第30話 天門

「着いたぞ」そう言われて顔を上げると目の前に天門があった。巨大な鳥居。鳥居の向こうは果てしなく平原が続いているように見えるが、それは歴代の天帝と皇后によって掛けられ強化された目くらまし。実際はこの天門をくぐると天道という、天界と人界をつなぐ道があるらしい。らしいというのは、炎迦は実際に天門の向こう側に足を踏み入れたことはないからだ。生身で天門より向こうに入れるのは天帝のみ。都合上、天界の長を天帝としてはいるが、そもそも天帝は天界の守護者ではない。天門、そしてその先にある天道の守護者だ。炎迦は内心やっぱ、すげーなこの人、と感服していた。自分一人ならともかく炎迦、流迦という大の大人二人と、魂魄だけになった瑤迦を連れて何事もなかったように鳳凰山の麓にあるここまで飛んできた。行き先が天門とはいえ歴代天帝でもここまで自由に空間移動できるのはそう多くないだろう。

「天門の封印を解いたら瑤を渡せ」天帝はそう言って呪を唱え始めた。



天帝の呪により鳥居の向こうの空間が歪み、暗闇がどこまでも続きそうな空間が現れた。

「瑤をこちらに。ここから先はお前たちは入れぬ。ここで待っておれ。瑤は人界には異物ゆえ、もしかしたら拒絶されるやも知れぬ。何が起こるか分からぬ故な」

「拒絶…?」流迦が不安そうに尋ねた。「もし拒絶されたら瑤はどうなるのですか…?」

流迦の問いに天帝ははっきりとは答えなかった。中で暴走が起き、こちらにまで影響があるようであれば対処するように、とだけ言って天門の中に入って行った。

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