流迦は刀を振るい水を押し出した。水は大きくうねり火の壁を飲み込み鎮火した。

「す、すごい……」

流迦がしばらく放心していたら、先ほどの男が現れ言った。

「これより流迦様が私の真の主人です。よろしくお願いします。いつでもお呼びください」

そしてそのまま鞘に戻ったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る