第26話
ローズマリーをかわし、帰ってきたガーベラに一度殴りを入れ、測定を誤魔化した俺は教室に戻っていた。
ちらと聞いた話だと、面白い能力者が多いらしい。ガラスを操る能力、温度を下げる能力、夢を見せる能力————ダンジョン探索に役立つものは少ないが、それが本来の使い方では無い。
「それにしても、こんなことしてていいのかしらね」
「何のことだ?」
ローズマリーが俺の隣——体調不良だとかで欠席した誰かの席に座って話しかける。
「ダンジョンなんてのは、異世界の断片。それを意図的に持ち込んだのが『あの女』ってだけで、あいつを退けただけじゃ根本的な解決にはならないのよ?」
「だからってどうしようもないだろ。火種を消すことはできないんだ。火事になってから消すこで精一杯さ。…まぁ、俺だって不安だよ。また大切な人を失うことになるかもしれないんだからな…」
「あら、その『大切な人』って、当然私も入ってるわよね?」
ローズマリーが詰め寄った。自分の部隊以外の隊員と関係を持つと拗れて面倒なので、現役の頃は避けていて気が付かなかったが、随分と整った顔立ちをしている。燃えるような赤毛、水晶のような蒼の瞳——こういうのは歳をとっても美しいタイプだと分かる。
「仲間としてなら、な」
「学校なんて青春の場なんだし、彼女になってあげてもいいのよ?」
「心に決めた人がいるんで、間に合ってる」
「初恋の女をいつまで引き摺ってるつもり?」
ローズマリーの言っていることは正しいが、どうも俺には納得できなかった。ユイナは確かに愛した人で、今でも愛しているが、恋愛感情があったかどうかは分からない。家族を持たない俺にとっての、唯一の家族だった——そんな一面が強いからだ。
「それを言ってしまえば貴女も、うちの隊長に執着してないで新しい男を見つけたらどうですか」
「ルナ———クロユリさんじゃない。お互い様でしょ?」
404とローズマリーは相性が悪い。現に、こうやってすぐ喧嘩になる。中でもルナリアはかなり酷い方だ。言葉遣いこそ丁寧だが、精神はかなり不安定、その様子は俺が彼女と再会した時を参照すればよく分かる。
「頼むから喧嘩しないでくれ。平穏に過ごしたいんだ」
「…隊長の言葉に免じて許します」
「ま、ジンがそう言うなら」
犬猿の仲というか、猫の多頭飼いというか…似ていて相容れない存在だ。そういう面ではマーガレットの方が酷いかもしれないが…
「そう言えば隊長——じゃなくてジン君、フェリシーから連絡がありましたよ?まだ確認されていないようですが…」
何だそれは。聞いていないぞ。
「ん?あぁ、こっちの端末か。使わないだろうと思って電源落としてたよ」
ダンジョン探索用のスマホと、日常用のものは分けているが、フェリシーは俺のことを考えて日常用のものには連絡先を登録しないようにしていた。ルナリアは小真面目に探索用端末をいつでも使えるようにしていたらしい。
「緊急の依頼?…こう言うのもアレなんだが、俺じゃないといけないのか?」
「フェリシーのことなので、行った方がいいですよ。ただごとでは無いでしょうし」
「先生には伝えといてあげるわ。行って来なさないな」
「感謝するよ」
俺はこっそり教室を抜け出した。
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