第7話 天帝
その頃の瑤迦は天界に戻ってほっとしたのも束の間、瑤迦は遠くの山頂を見つめ心の中で大きなため息をついていた。龍たちはここにはいない。天界についた途端、昇龍に「天帝の命なので」と一人にされた。天界を懐かしむ余裕なんか微塵もない。文句の一つくらい言っても許されるはずだ。うん。言う。
(なんっで徒歩で登らなきゃいけないの!?私一応姫じゃなかったっけ?龍の力も使っちゃいけないってなんの拷問よ!あんのクソジジイ!)
飛龍に負けず劣らずの口の悪さで心の中で暴言を吐きながら富士山ほどの高さの山をどんどん登っていく。
(天帝に会ったら文句言う。絶対)頭の半分で天帝への文句を考えながらも、もう半分では別のことを考えていた。
瑤迦と別れた後、昇龍たちはある人のところに向かっていた。
しばらく天宮を歩き、とある部屋の前に着いた。重そうな扉の前に4人並んで立ち、昇龍が扉を軽くコンコンと叩いて訪いを告げた。
「昇龍です。只今戻りました」
「入れ」
昇龍が扉を開けた先で待っていたのは、金の冠をつけた初老の男性。初老とはいえども背筋はまっすぐで、腹も出ておらず、いつでも剣を持って戦える引き締まった身体をしている。しかも、容貌もかなり整っており、年のわりに若く見えるどころか実は若い女官たちの間でも未だ人気は衰えていない美壮年であったりもする。
瑤迦が以前「あの人ってさ、若い頃絶対かっこよかったよね」とはしゃいでいたのを見てから飛龍はあの顔が嫌いになった。
「失礼いたします。天帝」
昇龍が穏やかな声と笑顔で入室を告げた。4人は天帝の前まで進み、片膝をついて敬意を表した。
「四天龍ただいま戻りました」
天帝と呼ばれた男は薄く微笑んだ。
「よく戻った。…あー、で、だな、その…瑤迦の様子は…どうだ?」
歯切れの悪い天帝の質問に龍たちはそれぞれ目線を逸らした。
(お前の役目だ!)という他の三人の龍たちからの圧を感じた昇龍が咳払いをし、答えた。
「瑤迦様は、鳳凰山のふもとに落とした瞬間、ふざけんな、クソジジイ、と」
(言ってたな。確かに)
(うん。言ってた)
(言ってたね…)
龍たちはそれぞれ鳳凰山の麓で瑤迦を落とした時のことを思い出していた。
そう。文字通り落とした。しっかりと「天帝の命で仕方なく」と言って。
「瑤迦様が帰ってきたら、怒られてください、天帝?」昇龍はにっこり笑って言った。
「そなたら、天帝の命でなどと言っておらんだろうな?」
「私たちの意思では無いので」昇龍はキッパリ言った。
「朕は天帝なのだがな…なんでそんなに偉そうなのだそなたらは…」いじけたようにボソボソ話す天帝に少し心は痛んだが、
それでも昇龍ははっきりと言った。
「私たちの主は瑤迦様なので」
「まぁ良い。あと一刻ほどで瑤迦も戻るだろう。龍弥、龍椰、そなたたちは皇后と、特魔を呼んできておくれ」
「はーい。皇后様は執務室で、特魔は例の四阿?」龍弥が明るく聞く。
「特魔の気がつかめぬ故、そのようだな」
「じゃ、行ってくる」龍弥の声と共に2人は部屋を駆け出した。
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