第32話 山火事

「うまくいくでしょうか…」流迦が心配そうに呟いた。「今更言っても仕方ねぇ。天帝を信じるしかないな。これしか方法がねぇのも確かだろ」炎迦は気丈に振る舞っているように流迦には見えたが、声も手も僅かに震えていた。そうですね…と言って少し俯いた流迦を見て炎迦は明るく笑って言った。「そんな心配すんなって!あの人に任せてたら大丈夫だよ!なっ?」流迦は炎迦の顔を見ると安心したように少しだけ微笑んだ。二人の緊張が少しほぐれた瞬間、天門内の空間が歪んだのを感じて、二人は弾かれたように天門を睨みつけた。「炎、何か…」「ああ、来るぞ!」炎迦がそう言った瞬間、天門から熱風が吹きつけた。二人はすんでのところで結界を張ったため熱風を受けることはなかったが、何かが燃える音に後ろを振り返ると、鳳凰山麓の木が燃えていた。しかも、火が回るのが早い。「流…!マズイぞ!消せるか?」「当然です!」そう言って流迦は空に向かって手を上げた。「雨を降らせます」その言葉通り、一気に黒雲が立ち込め、一帯が夕暮れのように暗くなった。そして、次の瞬間、滝のような雨が降り出した。しばらくすると、火の勢いは弱まったが、完全には鎮火できそうにはなかった。「マズイな…流、これじゃ完全には消せねぇぞ」「少し離れます」「おい!どこいくんだ!」「火よりも高いところに」「危ねぇだろ」「大丈夫です」流迦はにっこり笑って火の中へ走っていった。

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