第5話 天界へ
あまりにも突拍子もない話ではあったが、真悠をはじめその場にいる全員が静かに耳を傾けていた。というかまともに声が出せなかった。
「天界では龍や天人、仙人が共存している。だが、少し前から天界の一部で不穏な動きが出てきだしてな…私が人界に転生させられたのもそのためだ」
まるでおとぎ話のようなことを聞かされ混乱する頭を必死に回転させ、真悠が口を開く。
「ちょっと待ってよ……色々と分からないんだけど……ねえさんは人間じゃなくて、龍使い?で……天界?と天帝と皇后を守るために帰らなきゃいけなくて……ねえさんは一体何から天帝と皇后を守るの?その……龍使いにしか守れないの?ねえさんは天界に戻るしかないの?今まで通り生活するっていうのはできないの?転生って……」
真悠の質問は的確すぎるほど的確だった。そして瑤迦はその質問の答えをすべて持っている訳ではなかった。
(何か答えないと……)瑤迦が考えているのを見て昇龍が代わりに答えた。
「すみません……私達が瑤迦様の御名を呼んでしまったことで、瑤迦様が天人として目覚めてしまったようです。天人は人界に留まることはできません。天界の者が人界の気に触れると寿命が極端に短くなります。人界の初代天皇……神武天皇は天界の先代天帝の弟君です。何より、瑤迦様のお力がなければ天界での戦いに勝てません。天界が滅ぶということは、すなわち、人界も滅びます。人界の人間は死ぬと天界で癒しが施され、再び人界に転生するというふうになっていますから」
「詫びる必要などない!瑤迦様はそもそもこちらのものだ!人界にきたのが手違いだったんだぞ!あのクソジジイのせいで!」
「いーの?飛ぃ兄。そんなこと言ってると天帝に怒られちゃうよー、ねぇ龍揶?」
「そうだよ飛ぃ兄。天帝怒ると怖いよ〜」
口も悪く怒りやすい飛龍を嗜める可愛い龍弥と龍揶。この2人は本当に可愛い。あーこの2人がいてくれて本当によかった。
みんなが少し時間を作ってくれたおかげで瑤迦も少し落ち着いたのか口を開いた。
「そういう訳で、私は人界で生きていくことはできない。天界と天帝や皇后を守るのは私だけではないが、私にしかできないこともある。人界を滅ぼすわけにもいかないしな。……天界に戻る」
瑤迦は苦渋に満ちた表情で言った。
「ねえさん……全然分かんないけど、分かった。あーあ、ねえさんともっと仕事したかったし、いろんな話もしたかったけなぁ……あ、私に彼氏が出来たお祝いしてもらってない!」
「ごめん」
泣きながら真悠は瑤迦を抱きしめた。真悠の感情が豊かで想いをまっすぐぶつけてくるところが瑤迦も大好きだった。腕を緩め、瑤迦をまっすぐ見て言う。
「こっちこそごめん。謝んないで。ねえさん困らせたいわけじゃないから……もう!こんなに髪が長くツヤツヤになっちゃって!着てるのも着物?目もなんか紫だし!これカラコンじゃないよね?」
「これが本来の姿だ」
お互いの顔を見て笑い合った。真悠はぽんと瑤迦の肩に手を置き目に涙を溜めて言った。
「いってらっしゃい。気をつけて。戻ってきたくなったらいつでも戻ってきなよ。私たちのことは…心配しないで」
「真悠……ありがとう。いってくる。元気でね」
「では……参りましょうか瑤迦様」
昇龍が穏やかに促した。
「ああ……」瑤迦は昇龍の手を取った。
その瞬間瑤迦と4人の龍たちは消えていた。
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