第16話 日没

ちょうど日が沈んだ頃、西の塔と左右対称になるように建てられている東の塔に一人の男が夕日を背にして立っていた。

悲しみと苦しみがないまぜの複雑な表情を左手で多い隠している。(思ったより衝撃が大きかったな…)

男は部屋から出てきた時の消えそうな瑤迦の様子を思い出していた。

すぐ声をかけたのだが、完全に無視され、そのままフラフラと歩いて行ってしまった。

男はダン!と右手の拳を欄干に叩きつけた。(何言いやがった、クソジジイ!…いや、天帝のことを言える立場ではないか、俺は)

その時、背後から明るい声と人懐っこい声がした。「もー、荒れないでよ飛ぃ兄」「そうだよ壊したら直せって言われるよ」龍弥と龍椰だ。

まぁ、気持ちは分かるケドさ…と、普段は底抜けに明るい龍弥の声も暗く沈んでいた。

正直、あんなに綺麗に無視されるとは全員思っていなかった。

多少動揺はするだろうなとは思ったが、それでも、今までとそんなに変わらない、と力強く跳ね除けると思っていた。

それがどうだ。まるで自分たちの存在など見えていないかのようにピクリとも反応せず、すり抜けていった。

だから、誰も呼び止めることもできず、そのまま行かせてしまった。

呆然とする自分たちに気がつき、流迦が声をかけてきたのはそれからしばらく経ってからだった。昇龍がその場で起こった事を話すと、

流迦はなるほど…と言って何か考えを巡らせているようだった。「天帝に何を言われたのは分かりませんが…」という昇龍の言葉に、

流迦は龍たちに気づかれないくらいほんの少しだけ瞳の色を暗くし「分かりました。瑤を元に戻してきます」と返答した。

流迦と瑤迦は特魔の中で一番付き合いが長い。迅迦とも同じくらい長いが、ともに学び、成長し、悪事を働いては天帝に怒られた絆は何よりも強かった。

そのことを充分にわかっている龍たちは流迦の言葉に安心しそれぞれ安堵の表情を浮かべた。そして、昇龍が「ありがとうございます」と丁寧に頭を下げ、お礼を言った。しかし、流迦は天帝を守護する特魔隊。別に龍なんていなくても問題ないどころか瑤迦の後ろをチョロチョロついて回り、

自分たちと一緒にいる時間を削られているのが実は気に入らなかった。あげく、天帝を悪者にしようとしたなんて−。

だから、ちょっとだけ意地悪をすることにした。

「別に?あなたたちのためでは全くありません」と、この世のものとは思えない(この世ではないが)ほど美しい微笑みで言い放ったのだった。

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