第8話 おしどり夫婦
「若い奴らは元気だな」龍弥と龍椰がかけていった方を見て天帝は目を細めて言った。
「瑤迦の方はどうだ?気づいているか?」紫色の瞳から優しさを消して、低い声で昇龍と飛龍に尋ねた。
「人間を庇う際に左腕に傷を負われましたが、何も聞かれてはおりません」昇龍も柔らかさをなくした声で答えた。
「左腕か…そなたはどう思う?飛龍」
「瑤迦様は馬鹿じゃない。あんたに直接聞こうと思って黙ってるんだと思うが」
「そうか。分かった。どちらにしろ特魔に戻るのであればこのままにしておくわけにはいかぬ。瑤迦に聞かれなくても私から話そう」
「かしこまりました」
「分かった」
ちょうど話が終わったところでコツコツと軽い靴音がした。扉の向こうから女性の声がする。
「天帝。鈴(りん)です」
「入れ」という天帝の声の後に扉が開き天帝より幾分か年若い女性が春風のようなあたたかさを纏って入ってきた。極上の美人とまではいかないが、美しく、澄んだ瞳が特徴的で、そのあたたかな雰囲気で安心感を与える、まさに天女と呼ぶにふさわしいその人は、天帝の前に立ち柔らかい微笑をたたえ、ハリのある声で話した。
「瑤迦が戻りましたね?天帝」
「ああ。もうすぐ戻る故、そなたにもいてもらいたい」
「もちろんですわ。楽しみですわね。特魔たちは龍二人が呼びにいきましたから、もうすぐこちらに来るでしょう。にしても、一体、瑤迦はなぜ、鳳凰山を徒歩で登ってきますの?直接こちらに来ることもできたでしょうに」
「もちろんできるが、私がそうするよう言ったのだ。人界の人間の身体を清め、天界の気に慣れさせるためにな」
「そういうことでしたか。でしたら仕方ありませんわね。でも、あの子のことだから、あとでたくさん文句言われるんじゃありません?」
「…だろうな」
天帝と皇后のいかにも仲の良い穏やかな雰囲気に「天界一のおしどり夫婦」と呼ばれていることを思い出し、気恥ずかしくなった昇龍と飛龍は、二人から目をそらし、早く戻ってきてくれ!と心の中でで叫んだのだった。
龍弥と龍椰はいつものように龍体をとり四阿に向かっていた。
「ほんと、面倒なとこに建てたよね、アレ」と龍弥が呟くと、龍椰が頷き、言った。
「誰もいけない場所に建てて、五人の気で結界張って天帝でも声が聞こえない、姿が見えないようにしたらしいよ。つまり、あそこにこもられたら直接行くしかない」
龍弥は可愛い笑顔を凍らせた。「それって、反逆行為って取られても仕方ないんじゃ…」
「まぁ、天帝本人が許してるし、迅迦様もいるし。反逆の意思なんて微塵もないから」
「まぁ確かに」と話をしていると二人を呼ぶ炎迦の声が聞こえた。
「おーい、龍弥ー、龍椰ー!もう戻った方が良いのかー?」
なんかめちゃくちゃ楽しそう。と二人は思った。そんな様子につい言うつもりのなかった一言が龍弥の口をついて出た。
「相変わらずアホっぽいな、炎迦。天帝が呼んでる。瑤迦様ももう着くよ」
「アホとは何事だー!」と叫ぶ炎迦に、その場にいる全員がそういうとこだよ!と心の中でツッコミを入れた。
よし!じゃー、いくか!と炎迦が手を叩いて鳴らそうとする瞬間、「いや、乗れよ」と龍弥が止めた。
「意味ないところで無駄に力を使うなよ。そのために来てやってんだよ!」龍弥は照れくさそうにしている。
「ありがとうございます。龍弥。では、お言葉に甘えて。ほら、いきますよ、炎迦」
「迅迦様と雷迦様は僕に」と龍椰が促し、それぞれお礼を言って龍椰の背に乗った。
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